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殺人鬼  作者: 紫 魔夜
3/6

アリバイは?

 今日は非番。俺は標的(ターゲット)を仕留めに行く。狙いはバイト帰り、スタンガンで気絶させてから仕留める。

 ラーメン屋のおやじに時間を確認してから店を出る。俺はこの店の常連なのできっと覚えていてくれるだろう。

 犯行現場までは車を飛ばしても三十分はかかる。つまり、今から三十分以内に彼女を殺すことができれば俺のアリバイは証明される。

 不可能だって? 車だったらそうだろうな。だが、あそこに行くためには知る人ぞ知る抜け道がある。自転車でその道を行けば、十分ぐらいでつくことが可能だ。

 不可能じゃないだろ?

 と、その前に人と会う約束をしていたんだった。遅れないようにそろそろ向かうとしようか。


 まだだ。まだ情報が足りない。私は、私の持ちうるコネを使って新たな情報提供者と会う約束を取り付けた。

 本当なら何もない日に会いたかったのだが、予定はずらすことが出来ない。先方に会う時間を調節してもらって、バイトの前に会えることになったのは幸いだった。

 一番有益な情報を与えてくれたのは、喫茶店でバイトをしている女性だった。同じバイト先の子だとは思わなかったけど、向こうは気づいていなかったみたい。

 今回話をしてくれるのは、刑事だ。しかも、連続殺人事件を直接捜査してる刑事。

 有益な情報をえられることを期待して、私は予定より早めに待ち合わせ場所に向かった。

 私と状況提供者が到着したのは、ほぼ同時だった。


 俺がつくのと、彼女が現れるのはほぼ同時だった。

「お待たせして申し訳ありません。飛鳥(あすか)さん」

「俺も今来たところだよ。探偵クイーンさん」

 見た目は二十歳といったところか。女は化粧で化けるというから見た目通りの年齢ではないと思われるが、それにしても予想以上に若いな。

「さっそくですが、話を伺ってもよろしいですか?」

「ああ」

 情報を得るためには情報を与えなくてはいけない。それでも、必要以上の情報を与えるつもりはない。

「まずは八重戸(やえど) (らん)さんについて教えていただけますか?」

 被害者の名前を把握してるのか。侮れないやつだ。

「第五の事件の被害者だな。どこでその名を?」

「えっ……いえ、ネタ元は明かせません。それよりも、犯人について何かわかってることはあるのですか?」

 探偵が一瞬だけ戸惑った顔をしたように見えた。だが、すぐに何事もなかったかのように切り返してくる。

 なんともやりづらい相手だ。

「こちらは、被害者たちについてある程度の情報を持っています。あなた方の知らないであろう情報もね」

 探偵は自信に満ち溢れた表情で言い切った。そこからその自信が出てくるのかはわからないが、はったりではなさそうだ。……彼女の情報源は刑事よりも事件に詳しいということか。一体何者。

「あなたのことも知っていますよ。飛鳥 (ゆう)さん」

 どうやら、予想以上にやりにくい相手のようだ。

 実際、話し合いはずっと探偵のペースで進んでいった。

「最後に連絡先教えてもらえますか?」

 にこやかにスマホを向けてくる探偵に対して、俺は自分のスマホを投げ渡した。

「勝手に登録してくれ。俺はその登録されたやつに連絡入れるから」

 俺の携帯には記録アプリが入っている。相手が余計なことをしていれば後で確認可能だ。その場合もう会うことはないだろうがな。

「あれ? おかしいなぁ」

「どした?」

 急に年相応な雰囲気になり、思わず口調が軽くなった。

「私の名前、海士部(あまべ)なんですけど。登録したら(あずま)さんが何故か下に表示されちゃって」

 言いながら俺にスマホの画面を見せてくる。何故かと考えて、思い出した。

「もともと、伊東(いとう)だったんだよそいつ。で、苗字が変わった時に伊だけ消したから、読み仮名はいとうのままだったんだな」

 どのみち一番上だったから、全く気が付かなかった。

「へえ、伊東さんですか」

 探偵が何か呟いたが、投げ返されたスマホに気を取られて聞き取ることは出来なかった。


 私がバイトに行くと、芹沢(せりざわ)先輩と妃さんに出迎えられた。

「遅かったね。飛鳥(あすか)ちゃん」

「何かあったの? 飛鳥さん」

 時計を見ると出勤時間にはまだ十分な時間がある。それでも、いつもの私と比べると遅い出勤だった。

「すいません。人と会っていたもので」

 私がそういうと、(きさき)さんは納得したように、店の中へと消えていった。

「本当に大丈夫かい?」

 芹沢先輩はいつものようにかっこつけることもなく、本気で心配してくれているようだ。 

「大丈夫です」

 私は芹沢先輩に心配をかけないように、笑顔で答えた。

「そうか。まあ、何かあったら話してくれよ」

 手を振って去っていく芹沢先輩は少しかっこよく見えた。今日のバイトが終わったら相談してみようかな。

 残り少ない髪の毛をなびかせながら去っていく六十五歳の男を、私はしばし見送っていた。

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