とある町の7不思議 その3 身駅
たいしょー!
ハイボールまだぁ?
え、飲みすぎィ?
全然だよ、こんなァ、まだまだ全然酔ってないィよ。
あ、ありがとォ、頂きまァす。
んー、美味い!
あ、そういえばさァ、たいしょー。
あたし、この間ァ、身駅に行ったよ。
え?
身駅ってったら身駅だよゥ、知らない?
えーっと、なんていうかァ。
存在しない、駅のことなんだけどね。
今はホラ、ネットとかあるからさァ、行き方とかも、書いてあるんだよ。
ちょっと待ってて、えーっと、えーっと。
ほら、これこれェ。
○○行き上り電車の××駅で降りて。
ホームの階段を上って下って。
今度は下りの△△駅で降りて、□□電車に乗り換え……。
ねえ、たいしょー?
ちゃんと聞いてるゥ?
私、結構一生懸命話しているんですけどォ。
あっはっは。
冗談冗談。
まあ、いいやァ、以下略ね。
なんていうか、この、コマンド?みたいな通りに電車に乗るとね。
最後に『身駅』ってところに着くみたい。
いやいや、もちろん、都市伝説みたいなものなんだけどさァ。
それでね。
その日はさァ、すンごい2日酔いだったんだけど。
それでも会社に行かないといけない日だったのよ。
何度も降りる駅を乗り過ごしたり、降り間違えたりしたんだけどォ。
そうそう、本当にたまたま、この通りに進んじゃったみたいなんだよね。
ふふふ。
ね~、どんだけ酔っぱらってるんだって感じだよねェ~。
あっはっは。
着いたときは、びっくりしたよ。
うん、昔何かで見たことがあってね。
知ってたのよ、身駅。
え、うんうん。
降りるまで、気づかなかった。
あっはっは。
アホでしょ、ねー。
身駅。
うん。
なんだろ、凄い寂れた駅だったな。
電車から降りる人も乗る人も、私一人以外いなくて、さ。
セミの鳴き声がうるさくて。
取り敢えず駅のベンチに座ってポカンとしていたんだけど。
駅から見た景色が、凄かったんだァ。
何処までも抜けるような青空と、遠くに浮かぶ入道雲。
なんだろう、思わず泣きたくなるような、懐かしくなるような。
そんな風景だった。
うん。
ねえねえ。
たいしょー?
ちょっと、聞いてるゥ?
2回目だよぉ。
なんか私一人でセンチになって、恥ずかしィんですけど!
あ、あと、ハイボールもう1つね。
ペース?
こんなもんよ、こんなもん。
会社勤めですからねェ!
ふふふ。
あァ、そうそう。
それで、早速会社に電話したわけですよ。
今日は母が危篤なので休みます!
ってねェ。
身駅に迷い込んだので休みます!
なんだけどね、本当は。
ふふふ。
そうそう、電波は届くの。
だから身駅について改めて調べたんだ。
うん、ネットでね。
凄いねネットは。
迷い込んだ人たちは大体ね、某巨大掲示板にスレ立てしてたよ。
あっはっは。
みんな、余裕あり過ぎ!
たいしょー、ネットの大型掲示板とか、わかるゥ?
ん?
あっはっは。
まあ、そうだね、普通の町の掲示板とかの、すんごく大きいバージョン。
そんな感じ……なのかな?
まあ良いや。
取り敢えず、その掲示板での情報をまとめて分かったのが3つ。
ひとつ!
数時間待っていれば、次の電車が来る。
短くても3時間、長い人だと10時間くらい待つみたいなんだけどね。
そして。
ふたつ!
駅から外に出て、村や森の方に行ってはいけない。
これをやった人たちは、みんな途中で返答が途絶えている。
最後に。
みっつ!
身駅に着いた人たちは、何故かみんな駅から出たくてしょうがなくなる。
……だよねェ~。
3つ目って、意味わかんないでしょう。
我慢しろよって。
思う思う!
ふふふ。
でもね、行った私なら分かる。
なんだろう、本当に、胸が締め付けられるんだァ。
降りたらまずい駅のはずなのに、ふらふらと改札口まで行ったりしてね。
改札口には人がいなくて、まあ、無人駅なんだけど。
向こうには、昔ながらの家々が立ち並んでいて。
遠くで畑仕事をしているおばあちゃんが、こっちに気が付いて手を振ってたり。
そうそう、そんな感じ!
私って東京生まれなんだけどォ、ここが私の生まれたところなんだーって思った。
意味わからない?
あっはっは。
結局外に出ないで電車を待っていたら、4時間後くらいに電車が来てね。
うん、普通に乗って帰った。
でもね、あれは、駅の外に出る人達の気持ち、分かったよ。
あの時、私、会社で結構大事なプロジェクト抱えていたからさ。
絶対に死ねないと思ってたから。
あっはっは。
ねェ~。
逆に感謝、みたいな。
社畜ばんざーい!
あっはっは。
……あれからね。
何度か、身駅に行こうとしたんだ。
でも、行けなかった。
多分、ネットで出回っている行き方情報は、どこかなにか間違ってるんだろうね。
今なら。
あの懐かしい故郷の駅に。
降りてみてもいいかなー。
なんてね。
うわ。
ちょっとたいしょー。
あー。
もう良いよ、仏の顔も三度まで。
ん?
これで何度目だったっけ。
あっはっは。
4回目?
え、3回目?
やっぱ合ってるじゃん!
あっはっは。
だからね。
後はもう、飲みまくって行くしかないかなーってさ。
んーん、やっぱなんでもないや。
あ、それよりも、たいしょー。
ハイボール、もう1杯追加ね。




