まつり唄
ざわざわ、ざわざわ
様々なもので賑わう通り
その中心で左右を見回し
歩み続ける一つの影
ひっくひっく、
裏路地から微かに聞こえた声
影は止まり、その場へと赴く
どこか心配げな空気を醸し出しながら
ひょっこり
路地裏を覗き込む影
しゃがみこんで泣いているのは
淡い色の浴衣を着た小さな童
ひょいっと
童を抱き上げる影
その者宥めながら
もう一度道の中央へと歩みを進める
童、童
泣くのをおやめ
其方のゆくべき道は
我が導こうぞ
だれじゃ、だれじゃ?
わてを何処に連れてゆくのじゃ?
さみしやさみしや
わてのゆくとこは何処じゃ?
泣くな、泣くな
我とともに来るがよい
まつりを楽しみながら
童のゆくべき場所に送ろうぞ
まことか?まことなのか?
ならばともにいこうぞ
わてをつれゆく其方を
どう呼べばいいのじゃ?
主、主と呼ぶがよい
さあ共にゆこうぞ
今宵はまつり
道中楽しみながらゆこうぞ童
ふわり、と
抱えなおされた童
白い浴衣を纏った影と共に
道の中央へと赴く
さあ、さあ皆様こちらへどうぞ!
金魚をすくいに来やしゃんせ
ほらほら童
ポイを手に取り遊びんしゃい?
ほらほら、こちらも負けてないよ!
まつりと言ったら水風船
来い来い童
いろんな色や絵柄があるぞ?
何言ってんだいお前たち!
お面を買わなきゃ始まらないだろ
さあさあ童
狐のお面はどうだい?
待て待てお前ら!
まず最初に腹ごしらえだろ
そらそら童
わたあめはどうだい?
わかってないね皆さん方
ここは遊びと食を同時に楽しむものがいい
おらおら童
堅焼きやってくかい?
なんのこちらも負けてやいないわい
わしなら目も同時に楽しませるわい
これこれ童
飴細工はどうじゃ?
やいの、やいの
声をかけるあらゆるものたち
童は顔を輝かせ
影の方へと伺いを立てる
主、主よろしいか?
その姿はまるで子犬のよう
童はしゃぎすぎるなよ?
影は言い、微笑む
あれも良い、これも良い
案の定はしゃぐ童
周りのものたちはその姿を見
頬を緩ませる
はて?と童
違和感に気づき問いかける
主よ先程まで大勢いたもの達は
いつの間に消えたのじゃ?
影は微笑み
童の手を取り歩き出す
やれ、こちらだ
そう言って何処かへと向かう
たどり着いたのは古びた社の裏手
そこは既に様々なもの達が集まっていた
その中央の場にて
影は童とともに座る
主?この場に何があるのです?
不思議そうに問いかける童
其方も気に入るものぞ
そう微笑みながら答える影
どん、どん 轟く音
驚き顔を伏せた童
しかし周りに釣られて見上げると
夜空に咲く大輪の花を見る
呆ける童、満足気な影
それを見守る周りのものたち
皆揃って一瞬だけ咲き誇る
様々な花々を見上げる
夜が明ける
それと同時に終わる花火
傍らに目を向ける影
そこにはもう、何もいない
影はゆるりと歩みだす
一人残った裏手から
表情は分からぬが
少しの寂しさと安心を感じさせる背中だ
影が向かうのは古びた社
正面に立ち空を見上げる
そして小声で何かを呟き
溶けるように消えていった
「また、来年のまつりにて」
ま・・間に合いました・・!!
土シ告心さんの企画非リア流夏祭り!!ほかの作品も見てください(宣伝)
ちなみにタイトルのまつりは 祭と祀り両方の意味でイメージしてください
感想お待ちしております(ペコリ)