殺されたのは?
連続殺人事件の被害者、松原 飛鳥の髪の毛を庭先で燃やしながら、俺はラーメンを食べていた。
先輩の影響ですっかりラーメン好きになってしまった気がするが、今回はそれがアリバイ作りの役に立った。
そんなことを考えていたせいか、先輩から電話がかかってきた。
「なんですか。飛鳥さん」
「松原 飛鳥という人物を知ってるか?」
その名前を聞いて一瞬驚いた。だが、バイトに来た誰かが見つけて通報したんだろう。平静に対応しなければ。
「知ってますよ。彼女がどうかしたんですか?」
「いや、たまたまカモさんと会ってな。どういう関係なんだ?」
先輩だって馬鹿じゃない。俺が犯人じゃないかと疑ってるんだろう。近道のことがばれれば、俺はむしろ容疑者筆頭だ。
「ああ、あのよく行くラーメン屋あるじゃないですか」
だが、そんなときの言い分も用意してある。
「ああ」
「あの近くにある喫茶店でバイトしてた子ですよ。可愛い子だったんで同じ店でバイトしてる芹沢さんに話を聞いて、狙ってたってだけですよ」
ちょっと狙いすぎたかな。
「そうか。実は死んだんだよ。その彼女」
「……そうですか……。わざわざ教えてくれてありがとう、ございます。飛鳥先輩」
本気で憐れむように言われて、俺は思わず笑いそうになってしまう。必死で笑いを堪えながら返事をしたが、少し震えた声になってしまった。
バレてはないだろうか。不安になった俺は、すぐに電話を切った。
原田 妙子。あいつの遺体が見つかった時、あいつが援助交際に手を染めていたことを知った時、俺は激昂した。
中学生の時に俺をフッておきながら、金で男と付き合っていたあいつが許せなかった。だが、もう死んだ。だから、俺は俺をフッた他の女を殺すことにした。
小学生の時に俺をフった永倉 奈々。警察の調べであいつも援助交際に手を染めていたことがわかった。やはり、女はそういう生き物なんだ。
高校生の時に俺を振った斎藤 一枝を殺した。援助交際に手を染めていたことも発覚した。殺して正解だった。
大学生の時に俺を振った松原 飛鳥を殺した。俺をフった女は死ぬべきなんだ。
次の目標を殺すのは少し待とう。ほとぼりが冷めるまでな。
飛鳥 勇という刑事は優秀だ。私が与えた情報を元に真相に近づきつつある。
東とかいう刑事が捕まるのは時間の問題だろう。でも、それではうまくない。
あいつには現代の切り裂きジャックとして、九人分の殺人罪でいてもらわなければ困るのだ。私の代わりに。
私は東という刑事の居場所を突き止めるために、知り合いに連絡をした。
「もしもし、海士部です。はい。東 甲太郎という人の住所を教えてください。ええ、刑事です。そのほうが探しやすいでしょう? はい、わかったらお願いします」
向こうはほとんどしゃべらないので、ほぼ一方的に私がしゃべってるように見えるが、それで問題ない。
あとでメールが来るだろう。
鑑識から連絡が来た。
現場にあった犯人と思われる足跡。その靴が特定されたのだ。そして、それは
「東の履いてた靴とも同じだな」
本人は何も言ってなかったが、市販品ではなく珍しいものらしい。
それと探偵と話して気が付いたこと。東、お前が犯人なのか。
俺は車を飛ばして、東の家に向かった。
私は伊東 甲太郎の家に向かった。昔と同じ場所にあるかはわからない。それでも、向かわなければ成仏できないと私は思った。
幸い家の位置は変わっていなかった。苗字は変わっていたが、あの顔は忘れるはずがない。
殺してやりたくなったが、触れることは出来なかった。
そうこうしているうちに、誰かが家に訪ねてきた。
甲太郎は、置いてあったサバイバルナイフをもって玄関に行く。扉を開けると、そこにいたのは……妃さん!?
甲太郎は相手が女性だったことに油断して、警戒を緩める。その隙をつくように、妃さんは素早く背後に回って甲太郎の口にハンカチを押し当てた。
甲太郎は抵抗するが、すぐに動かなくなった。
妃さんは動かなくなった甲太郎を柱に吊るして、足元に台座を置いた。やがて、意識を取り戻した甲太郎は、パニックのあまり足元の台座を蹴り飛ばす。
甲太郎は必死にもがくが、縄を振り解くことは最後までできなかった。
妃さんはすでにこの家にはいない。彼女は私の復讐を果たしてくれたのだ。私は体が軽くなっていくのを感じていた。