Save117 普通の鉄の剣になっております
新しい場所での、初めての朝だ。流石高地なだけあって窓から差し込む朝日の量が今までと違う。ような気がする。
リビングに行き、今日の朝食も作ろうと思ったが、既に作ってあった。しかもみんな食べ始めてた。俺に対しての扱いひどくね? いつも待っててくれるよね?
それでも俺は何も言わずに朝食を食べ、皆に今日の予定を伝える。
「さて、今日はいよいよ【明誠の誓い】に乗り込む。最悪の事態を想定して準備しておいてくれ」
今日は【明誠の誓い】へと、ゲーム攻略のための交渉をしに行く日だ。最悪、戦闘になる可能性もあるため、各々が最善の準備をする必要がある。
そして数分後、準備を整え終わった俺達は、【オーネスト】に移動した。
【明誠の誓い】のギルドハウスはすぐにわかった。何故なら、転移水晶前広場に入り口が面していたらからだ。しかも建物自体の大きさも周りと比べて一回りほど大きいのも特徴だろう。
俺はそのドアをノックした。警備というか見張りがいないことが不思議だ。
普通はギルドハウスが攻撃されないように見張りを二人ほど外に配置しておくのだが。それをしないのは弱小ギルドくらいだろう。それか誰も攻撃してこないと思っているのか。
まぁ、最強のギルドに喧嘩売る馬鹿はいないか。
「……はい。どちら様で?」
俺がふとした疑問を自己解決していると、ドアがゆっくりと開き、一人のプレイヤーが出てきた。
全身革鎧に包まれ、腰には短めの片手剣があることから、こいつは剣士だろう。そしてこのギルド内では下っ端に位置するのではないだろうか。
がたいは俺よりもいいが、このゲームはステータスが全てなので俺よりは弱い。見た目の威圧感は俺よりも数倍大きいが。
「俺はキラだ。ギルドマスターに用がある」
「事前に連絡されましたか?」
「していないな」
「それでは面会できません。お引き取りください」
このやり取りどっかでした事あるぞ。モミジも覚えがあるのか少しばつの悪そうな顔をした。そこまで苦い思い出だっけあれ。
因みに今の俺達はあの時とは違ってちゃんと装備をつけている。
見た目だけなら駆け出しのように見える俺達だが、実はそう見えるようにブルーとレッドが加工してくれた全身オリハルコンなどの希少鉱石をふんだんに使った、最高クラスの防御力を持つ防具だったりする。
武器は普通の木刀。でも俺には【武神】があるから普通に攻撃できるし、ミライやカオリ、アンラは、今目の前にいるプレイヤーなら楽勝できる程の威力を出すため、あんま意味が無かったりする。
勿論見た目は駆け出しが使っていそうな普通の鉄の剣になっております。
「本当に少しだけなんだ」
「ダメです」
固いなぁ……。いい加減通してくれてもいいと思うけどな。モミジの時は簡単だったよ? カムイを呼べって……あ。
「ギルド【ゴッドギャラクシー】のギルドマスター、カムイの伝言を預かってる。だから通してもらえないだろうか」
「それならば私がお伝えします」
「極秘、と言われているんだが」
これならば通してくれるだろう。
「……確認してきますので少しお待ちください」
そう言って、ギルドハウスの中に引っ込んでいった。上手くいったぁ……!
数分後、俺達は中に通された。
ギルドハウスの中は、広々としていた。ギルドハウスはお金を払うことで中の広さを広くできるのだが、それをやっているギルドは多分ここだけだろう。俺達の所を抜いて。
俺達は、さっきのプレイヤーに案内され、四階にあるギルドマスタールームに向かった。
「ここです。それでは」
そこに到着すると、俺達を置いて階下に降りて行った。最後まではしてくれないのね。
目の前には重厚な扉が二枚あり、今までの薄そうなドアとは格が違う。
「さぁ、どんなやつがギルマスなのか楽しみだな」
小さくそう呟いて、俺は重厚な扉を二回ノックした。
「どうぞ」
すぐに返事が返ってきた。俺は両扉に両手をつけ、ゆっくりと力を込めて開けた。果たして、中にいるプレイヤーとは。
「さて、話を聞こうかね。極秘なことなのだろう?」
三十代半ばほどの、無精ひげを伸ばした荘厳な雰囲気を漂わせる男性プレイヤーの姿があった。
……幼女の椅子となっている男性プレイヤーの姿が。
は? え? どゆこと? 椅子? 幼女の? え……事案?
最初俺達に入室の許可を出したのは間違いなく下の男だろう。声からして。だが入室後俺達に話しかけてきたのは、上に座っている幼女の方だった。
てか絶対小学生だろ。そいつがギルドマスター? 最強の?
一応話をしようか。
「あれは嘘だ。俺達がここに来るためのな」
「え!? どーゆーこと!? あたちをだまちたの!?」
キャラ壊れてるぞ小学生。確信した。絶対一年生だ。入学祝かなんかで買ってもらったこれを遊んでたらこうなっちゃったのか……可哀そうに。
「ぁ……何故騙した? まさかこのギルドを敵に回したくて来たのではあるまいな?」
「普通にしゃべっていいぞ」
「ほんとに? ばかにちたりあたちのことちたにみたりちない?」
「しない」
「わかった!」
うん。小学生はやっぱり最高だな! なんていうかこう……っ! 可愛さで溢れてるよな!
「要件を言うから早くそこを退いてくれ俺はそこの椅子になってる人と話したい」
「どうちてはやくちになったの?」
ミライから侮蔑の視線を貰ってるからだよ!




