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Save96 攻撃時は最大の攻撃時

「キラに迷惑をかけたかな。ごめんね」

「迷惑だった。だから一つお願いを聞いて欲しい」

「命令の間違いじゃない?」

「いいや? お願い」


 ボクっ娘がギルドハウスの奥に消えてから一分も経たないうちにカムイは現れた。早すぎだろ。カムイの斜め後ろにはそのボクっ娘がいる。心なしさっきより小さくなっているような気がする。


「それで、どんなお願い何だい?」

「ミライが戦いたいらしいから戦ってくれ」

「え、でも職が違うじゃないか。後衛職に前衛職が一対一で負けるわけがないよ。それでもやるの? 負け確のゲームに?」

「はい。お相手よろしくお願いします」


 ミライは燃え盛る炎を宿した瞳でカムイを見た。闇属性魔法の幻術系魔法を使ったのだろう。本当に炎が見える。

 ……俺へ向かってくるピンク色をしたハートは俺には見えないということにしよう。他の皆には本当に見えていないらしい。どこでこんな技術習ったんだよ……。


 そして、場所が移り、【始まりの街】にある冒険者ギルドの裏手、そこに建てられている闘技場を使って模擬戦をすることになった。

 観客は入れないつもりだったが、どこからか情報が洩れてしまい、ギルドメンバー以外のプレイヤーも観戦できるようになってしまった。

 

 単に遊びたい奴らなんかは賭けまでしている。事前情報は職のみ公開なのでそれしか知らない。なのでミライの方がオッズは高い。勿論俺はミライに賭けた。ま、金は要らないんだけどな。

 他にはカムイのギルドメンバーや他のギルドのプレイヤー。こちらはカムイを応援している。結構に有名なんだな。カムイって。


「手加減はしないからね」

「私はしますよ?」

「全力で戦おうよ」

「まぁ、いいですよ」


 闘技場の中央で、数メートル離れた両者が言葉を投げかけ合う。すると、闘技場内に居るプレイヤー全員のウィンドウに、タイマーが出現した。これは開始までのカウントダウンだ。







「──【水球幕(フルウォーターボール)】!」


 カウントダウンがゼロになると同時に、ミライは魔法を発動した。【水球幕】はその名の通り初級魔法である【水球(ウォーターボール)】を弾幕上に打ち出す魔法だ。

 カムイは後ろに跳び回避する。先ほどまでカムイがいた位置に魔法が直撃し、砂埃を巻き起こす。


「──【(レイン)】!」


 巻き起こった砂埃を、雨を降らすことで強制的に地に落とし、視界を確保する。


「奥義【擦違い】」


 砂埃が無くなった丁度その時、今度はカムイの反撃だった。

 【居合】と【縮地】を合わせた初見必死の奥義だ。それがミライへと襲い掛かる。しかし、当のミライは全く動かない。

 反応できていないと捉えたのかカムイはミライをよく見ずに攻撃をしようとする。『攻撃時は最大の攻撃時』とは俺の言葉(パクリスペクト)だが、今がそれだ。

 

「──【結界(バリア)・〈侵入(インター)〉】!──【土の檻(アース・プリズン)】!──【大地の楔(グラウンド・ウェッジ)】!」


 【結界・〈侵入〉】でカムイからの攻撃を防ぐ。そして、一瞬の硬直を見逃さず、すかさず【土の檻】でカムイの行動範囲を狭め、さらに脱出できないように【大地の楔】で固定する。

 特に【大地の楔】は中級魔法だから今のカムイでは解くまでに時間がかかるだろう。強くなれば二秒もかからず解けるようになる。ステータスにもよるが、レジストさえできるはずだ。


 行動を強奪されたカムイは、必死に魔法を解こうとしている。しかし、無意味だ。カムイでは解けなし、圧倒的なレベル差まである。

 俺が上げたレベルだとしても、自分で得た経験値は無いにしても、レベルの差、ステータスの差は絶対だ。今のカムイでは敵わない。

 そして、ミライは初めて魔法以外の言葉を口にした。


「それがカムイ君の全力ですか?」


 カムイは全力でやったはずだ。動きの遅い後衛職に、俊敏な動きをする奥義を使用する。それも初見必死のやつを。でもミライは一度俺に使われたのを見ていた。なので対処は簡単だ。避けるか弾くか守ればいいのだから。


 それができたのであれば、それからの行動はさっきやった通り。簡単に苦手職を攻略できる。

 ただ、これは全てレベル差があってこそだ。それがなければミライは反応する事すらできずに一方的に攻撃を受ける。


「では、少し早い気がしますが終わらせましょうか──【炎滅(ファイナルフレア)】」


 ミライのかざした手から真紅の火球が放たれ、カムイに当たる。カムイは声にならない悲鳴を上げながらHPを減らしていき、遂に、尽きた。

 ウィンドウに『Winner・ミライ』と表示された。あっという間の勝負だった。


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