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SF短編集

 過労 -overwork-

作者: 井鷹 冬樹

SF短編集、第3弾です! 今回も若干空気感あるSFですが、読んでいただけたらと思います。


では、どうぞ!!

 



 近い未来起こるかもしれない。





 -DAY 1-

 

 今日も夜勤。

 


 男はいつもの様に夜勤出社し、パソコンのキーボードを手早く動かしている。

 時たま手を止めて、机に置いた鉄製のコップに入った暖かい茶色い液体を口に注ぎながら、ゆったりと背中を椅子の背もたれに預けたりする。数分してからまた作業を始めていく。

 表の記入も終えて、男は、背中の疲労感を整える為に、背伸びをした。

 ゴキゴキと音を鳴らし、整えていく。軽く溜め息をつき、職場の手洗いへと向かう。夜勤の為、オフィスの周りは誰もいない。

 同僚もいない。男は孤独に仕事を行っている。

 手洗いに行くことが唯一の男にとっての憩いかもしれないと思ってきており、もはや重病だった。

 男は、手洗い場の洗面台の鏡を見た。今までにない苦労を味わっているのかもしれない。冷たい水で顔を洗い、また頑張ろうと感じ手洗い場をあとにした。




 -DAY 2-


 今日も夜勤



 最近良い事が男に起きた。背中の疲労感がないことだ。全然疲れていなかった。しかしやることは同じ、任されたことをひたすらやり続けた。

 経常利益計算の直し、在庫発注の見積もり、営業職に就いてから毎日だった。

 むしろ男は外回りを希望していたのだが、紆余曲折あって、今は夜勤で毎日同じ仕事ばっかりやらされている。

 今日もパソコンをカタカタといじり、いつもどおり表を完成させ、コップに淹れた出来立ての茶色の液体を飲み干していく。

 また同じ作業をした。周りには誰もいるわけなく、机に備えられている電灯が男の心に火を灯していた。

 ビルの窓から見える夜景は、綺麗じゃなかった。澱んでいる。

 男は窓の夜景をほくそ笑みながら見て、一息ついた後で、手洗い場に行く。顔を洗い、ハンカチでゴシゴシと自分の顔を拭った。

 鏡の顔に映る自分の顔は今まで生きてきた中で、一番老けて見える。

 

 年か……そう思いながら、手洗い場から出ていく。




 -DAY 3-


 キョウも夜勤



 昨日バリバリ動いたせいか。男に代償が降りかかってきた。

 思うように背中の痺れが良くならず、うまく首が回らない。首を回すと激痛と共に、何かが折れる様な音を出しながら、首が動く。

 働きすぎだろうという証拠が、出ていた。きっちりとケアをしとけばな……後悔するだろう。だとしても自分の身よりも会社の利益の為に頑張らないと、男はあまり動かない体を動かしながら、いつもの作業を行う。

 少し、時間的にも手間取ったりしたが、なんとか表を完成し、ゆっくりとコップに入った温めの茶色の液体をゆっくりと流し込むが、数滴程度口からこぼれたりした。

 男は急いでこぼれ落ちた茶色の液体がスーツのシャツ着き、白いシャツを汚染していく。男はあまり動かない体を動かしながら、机のティッシュを取り、服についたシミを拭う。

 シミは余計広がってしまい、逆効果になってしまった。

 あ~あ~、と急いで、手洗いに行き、シミを洗い流そうと、シャツに水をつけていくがシミは取れることなく、シミ汚れがより大きくなってしまった。

 ため息を着き、いつもの様に顔を洗う事にする。

 顔を洗った後の鏡で、自分の顔をよく見ると若干若返ったような……老けたような……変わってないような……そんなことを思い、鏡の自分に対して笑った。鏡に映る男も笑っている。

 男は、動かない首と痛みが響いている背中に我慢しながら手洗い場を出て行った。




 -DAY 4-


 キョウモヤキン



 今日は男にとってラッキーな日だった。

 テレビで自分が写っていた事を、風の噂で聞いたからである。

 聞くところによるとそのテレビで自分ことを紹介されたらしく。会社の仲間が「彼はよく働いてくれているから助かる」とか、「彼のおかげで仕事が何倍もスピーディになった」とかで会社仲間から絶賛だったらしく、それを聞いて男は上機嫌になって、仕事を進めていた。

