Save123 あの、お名前を……
「あの、お名前を……」
さっきから助けた冒険者NPCが後ろをついて回ってごちゃごちゃとうるさい。一応言っておくが、俺は名前を教えることをきっぱりと拒否したからな。それなのにこいつは俺に付きまとっている。迷惑なので早急にお帰りしろ。
そもそも、こいつは自分の名を名乗っていないのだ。何故俺から教えないといけないのか。さらに助けてもらった人に対してこいつは図々しすぎんだろ。AIの故障か欠陥か?
こいつを意図的に意識から排除して進むこと数分。俺は【始まりの森】の入り口に到着した。
ここはあの時とは違ってプレイヤーがそれなりにいる。十分に安全マージンを取っているので、ここで倒れる奴はいないだろう。
というか、【始まりの草原】でノーダメで勝てるようになるか一撃で倒せるようになったら、ここに来ても余裕で突破できるはずだ。
たとえレベリングさせてもらっていたプレイヤーでも、レベル差があれば勝てるので、あの頃じゃない限りここでの死亡者はほとんどいないだろう。……プレイヤーは、という制約が点くが。
「いやぁぁぁぁああああああああ!」
今も【始まりの街】で買われたのであろうNPCやガチャで出たのであろうNPCが、プレイヤーの盾として魔物と戦っている。
共闘している者は少なく、NPCの後ろからでも攻撃しているのはまだいい方。中にはNPCにだけ戦わせて自分は優雅にくつろいでいるやつさえいる。そして、そんなやつに限ってNPCの回復をしない。
これが今の低レベル層の実態、か。
俺もミカエル達を散々こき使っているが、回復しなかったりサポートしなかったことはない。
神殿を探させた時も、万が一の時のために備えて色々してあった。
カムイも共に戦っていた。事実、イシスとニケはカムイを信頼していたし、カムイも二人を信じて戦っていた。そうすることで、戦力的には大幅に強化できるからだ。
だが、ここにいるプレイヤーのように、自分は戦わずNPCに戦わせるやり方をしているやつは、いずれ倒れる。NPCが襲い掛かることはないだろうが、もし強敵と対面した時、そいつはNPCに戦闘を任せ傍観しているのだろう。
そして、流れ弾でHPを尽かす。いくらNPCとはいえ、自己学習型のAIを搭載しているのだ。戦闘技術は進歩するので、絶対にプレイヤーより強くなる。
それとさっきから例のあいつが俺の腕に腕を絡ませてくるんだが、どうすれば良いのだろうか。
「こ、この人たち鬼……?」
そう言えば、こいつは誰かとパーティーを組んでいたのではないだろうか。俺についてきちゃっていいの?
「なぁ、いい加減離れてくれないか。そして帰れ」
「そんな言い方しなくても……」
「お前、名前は?」
「教えたらお名前教えてもらえます?」
「やだ」
「じゃあ教えません」
「なら帰れ」
「い~や~で~す~」
「──【結界・〈侵入〉】」
「無詠唱で魔法!? もしかしてかなり強い方ですk──ふぎゃ!?」
魔法で強制的に弾き飛ばし、俺はすたすたと歩きはじめる。大声を出されたおかげで俺に多少注目が集まってしまった。
幸い、内容までは聞き取れなかったのか、何事もなかったかのように歩いていると注目は無くなった。
それから数分した後、俺は遂にカムイ達の所に着くことができた。えらく長い道のりだった……とあるNPCのせいで。
「や、やっと追いついた……はぁ、はぁ」
その悪魔の声は、俺の真後ろから。
何故ここがわかった。途中からマップにこいつがいることが丸分かりだったからコートの力を使って地味に浮遊しながら猛スピードでここまで来たのに。
「あ、キラ君。こんなところまで来てどうしたんです……か?」
ミライの声が段々と冷めていく……。目は据わっていくし体からは謎のオーラが噴き出している。髪の毛が逆立って変色できそうなほど気が高まっているようだ。
いやそんな悠長なことを言っている場合じゃないな、これ。
「キラ君? 私達では飽き足らず、遂にNPCにまで手を出したんですか……?」
「「……」」
ミライが俺に反応したことにより、カオリとサクラも俺に気付いたようだが、ミライの気に当てられたのか静かに後退していく。助けてくれてもいいんだよ?
「誤解だミライ。こいつは名も知らないNPCで、【始まりの草原】で倒れそうなのを助けただけで……」
「へぇ……キラ君は、名前も知らない人を助けるんですか~」
「待って。それの何がいけないのか俺さっぱりわからないのだが」
「問答無用です! ギルティ!」
「本当に待って! なんで俺こんなに怒られてんの!? カオリー! サクラー! ヘルプ、ミー!」
「ちょっと待ってください」
いよいよ俺がミライの謎理論によってギルティ判定され、その手に持っている杖で殴られそうになった時。たった一言。声が発せられた。それだけでミライは行動をやめ、カムイ達の魔物との戦闘で響いていた威勢のいい掛け声も、水を打ったように静かになる。
そして、その声を発した人物とは……
「私の名前はシエルと言います。その方は全く悪くありません。むしろ感謝しています。助けてもらったのですから」
「そうだよ何当たり前のこと言ってんの? んでこの惨状の元凶、全てお前にあるからな?」
「えぇ!?」
全ての元凶、皆ご存知アイツだった。
『えぇ!?』って……気付いてなかったのかよ。お前がこの場で一番の部外者で関係者だろ。




