Save94 ありがたやありがたや
風呂から上がり、火照った体を冷やすように窓際へ向かった。空には星が煌めき、漆黒の夜空を彩っている。
「次は私たちが入ってくるわね」
そう言ってカオリがサクラとブルーとレッドを引き連れ風呂場へと向かう。残されたのは既に入った俺とミライとアンラだけだ。
特に話すこともなく、各々が作業をしてカオリたちが上がってくるのを待った。
「で、これからどうするのよ? 【種族転生】をするのは決まりとして、その後」
風呂から上がってきたカオリの第一声がそれだった。
「まだ決まってない。どこか行きたいところでもあるのか?」
「あんまりなけど、もしかしたら【種族転生】をすることがトリガーとなって新しいところに行けるようになってるかも」
アンラがかなりありそうな仮定を話す。確かに、【種族転生】したことによって行ける範囲が広がるということはありそうだ。
「それにさ、もし何も無くても例えば魔王を倒すとか、ギルドクエストをやってみるとかたくさんやることは残ってるよ」
「そう考えるとかなりいいゲームだよな、これ」
ストーリーは無いがボリュームがあるし、スキル量も豊富。クエストの数も種類も豊富で、スキルの数も数えきれないほど。
レベルを上げれば生存率が大幅に上がり、無茶をしなければ普通にゲームを楽しめる状態だ。このゲームを作った奴を神と称してもいい程に整っている。
「もしそれらをやるとした場合、アンラ達はどうする? あの家は使ってもいいが、俺達と一緒に行動するのか?」
「う~ん、どうしようかな」
アンラは腕を組み考え込んだ。どうせその体勢のまま寝てしまうだろう。アンラだし。
と、言うことで。
「さ、これからの事は明日考えて、今日はもう寝るか!」
「そうね。そうしましょうか」
アンラを魔法で浮かせてベッドの上まで運ぶ。真ん中かな。こいつ寝相のせいで絶対端だと落ちるし。で、アンラを挟むような感じで左側にブルーとレッド、反対側にカオリとサクラが寝転ぶ。
「キラとミライは?」
「まだ寝ないから、先に寝てて。多分カオリとサクラの間にミライをツッコむ」
「わかったわ。おやすみ」
「……おやす、み」
「あぁ、おやすみ。カオリ、サクラ」
カオリとサクラが目を瞑り、睡眠体勢に入った。かすかに口角が上がって見えるのは、気のせいだろうか。
ミライは、先ほどまで俺が座っていた窓際の椅子に座っていた。室内の照明は全て消している為、空から差す優しき月光にミライが美しく照らされている。
「キラ君……」
その月光のお陰か、その口から発せられる言の葉も、鈴のような綺麗な感じがする。
「お風呂の時のお話ですけど。私は、お母さんやお父さんに会いたいです。一緒に笑い合いたいし、一緒にテレビを見たりとかもしたいです」
ミライが告げるのは、風呂場で俺達が話した内容。両親に会いたいかという答えの分かりきった質問の、答えの続きが、紡がれる。
「キラ君。私、怖いです。死んでしまうのではないかって。キラ君のそばにいれば安全ですが、絶対とは言い切れません。だから自衛の手段くらい持っておきたいです。協力してくれますか?」
ミライから発せられた言葉は、しっかりと俺の耳に届いた。
ミライを強くさせるか? 当たり前だ。少しでも死亡率が低くなるのならば身を粉にしてミライに指導する。と言っても緊急事態時の対応方法やPSが上達するようなことだけだが。
「ありがとうございます。一生懸命頑張ります」
ミライはそう言った。これが、俺の問いに対する答えなのだろうか。
俺は、まだ何か隠していると感じた。だが、深追いはしない。ミライが言わないということは、言いたくないことだ、ならば聞くなんてことはしない。もし話してくれる日が来るのならば、その日を待つだけだ。
「寝ましょうか」
「そうだな」
俺達は一緒にカオリたちが寝ているベッドに潜った。カオリたちの体温のお陰で温かい。ふと隣を見ると、ミライ達は既に夢の中に旅立っていった。……俺、ベッドから落ちそうなほど端にいるんだけど、どうしよう。落ちる。
あ、カオリが向こうから押してる。あとで【電撃】かな。久しぶりだから威力手加減できないかもなぁ。
あ、押されなくなった。しかもサクラとミライも協力して俺が寝るスペースを開けてくれてる。ありがたやありがたや。
でも、なんでさっきとは正反対の行動をしているのだろう。不思議だ。カオリの顔が微妙に引き攣っているように見えるのも不思議だ。
今日だけで二つも不思議を見つけてしまった。明日カオリが起きたら聞いてみよう。




