Save93 正直者ですね!
「で? なんで入ってきたんだよ?」
アンラは氷柱を宙に浮かせ、先端を俺に向けながら風呂に入ってきた。何もしねーよ。
お互いの背中に自分の背中を合わせ、反対方向を向いてアンラに問う。
「あのさ、おにぃは、パパとママに会いたいと思わないの?」
俺の問いに対してのアンラの答えは、それだった。
父さんと母さんに会いたいか? もちろん会いたいに決まってる。心配もかけてるだろうし。だから少しでも心配を軽減させようとアンラをログアウトさせようと思ったのに。
「私だけ帰っても心配なのは変わらないよ。だから、おにぃも一緒に帰らないと」
「アンラ──瑚白は会いたいか?」
「当たり前じゃん」
「じゃあ、他のプレイヤーを放っておいてクリアするか?」
「やだよ。できるだけ死んじゃう人は少なくしたいもん。だから、私たちがクリアするのは一番最後」
「ならカムイのところに入ればよかったんじゃ」
「やだよ死にたくないもん。ここの方が安全じゃん?」
「ま、気が向いたらカムイをからかいに行くか」
「……そうだね」
アンラは俺が言いたいことを察したのだろう。少し返答までに時間があった。
「さてっ! 私もう上がるね。……こっち見ないでよ?」
「見ないって。誰が妹の裸見て喜ぶんだよ」
「キラ」
「いやねーよ。俺はアンラの裸を見ても喜ばないし、ましてや興奮するなんてありえない」
「何だろう。当たり前の事なのに凄く悔しい」
アンラはそう言うと、さっさと風呂から出て行った。
「さて、アンラが出たら俺も上がるか」
今行ったら俺どうなるかわからない。抵抗させてもらえずに瀕死になるのは確実だろう。マジ理不尽。
「キラくーん!」
「なんで来るかなぁ……」
早く上がりたいのだが。そろそろのぼせるよ? それとタオル付けよう?
「それで、アンラちゃんとは何を話したのですか?」
ミライは俺の真正面に座った。もう何も考えない。てか頭がクラクラする。ヤバいかも……
「──【状態異常回復】」
ミライに回復された。のぼせって状態異常扱いなんだ。
「親に会いたいかって聞かれたよ」
ミライの嘘をついても仕方がないので、正直に話す。
「俺は勿論会いたいって答えた」
「なら、帰ればよかったのではないですか?」
「ミライが残されたままだろ。それは嫌だったから、アンラに帰ってもらう予定だったんだ。ま、無理だったけどな」
「アンラちゃんも会いたいと言っていたのですか?」
「言ってたよ」
「じゃあ今すぐ……」
「無駄な犠牲者を出したくない、とも言ってた。死にたくないとも。だからカムイじゃなくて生存率が高くて他のプレイヤーを救える可能性が高い俺のところに今は居る。もしカムイの方が安全になったらそっちに行くだろう」
「そうですか……」
ミライはそれ以降少しの間言葉を発さなかった。何か考えているのだろう。
「キラ君は、どう思いますか? アンラちゃんの考え」
やっと言葉を発したミライの口から出てきたのは、そんな言葉だった。
「俺は良いと思うぞ。ただ、俺はアンラほど善人じゃないから、救えるのならば救う。それだけだ。態々他のプレイヤーの事まで考えるつもりはない。俺が守らないといけないと思うのは、ミライ、カオリ、サクラ、アンラ、ブルー、レッド。この六人だけだ。最悪他のプレイヤーはどうなってもいい」
「それは……嬉しいですけど、嬉しくありません。私は、守ってもらっている立場から言うのもあれですが、せめて他のプレイヤーのことくらい考えていて欲しいです」
「他のプレイヤーのこと、か……あぁ、そうだ。アンラには言ったけど、暇を見つけたらカムイをからかいに行こうと思う。一緒に行くか?」
「はい! 勿論一緒に行かせてください!」
流石ミライだな。逡巡すらなく即答してくれた。どうせ俺が言いたいこともわかっているのだろう。ミライの凄さはPSとかじゃないよな。本当にミライには脱帽だよ。
「さて、上がりましょうか」
「その前に、一つだけ聞かせてくれ」
「はい? 何ですか?」
「ミライは、親に会いたいと思うか?」
「……当たり前じゃないですか。たまに夢でお母さんが出てきたときなんかは朝起きた時に泣いていましたよ。でも、私もアンラちゃんと同じで、私だけ助かろうとは思いません。一人でも救えるのであれば、救いたいと思います。キラ君も協力してもらいますからね?」
「最愛の人に言われたんじゃ、断れないよな」
「最愛だなんて、もうっ! 正直者ですね!」
「じゃ、聞きたいことも聞けたし上がるか」
「体拭きましょうか?」
「自分で拭けるから大丈夫」
今度は誰の邪魔もなく風呂から上がることができた。
……ミライがどうしても俺の身体を拭きたがって面倒臭くなってたけど、何故か表示されない【スルー】というスキルを使って受け流していた。
なんで表示されないんだろうな。多分レベル最大になってるはずなのに。




