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殺人鬼  作者: 紫 魔夜
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被害者は?

 俺は庭先で髪を燃やしながら、物思いにふけっていた。もちろん、自分の髪ではない。殺した女から切り取った髪だ。女の名前は斎藤(さいとう) 一枝(かずえ)。連続殺人事件の被害者となる女だ。

 この連続殺人事件は、五人目の被害者が出た時点でマスコミ発表がなされた。つまり、この地区に住む人間はいつ殺されるかもしれないと思いながら今生きているのだ。考えただけでぞくぞくしてくる。

 なお、警察内部では現代の切り裂きジャック事件と呼ばれているこの連続殺人事件。一件目は刺殺だったが、二件目以降はその限りではない。それなのになぜこの事件が連続殺人事件だと言われているのか。

 それは被害者女性すべてに二つの共通点があるからだ。

 一つは、援助交際で補導された経験があるということ。

 もう一つは、遺体の髪が切り取られているということ。

 それらの理由によって警察は連続殺人事件だと考えている。だから、俺は絶対に捕まらない。

 と、そろそろ仕事に向かうとしよう。今日は午後から人と会うし忙しいからな。


 今日。私は情報提供者と会うため公園に来ていた。

 情報提供者、といえば誰を思い浮かべるだろうか。

 被害者の関係者? などだろうか。確かにそれも間違いではない。でも、それだけでは不十分。

 例えば、主婦。街中でよく見かけるだろう主婦の立ち話、その情報力をなめてはいけない。

 例えば、喫茶店の店員。常連客や不審人物、いろいろな人話を聞いていて情報はたくさん持っている。

 例えば、刑事。事件を調査している人なら当然、そうじゃない人でもいろいろな情報を持っていたりする。

 今日の情報提供者もそんな人。

 約束のベンチへと向かってくる人影が一つ。

飛鳥(あすか)さんですね」


 休みの日にはなじみの店に行き、ラーメンを食べる。それが俺の日課だった。

 仕事のある日にも後輩達と食べに行くことはあるが、基本的には行く暇がない。

 非番だが忙しい俺は、カップラーメンを食べて事件資料に目を落とす。

 第一の被害者は、田辺(たなべ) 紗理恵(さりえ)。スーパーのアルバイト。犯行現場はバイトの帰り道にある神社。第一発見者は参拝客。腹部を何度も刃物で刺され死亡。

 第二の被害者は、原田(はらだ) 妙子(たえこ)。読者モデル。仕事に来ないので友人が自宅に確認にいったところ、玄関で死体を発見。引きずった痕跡があったことから、犯行現場は家の前の道路だと判明。致命傷は心臓まで達していた背後からの刺し傷。

 第三の被害者は、永倉(ながくら) 奈々(なな)。料理教室の先生。遺体の発見現場は自宅の庭。第一発見者は料理教室の生徒。犯行場所はまだ特定できていない。死因は頭部を貫通した銃弾。改造銃だと思われるが現在特定には至っていない。

 第四の被害者は、丸山(まるやま) 紗希(さき)。高校の物理教師。犯行現場は彼女が勤める学校の体育館裏。第一発見者は二名の生徒。死因は鈍器による撲殺。現場には足跡が残っていたが、生徒たちが踏み荒らしたため鑑定は不可能。

 遺体の発見順番は一、二、四、三。現場については、一、二、四件目は近いが、三件目だけはかなり遠い。遺体を動かした形跡もあるし、並べてみると三件目だけが他からずれてるような印象を受けるな。

 共通点は二つあるが、被害者同士のつながりは特になし。決定打になるようなものはなし。やっぱり外部との情報交換をするしかないのか。

「非番なのに大変ですね。飛鳥(あすか)さん」

「重役出勤だな。(あずま)

「時間どおりですよ」

 軽く小言を言ってやると、時計を見ながら東は返してくる。

 確かに時計を見ると時間どおりだった。ぴったりだった。

「少しは余裕をもって動け」

 こんなことでは、まだまだ新米と言わざるをえないな。


 公園のベンチに座って小一時間ほど話をしてから、私はバイトに向かった。

 しかし、話をしたせいである確信を得た私は、不安でたまらなかった。そのせいで手が止まっていたらしい。

「大丈夫か? 体調悪いんなら休んどけ」

 店長から声をかけられる。

「いえ、大丈夫です」

「僕も休んだほうがいいと思うよ」

 芹沢(せりざわ)先輩が、髪をなびかせながら現れた。いつもの制服ではなく、今どきの若者な服装だ。

「いえ、大丈夫です」

 店長と同じように返事をする。

「ところで、その服装はどうしたんですか?」

 つい気になって聞いてしまった。芹沢先輩は待ってましたとばかりに目を輝かせる。

「カッコイイだろ? ナウなヤングにバカウケなファッションさ」

 髪をなびかせながら、ポーズを決める芹沢先輩。そのまま近づいて来て、最高に決め顔で一言。

「僕に惚れたら火傷するよ」

 どう対応したらいいのかと迷っていると、芹沢先輩が引きずられてるかのように後ろに下がり始めた。いや、ようにじゃない。実際に店長に引きずられていた。

「あの、雷門(らいもん)さん?」

 芹沢先輩は決め顔を崩すことなく、店長のほうを向く。

 店長は目以外は最高の笑顔で。

「部外者はお帰り願います」

「はい……」

 さっきまでの決め顔はどこへやら、情けない表情で芹沢先輩は引きずられていった。

 でも、部屋を出る前に一瞬だけキリッとした顔をして、

「悩み事があるなら、ため込まないで話したほうがいいよ」

 そう言い残していった。

 ため込まないで、か。その言葉を心にしまって、私は皿洗いを再開した。

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