殺人鬼は?
今回は飛鳥 勇目線のみです。
俺は来辺岬へ向かって車を走らせている。今起こっている連続殺人事件を終わらせるために。
俺が東の家に到着したとき、東は首を吊って死んでいた。
その後の調べで、連続殺人事件の犯人とバレそうなことを苦にしての自殺という結論が出された。だが、俺はそれに納得していなかった。連続殺人事件の中には、奴のアリバイがある事件もあるのだ。本部では最後の事件と同じようにアリバイ工作があったのだろうという見解らしいが、未だ検討はついていない。
記者会見こそ行っていないが、犯人死亡の情報が漏れるのは時間の問題だろう。上としては一刻も早く記者会見したいようだが、この事件は証拠が不十分すぎる。
俺は、この事件にはもう一人別の犯人がいると思っている。
東は自分の管轄で起こった連続殺人事件に便乗して、自分の殺人を行った。そして、その犯人に殺された。俺はそう考えている。
そう考えたとき、俺は一つの違和感に気が付いた。
連続殺人事件を調べていた探偵と話したときのかすかな違和感。根拠も証拠もない。でも、彼女が犯人だと腑に落ちることもある。
俺はそう考えて彼女に連絡した。彼女は電話に出なかったが、しばらくしてからメールが来た。
来辺岬で待っています。二人きりで話し合いましょう。
タイトルはなく。本文はその一行のみ。本当に本人からのメールかもわからない。本当に向こうが一人で来るかもわからない。
それでも、俺は彼女を信じて一人で向かった。
そして今、長く暗い道を俺は走っている。木々が多い茂り空は見えず、対向車すら一台も通らない暗い道。このまま進めば闇に飲み込まれてしまうのではないかと不安になる。
やがてたどり着いた来辺岬には、一台の車が止まっており、ヘッドライトに照らされて一人の女性がたたずんでいた。
「ようこそ、地獄へ。飛鳥 勇さん」
俺が車から出ると、女性はすぐに話しかけてきた。
「連続殺人事件について話がある。海士部 妃さん」
「ええ。真犯人がわかったんでしょう?」
不敵な笑みを浮かべ、彼女は歩き出す。
「こういうの一度やってみたかったのよね。刑事ドラマでよくあるでしょ」
ヘッドライトの前まで行くと、彼女は立ち止まり、俺のほうを向く。
何故昼間なのにライトが付いてるかと思ったが、もしかしてこれがやりたかったのか。
「さあ、あなたの推理を聞かせて」
来る途中でも考えていたが、動機は全く思いつかなかった。彼女について調べたことから推測することは出来るが、根拠は何もない。だからこれは俺の完全な推論だ。
「お前のことは調べさせてもらった」
「そう」
「お前は子供が作れない体らしいな。そのせいで付き合っていた男とも別れた」
「そうよ」
後半は勝手な憶測だが、当たっていたらしい。
「対して被害者女性たちは援助交際を行っていた」
「そうね」
「それが許せなかった。それがお前の犯行の動機だろ」
「それだけ?」
「ああ」
俺の言葉に軽く相槌を打つだけだった彼女が、残念そうな顔に変わった。
「三十点。正直期待外れね」
そうして、彼女は自ら真相を語り始めた。
「私が被害者の女たちを殺した理由はその通りよ。でも、それ以外に何もわかってないなんて残念だわ」
次の瞬間。彼女が言ったことを俺は理解できなかった。
「私はジャック・ザ・リッパーの生まれ変わりなのよ」
「どういうことだ」
「退行催眠って知ってる? 前世療法の一つなんだけど、私はそれで知ったのよ」
退行催眠か。聞き覚えはあるが、疑わしいものだ。
「それを知った時、私の体はこう生まれるべくして生まれたことを悟ったのよ。そして、軽々しく身を売る女どもを殺す使命を理解した。遥かな時を超えて、ジャック・ザ・リッパーはこの世に再誕したのよ!」
そう言って彼女が両手を大きく上げたとき、止まっていた彼女の車が突然動き出した。
「全ては私の業が為にーー」
車は彼女を跳ね飛ばし、まっすぐに崖下へと落ちていった。
「くそっ……」
慌てて駆け寄ってみるが、海には何も浮かんではいなかった。
後日。彼女の家を家宅捜査したところ、被害者女性たちの内、何名かの遺髪が見つかった。
警察は彼女を連続殺人事件の犯人として公表し、真相に迫った東刑事が自殺に見せかけて殺されたと発表した。
その後、来辺岬の近くの浜辺で彼女の遺体も発見され、表面上事件は解決した。
俺はお咎めなしとされたが、事件について納得できないことがあり、警察を辞めて事件について調べている。
4月27日より、4日ペースで投稿しました。
ここまで読んでくださった方、ありがとうございました。
内容がわかりにくかったらすいません。