Save109 押してダメなら引いてみろ作戦
「もし俺がどうしてもそいつが良い、なんて言ったらどうする？」
「何故そんなに執着するのかを聞きたいね」
「だって獣人族じゃん」
「それが、それだけが理由？ 本当に？」
いやマジでそれだけなんだって。せっかくなら全種族コンプしたいじゃん？
「ならほかの獣人族の女の子を探してあげようか？」
「いまさら新しいプレイヤー？ 論外だろ。近くに俺達を知ってる獣人族がいるならそいつでいいだろ？ しかも全く知らない俺達のパーティーに無関係のプレイヤー入れるとか可哀そうすぎるだろ」
「あの、それならボクはどうなんですかね？ 多少は知ってますけどほぼ無知に近いしこの件私無関係──」
「とりあえず本人に意見を聞いてから俺達と同行させよう」
「ボクのセリフを遮らないでく──」
「モミジの意見を聞いてから決めるってことだね」
「カムイさんも私の発言無視ですか泣きますよ！？ てか既に泣く一秒前ですよっ！？」
カムイの確認に、俺は目を見つめ返すことで返事をする。
そう言えばなんか俺とカムイ以外の声がするなと思ってたら部屋の隅で泣いているボクっ娘が一人。
それ以外は仏のような顔で俺に恐怖感を与える美少女が一人。そろそろ喋ってくれないと俺も恐怖心から今すぐ帰りたくなる
「モミジ、君はキラ達と一緒に攻略するかい？」
「するわけないです！ ボクはカムイさんのパーティーで攻略します！」
「よし、意見を聞いたな。じゃ、俺はこいつを連れて帰るから。またな～」
「なっ！？」
何やら驚いた様子のカムイ達を傍目に、俺は魔法で帰ろうとする。ま、カムイに止められるだろうけどな。
「キラはちゃんとモミジの意見を聞いていたのか！？」
「聞いていたぞ？ 俺達とは行きたくないんだろ？」
「ならどうしてっ！」
「カムイこそ俺の言ったこと覚えてるか？」
「『本人の意見を聞いてからキラ達に同行させる』だろう？ それで僕が『モミジの意見を聞いてからどうするか決める』とキラに確認したじゃないか」
「それを俺は肯定したか？」
「ッ……して、ない」
「さらに俺は意見を聞いてどうするかではなく、意見を聞いたうえで同行させる、と言った」
どうだこの言葉遊びは！ 渾身の出来である。余は満足じゃ。
「じゃ、じゃあ私は、どっちみちこの人たちと同行するん、ですか？」
「ん？ 別にしなくてもいいよ？」
「「は？」」
「俺が単に獣人族が【種族転生】したらどんな効果があるのか知りたかっただけで、それをするためにレベル上げしないとだろ？ だから俺達と同行しろって言ってただけ。別にどうしてもって訳じゃないから」
嘘だよ！ どうしても獣人族が欲しいよ！ 理由は特にないけどな！
「なら、キラ達が僕たちのギルドに入れば……」
「何言ってんだ？ どうして俺達がそっちのギルドに入らないといけないんだよ」
「だってそうすれば……」
「まぁどうせ？ 俺達を自分のギルドに入れて戦力を拡大し、共闘戦でも優位に立とう、とか考えててもおかしくないが。お前の場合、両方が得をする手はこれしかない、とか思って提案したんだろ？ 答えは決まっているが、あえて言おう。ノーだ」
カムイがそんなに考えているわけがない。はずだ。多分、きっと、恐らく。
「だから、ま。カムイのギルドに、俺達が力を貸してやるよ。ほんの少しだけどな」
「……ありがとう」
「そういう訳でモミジ貰っていくね♪」
「へ？ 今のは何もしないで帰る場面では？」
「なんで？」
「だってボクに同行しなくてもいい、と言ったじゃないですか」
「しなくてもいい、だ。別にしてもいいわけだろ？」
「いやそれって普通自分で決めますよねなんであなたが決めてるんですか」
むぅ。揺れないなぁ。
「おいしいご飯、あるぞ？」
「今のご飯で十分です」
「新しい強力な武器、あげるよ？」
「……今の武器で十分です」
お、揺れた？
「ガチャも引けるよ？」
「…………別にそこまでガチャが引きたい訳じゃないので」
揺れてるよね？ これはあともう少しだろ。
「毎日お風呂入れるよ？ 何時間でも」
「………………」
迷ってるな？ ふふふ……これは押してダメなら引いてみろ作戦に移行だな！ これは勝つる！
「ま、これだけメリットを提示してもついてこないと言うなら、別にいいけどな」
「行きます！ 是非同行させてください！」
「よし言質取ったからな！？」
「どんどん取ってください！」
お、おぉ……なんか吹っ切れたようだな。何からなのかは知らんが。それと少し壊れ始めた？ 具体的にはミライみたいな？
──ミライに睨まれたんだが。少し、いやかなり怖かった。
「じゃあ僕もキラに同行しようかな？」
「カムイはこのギルドがあるだろーが！ そもそも男はお断りだ！」
その後も俺とカムイのついて行くついてくんなの言い合いが続いた。
そして、いつの間にかいなくなっていたミライとモミジは、ミライが敵を圧倒しながら【オーネスト】に向かい、家でモミジちゃん歓迎会を開いていたらしい。それほどまでにカムイがしつこかった。
やっぱりカムイが一番面倒臭いな、と思いました。
家に帰った俺は、歓迎会のあと片付けをさせられ、一人で風呂に入り、夜寝ている間にミライが部屋に入ってきて襲われて、朝を迎えた。……ほとんど寝てねぇ。
因みに、俺が片付けなどをしている時女子は全員女子会してたんだとさ。議題は俺について。
なんかミライとかカオリとかアンラが赤裸々に語っていたらしい。あとでミライ以外の二人には【電撃】でもご褒美として進呈しようと思う。特別に威力マシマシで。
