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Save103 チェス

 あれからしばらくして、朝起きた俺の視界には、一通の新着メールが来たことを表すアイコンが光っていた。

 空中を指ではじきメニューを表示させ、そこでメールを開く。そこには、このゲームの追加要素が書かれていた。


————————————————————

【【Another World・Online】追加要素】

 このゲームで遊んでいる皆さん。楽しんでいただけているでしょうか。

 さて、この度このゲームに新しくミニゲームを追加いたしました。ガチャの他、鍛冶師の職の方が造ることが可能です。


『追加されたゲーム一覧』

 将棋

 チェス

 人生遊戯

  ・

  ・

  ・


『追加されたアイテム』

 将棋駒

 将棋盤各種

 チェス駒

 チェス盤

 双六盤

 賽子

 トランプ

  ・

  ・

  ・


————————————————————


 どうやら沢山のゲームが追加されたらしい。これがミニゲームか。普通にゲームだろとツッコむのは野暮だろうか?


「「じゃじゃーん! 早速作ってみました!」」


 リビングに降りて挨拶を交わした直後、ブルーとレッドの元気な声が響いた。その手には将棋盤と将棋駒。チェス盤にチェス駒が乗っていた。将棋盤の上にはトランプなども乗っている。


「「とりあえず追加されたものは作っておきました! 材料は全て木ですけど」」


 その言葉通り、将棋盤や将棋駒は良いとして、チェス盤は綺麗な木目が浮き出ており、チェス駒は流麗な木の線が何本も入っていた。

驚きなのがトランプで、触ってみると確かに木だとわかる。固い、けれども柔らかさがあり、薄いのにもかかわらずかなりのしなやかさを持っている。


「折角ですし何かしましょうか」

「じゃあ私チェス希望! 対戦相手はキラよ! いつも私をバカにしてくるからここでギャフンと言わせてみせるわ!」

「ギャフンなんていう奴いないだろ」


 てか折角やるならトランプとか双六とかみんなで出来るやつだろ。


「私は構いませんよ?」

「……いい」

「良いんじゃない?」

「「何でもオッケーです!」」


 いいのかよ。


「私達も遊びましょうか。ルールは簡単。チップを掛けて一番正解に近かった人の勝利で、チップは総取りです」

「良いね! 乗った!」

「……わかた」

「「わかりました!」」


 ミライ達は何も使わないで遊ぶみたいだ。今までがそうだったから別に今更感があるだけで驚くことはない。


「賭けの内容は『カオリがいつ詰むか』です! あ、キラ君。どっちが先手ですか?」

「え? カオリだけど」


 え、俺達、ていうかカオリを使って遊ぶの? まぁ、賭けって言ってる時点でそうだとは思ってたけどさ。カオリが負ける前提なのね。カオリ落ち込んでるぞ。


「……28手」

「ん~45手目に自爆で!」

「「43手!!」」

「じゃあ私は11手にしようかな♪」


 ……いくら何でもそんなに早く終わるわけなくね? カオリ馬鹿にしすぎじゃね?

 ミライ達の賭けに心を抉られたのかカオリが涙目で俺を睨む。何故俺。


 カオリはやけくそ気味に白のポーンを掴み、バチンと音を立てて盤上に置いた。場所は、d3。クイーンの前のポーンを、一つだけ前進させる手だ。

 それに対し俺はe6へとポーンを移動させる。それ見たカオリは即座にd4に駒を進めた。通常なら一手で行けるはずなのに二手も使って、つまり一手損している。それだけ俺に勝てると自信があるのだろうか。


「……」


 ちらりとカオリを見ると、いつもは見られないほど集中している。顔を真っ赤にさせながら意識を盤上に向け、必死に熟考し先へ先へと手を読んでいる、ように見える。顔が赤くなっているのも知恵熱のせいだろう。


 俺はカオリが差してから一拍置いて、b4にビショップを打ち込んだ。チェックだ。

 カオリは待ってましたとばかりに勢いよく駒を掴むと、初手と同じように甲高い音を響かせて盤上に打ち付けた。それは、その手は。俺も、ミライも、アンラも、ブルーも、レッドも、その場にいた全員が驚くような手で。

 カオリが浮かべている「この手が来るとは思っていなかったでしょう?」という考えが筒抜けな表情が、まさしくその通りだと、俺達に思わせるのには十分すぎる手だった。

 果たして、その手とは。


「え、Ng3……ッ!?」


 Ng3。右側にあるナイトを上にあげるその手。その手は、チェックを受ける手ではなく。それが意味することはすなわち───


「どう? 以外な手でしょう?」

「カオリ……お前の負けだ」

「へ?」


 ま、まさか本当に気づいてなかったのか!?


「カオリ……駒の動き知ってる?」

「も、勿論じゃない!」

「ならもっとよく盤面見てみろ」

「え?…………あ」

「わかったか?」

「チェック、かかってたのね……」


 やっとわかったか。


「ふ、ふん! キラと戦ったにしては上々の結果じゃないかしら!?」

「じゃあ次は私が対局したいです!」

「わかった。受けて立とう!」


 俺とミライの目にめらめらと燃える炎が燈り、戦意を漲らせる。……その横でサクラが白のキングを黒のビショップで刈り取り、いつの間に印刷したのかブルーとレッドが今の対局の棋譜を机の上に置いた。


———————————

1.d3   e6

2.d4   Bb4+

3.Ng3#

———————————


 そこに記されているのは、俺とカオリの対局の悲しすぎる棋譜だった。カオリはさらにダメージを受けた。

 それから俺とミライの対局。ミライが先手で俺が後手。112手に及ぶ激闘だった。対局が終わったと同時に俺達はしばらくの間“頭痛が痛い”状態だった。真面目に。


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