 でも昨日から、ずっと調子が悪く、依然として首は回らず、背中の激痛は収まっていない。

 男は、風の噂を信じ、頑張って仕事をこなそうと励んでいく。いつもの様に淹れたコーヒーを飲むが、今回はやけに冷たかった。

 表計算の記入もなんとか終えて、男はため息をつくが……ため息をつく為の方法を忘れてしまうくらい疲れていた。

 男はゆっくりと席から立ち上がり、ゆっくりと歩いて手洗い場へと向かった。向かうまでの職場の窓から見える風景を眺めると外は真っ暗。男が夜勤であることをすっかり忘れながら、呟いた。

「動かなくちゃ……」

 手洗い場に行き、鏡を眺める。すると今度は若返っていた。

 男は鏡に恐怖心を持ちながらも、蛇口の栓を回して、口から勢いよく流れ出る冷たい半透明な液体を両手を使ったポケットに貯めて、ある程度たまったら自分の顔に勢いよく液体を当てた。

 

 気持ちがいい。


 男は肌は潤いを受けて、肌が気持ちの良い温度になったのを感じた後で蛇口の栓を閉めた。

「頑張らなくちゃ……」

 と男は呟いて、手洗い場をあとにした。




 -DAY 5-


 キョ……モヤキ……



 男はいつもどおり夜勤で表の計算をしているが、眠気が半端なくなんとか頑張るが、軽く夢を見ている状態となり、手を動かすことができない。コップに入った液体を飲もうとしたが、取ることはできず、下に落としてしまった。

 男の夢には、母親がでて、心配していた。

「あんた寝る前に宿題をやったんかね? ちゃんと書留めないと分からなくなるよ!」

 母親はずっと同じことを繰り返して男につぶやいていた。夢の中で……

「働かなきゃ……」

 男は何とかして指を動かそうとするが、眠気には勝てずとうとう目をつぶり、顔をパソコンのキーボードに、預け、目をつぶった。

 静かな眠りについた……男の背中から女性の声が聞こえる。


《体力電池が0%になりました。充電してください。充電してください》


 その声は、ずっと誰もいない職場中に響いていた。そう大きく。




 -DAY 6 朝 -



 夜勤の男と同じ会社に勤める若い新入社員と上司が一緒に仕事場に入ろうとした時、目の前の光景に驚いた。

 作業用のロボットが故障してしまい、動かなくなっているのを発見した。

 その作業用ロボットは夜勤の男と顔がそっくりだった。


 


 《そう夜勤の男はロボットだった》




「あ~あ~止まってしまってるな」

「みたいですね~ありゃりゃ、背中の回路がショートしちゃってる」

 男の背中の激痛は回線がショートしていたからである。

「首の油も調整してないな」

 男の首が回らない理由。それは油が入っていなかったからである。

 新入社員はロボットの体を見て、確認し、ずっとアナウンス表示で女性の声が聞こえた。しかし、電池用量が少ないせいか、小さい声でアナウンスされている。


《故障発生、データーが保存できませんでした。》


 男にとっては母親の声と感じたのだろう。


 上司は新入社員に言った。

「最悪だよ。コイツのおかげで仕事もう一回やり直しかよ」

「データもそのままにはならないみたいですね。CMの時は素晴らしい商品だなって思ってたんですけどね……」

 そう男が言ってた会社仲間からの絶賛コメント。

 あれはCMの内容だったらしく、自分の紹介というより、ただの男についての製品紹介。  


 つまりテレビ宣伝だった。



 机には鉄のコップに入った特殊な液体燃料が、下に落ちてあり、液体が床に溢れていた。コップにも少し液体が残っている。

「過労によるエラーですね。燃料の過剰摂取も見られていますから……」

「やれやれ報告書がめんどくなるぞ」 

 男は自分がロボットである事を知らぬまま停止した。この男の事は、多分すぐ忘れ去られるだろう。

 新入社員は机に顔をうずめたロボットに対して呟いた。

「また代わりのロボットを探さないといけませんねぇ……」





                   END


 はい、いかがでしたか? 今回は仮にロボットが日本で労働する際どうなっていたのだろうか? と思いついて書いてみました。


でも、こんな社会になったら本当に怖いですね。いや、もう起きてるのかな……


ここまで読んでいただきありがとうございました!!

ではでは……

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[良い点] 文章は好きです。読みやすくてわかりやすいです。お気に入りユーザーさんから辿ってきました。 [気になる点] 最終段階であっさりネタばらしの地の語りが、前中半の流れをがっくり落としてしまってい…
[良い点] どこか自分と重ね合わせて読みました。 重ね合わせるのは誰もがすることかもしれません。 仕事にかぎらず、誰もが勤めを果たすべく遮二無二働いているのでしょうね。 働く目的や目標を見出せていない…
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