特別編 ~七夕~
────七月七日。それは、とある夫婦が年に一度だけ会える、特別な日。
昔々のまた昔、さらに昔の物語。天に住む織姫に、貧相な農夫が、恋をした────
朝、目が覚めると、このようなウィンドウが表示された。そっか。今日は七夕だっけ。でも俺が知ってる『織姫と彦星』の話と違うような?
「キラ君、おはようございます。七夕のお話はもう読みましたか?」
「お、おはよう、ミライ。今起きたところだからまだ読んでないよ」
「なんでですか早く読んでください感動しますよ!」
俺寝起きって言ったよな?
「わかった。わかったから俺の上からどいて」
このテンションだと俺の上に跨りながら跳ねたりしそうなので、そうなる前に降りてもらう。
するとミライはベッドに寝ている俺の腰付近のベッドの端にちょこんと座った。読み終わるまでいるつもりだろうか。
────数分後。物語を読み終わった俺は、リビングへ行き、カオリとサクラを交えた四人で話していた。
「そういえば今日は七夕だったわね。すっかり忘れてたわ」
「……同じく」
二人とも朝のあれを見るまで忘れてたのか。一年に一度だけなんだから忘れずにしっかり覚えておけよ。ブーメラン? 知らない言葉ですね。
「みんなはどういう願い事をしますか? ゲームの中なので効果はなさそうですが」
「それは後で良くないか? 折角の七夕なんだ。短冊を書こう。それは吊るすときに聞けばいいだろ?」
「笹はどうするのよ?」
「──【自然の力】」
笹くらいの植物なら、俺の魔法で出せる。クレアシオンに創ってもらおうかと考えたが、いちいち戦うのが面倒なのでこっちにした。MP消費量が半端ない。もう回復したけど。
「笹もできたし、早速短冊に願い事を書きましょ!」
「おー!」
「……おー」
そして、時は流れ今はその日の夜。庭に出た俺達を出迎えたのは夜空に燦燦と輝く沢山の星々だった。雲一つなく、その満天の星空は圧巻で、綺麗に天の川も見えている。
俺は庭に笹を刺し、自分で書いた短冊を吊るす。すると俺に続いてミライ、カオリ、サクラの順で短冊を吊るしていった。
「カオリ、どんなことを書いたんですか?」
「え? 無難に『ゲームがクリアできますように』って書いたけど?」
「なぁんだ。つまらないですね~」
「人の願い事をつまらないなんて言わないで欲しいわね。大体、サクラだって同じようなことを書いてるわよ」
「そうなんですか、サクラちゃん」
「……違う」
「違うの!?」
「ほら言ったじゃないですか」
「私にはミライがそう言った記憶がないのだけれど」
カオリ、大丈夫だ。俺にもない。そもそも、カオリの願い事はつまらなくなんかない。いい願い事だ。ゲーマーとして。
「……『PS上達』」
「へ~、サクラはそう書いたのね。いいじゃない」
PSがないわけじゃないだろうけど、あって困るものじゃないし、いい願い事だと思う。
「最後はミライよ。なんて書いたの?」
「勿論、『キラ君との愛がもっと深まりますように!』って書きましたよ?」
「ぶれないわね、ミライは」
ちらっと短冊の方を見ると、本当にそう書いてあった。いやじゃないけど、ちょっと恥ずかしい。
それと、その裏にも願い事が書いてあって、しっかり読めてしまったけど、多分言ってしまうとミライに非難の視線を貰い、さらに照れそうだから、言わないでおこう。是非想像してくれ。
因みに、俺の願い事は『みんなが笑顔でいれますように』だ。はいそこ。俺らしくないとか言わない。
その後は、皆で星を見ながら晩御飯を食べて、寝た。
────『皆ずっと一緒で、仲良くいれますように』─────────