Save97 ならもう少し慌てようよ
「参ったよ。強すぎないか?」
カムイのギルドハウスに戻り、俺達は雑談を始める。あまり高級そうではないソファに腰かけ、俺達とカムイが対面する。
テーブルにはかすかに湯気が昇る紅茶が置かれ、隣には少しくすんだ色をしたティーカップ。
「そう思うだろ? でもミライの半分の強さはないといけないんだぞ?」
「なんで半分なんだい?」
「諸事情故に、だ。どうしても教えなければいけない時が来たら教えるか考えよう」
言ってもいいけど。どうせ取得できないスキルだし。
「それで、どうして僕のギルドに?」
「暇だったから」
「……それだけ?」
「それだけ」
「それじゃあ僕は、暇つぶしに為に女の子に一方的にやられたのかい?」
「そうだな」
一言でまとめられるほど呆気ない勝利だったからな。完封勝利。手も足も出ないとはまさにこの事。
「それじゃあ、僕から一つ聞いてもいいかな?」
「どうぞ?」
「キラは何をしようとしている?」
カムイは膝に肘を乗せ、声を潜めながら問うた。いや、そんなに内緒なことじゃないから深刻そうな顔しなくてもいいよ?
「【種族転生】」
「【種族転生】? もうそんなことができるのか?」
「まだ未確定だけどな。今NPCを使って神殿を捜索中だ」
「神殿?」
「そ。【種族転生】をする場所としてかなり可能性が高い場所。ソースは【オーネスト】にある図書館」
ミライがいつの間にか調べていたんだよな。
「それに僕たちも付いて行くことは?」
「わからない。まず【種族転生】をするための条件すらわからないんだ。もしカムイ達でもできそうなら連れて行ってやることもない事も無いが」
「無いが……?」
「相応の対価を要求する」
「わかった。いくら用意すればいい?」
「金は要らん」
もう十分すぎるし。逆にあげたいくらいだよ。
「じゃあ、何が望みなんだい?」
「うーん、特にないかな。とりあえず一回見てくるから、それまで自由にしておいていいぞ。それと、次来る時は面倒なことにするなよ」
ボクっ娘をちらっと見る。あ、視線逸らした。ふむ、次来るときは意地悪してみようか。
カムイ達と別れ、俺達は【始まりの街】を散策することにした。まずは冒険者ギルド。このゲームに入ってから始めてきた場所だ。
「懐かしいねー。裏に闘技場があるなんて知らなかったよ」
「大体の冒険者ギルドの裏には闘技場があるな。別ディメンション設定だからこっちからじゃ見えないけど」
冒険者ギルドに限らず、ほとんどの建物の中が別ディメンションだ。だから外見よりも中が大きくなる。俺達のは大きすぎだが。
「あれ? キラさんですか? どうしてまたここへ?」
冒険者ギルドの中を見回していると、一人の女性が話しかけてきた。誰だっけ。どっかで見たことがあるんだよな……
「えっと、誰?」
「忘れちゃったんですか……?」
正直にわからないと言うと、その女性は瞳に涙を浮かべた。何故泣く?
「私、あなたの初めての人ですよ……? 私も初めてでしたが……」
「キラ君?」
「いやミライこれは違うんだ俺は何も悪くない」
こいつなんでそんな言い方するの? 何か恨みでもあるの? てか思い出したぞ。こいつは俺達の冒険者登録を担当した受付嬢だろ。俺達が初めてだったのかよ。確か名前は……
「アーシャさんだよね?」
「そうです。覚えていてくれましたか?」
俺よりも先にアンラが答えた。よく覚えてたな……俺は覚えてなかったぞ。だって一回しか会ってないもん。魔物を売るときは違う受付嬢だったし。
「それよりですね、大変なんです」
アーシャは慌てることなく言った。本当に大変なのか?
「【龍神山】の方から魔物が押し寄せているようです。説明しますと、このゲームは一ヶ所に一定以上の魔物が出現すると何体かが外に出ます。それからはどうなるかはランダムです。今回はスタンピードのようですね」
本当に大変なことだった。ならもう少し慌てようよ。
「数は?」
「さぁ?」
「はぁ?」
知らんのかい。てかここに居たら次の街にいるプレイヤーが危ないな。
「あとどれくらいで被害が出る?」
「【ポートタウン】に着くまで後5分ほどです」
「わかった。ミライ、行くぞ。カオリ達はここで待機。何かあったら連絡くれ」
「わかったわ」
「……いってら」
「三分で帰ってきてね!」
「「三十秒に変更で!」」
「それはきついかな」
ミライと手をつなぎ、【転移】を使う。浮遊感が俺を襲い、視界が白く染まる。次の瞬間には【ポートタウン】に着いている。
「急ぐぞ!」
「はい!」
そこから【荒れ果て荒野】に続く門へと走り、【荒れ果て荒野】へと向かう。絶対にあふれるとしたらあそこだ。果たして、そこにあったのは……
「な、んだよ……これ」
「こ、これは……」
【荒れ果て荒野】の一つ前のエリアに着いた俺達は、その場の光景に言葉を失った。
大地が穿たれ至る所にクレーターができ、轟々と火の手が上がっている。空は赤く染まり、煤のせいで所々黒くなっていた。響きわたるのは轟音で、魔物の鳴き声ではない。
すると、突然空が輝いた。驚き空を見上げると、一つの影が。刹那、衝撃。その影の周囲から、地に向かって光のレーザーが発射された。そのレーザーは地面を貫き、大地を陥没させる。まさしく神の裁きとでもいうような光景だった。
レーザーが消えたそこには、先ほどまでいた魔物はおろか、木々など全てが消え去っていた。ここをこのような状態にしたのは、こいつのせいで間違いがない。俺とミライはそう確信した。




