表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

教室の隅にいるあの子

作者: 紗羅


「…、川上さん、だろ?」

「うん。」

「そうそう!よく知ってるね、坂野くん。」

「…だって、クラスメイトだし当たり前だろ。」

「希美ってね、よくクラスの子にも誰って言われるんだよねー。」

「…そうなんだ?」

「うん。」


 俺がこの機会を逃すまいと再び口を開こうとした時に、がららっと先生が入ってきた。川上さんはすぐに前を向いて、授業の準備を始めた。川上さんの友人である木谷さんも、席に戻っていった。俺は話しかけるタイミングを失い、名残惜しくも席に戻った。




 川上希美さん。教室の一番廊下側で一番前の席にいる。彼女はとても静かで目立たないし、目立とうともしない。授業中は真面目に受けているように見えて、面白い落書きをしていることが多いし、授業そのものをサボることもある。意外とお茶目でお転婆。

 友人も少ないがいて、いつも女子高生らしい会話をしている。例えば、日常のこととか、ファッション、恋愛、その他諸々。見た目はファッションには興味なくてオタクな感じもするけど、実は女の子らしくてかわいい。


 俺と川上さんは全く親しくない。なのに、どうして彼女のことを俺が知っているか。答えは簡単。俺が彼女のことを好きで、よく観察をしているからだ。




 俺は廊下から3番目の列の前から4番目の席である。俺の席からは彼女がよく見える。彼女は今日も何か落書きをしているらしい。先生は何も書いていないのに、彼女のペンは止まらず動いている。

 今日初めて、川上さんと話が出来た。油断していると緩みそうな頬を必死に耐える。いつも遠くで聞く彼女の声が、彼女の目が俺に向けられた。有り得ないぐらいの喜びと緊張で、心臓が張り裂けそうになった。こんな経験、初めてだ。


 がたがたと周りが立ち、俺も立ち上がった。いつの間にか授業は終わっていたらしい。俺のノートは言わずもがな、真っ白である。こんなことはよくあることなので、気にはしない。


「礼。」

「ありがとうございました。」


 6時間目が終了。つまり、もうすぐ放課後。俺は、はぁと重いため息を吐いた。



―――――



「何で放課後になったら、テンションが下がるんだよ、雅明は。」

「川上さんが速攻、帰宅するから。」

「また川上さんか。」

「部活入ってくれないのかな…。川上さんがいるなら、俺も部活入るのに…。あー…バイトがあるから、無理だよな…。俺も川上さんとバイトしたい。」

「重症だな。」


 友人である源川はため息を吐いた。俺も重いため息を吐いた。理由は各々で違うが。

 川上さんが学校にいる間は目が耳が勝手に彼女を探す。自分でもストーカーじみていると感じている。しかし、止められるものならとっくに止めている。止めないのではなく、止められないのである。

 彼女とは親しくないので、会話どころか挨拶すらもままならない。前にクラスメイトだからという建て前でしてみたが、警戒されてしまった。それ以来、怖くて出来ない。

 結果、いつも俺は川上さんが不足し過ぎて、無意識に求めてしまうのだ。恋とは恐ろしいものである。


「川上さんって、見た目地味だし性格も暗そうだし、何がいいのかさっぱりだわ。」

「ぁあん?」


 源川が意味の分からないことを言い始めた。俺はそれに対して、低い声で凄んでしまう。

 川上さんのいいところだ?まずはかわいい。見た目も目がくりくりしていてかわいいが、彼女のかわいいさは見た目より性格だ。

 ちなみに、見た目は綺麗系であると思う。おしとやかで清楚な雰囲気がある。黒髪のセミロングというありふれた髪型ではあるが、そこも彼女の魅力だ。

 性格はお茶目でかわいい。しっかり者で大和撫子な感じもあるのに、実はお茶目でお転婆というギャップが何よりかわいい。授業も真面目そうに見えて、落書きしていたり忘れ物もしていたりする。時より、学校を休むのは病気ではなく、サボリらしい。サボって、色んなところに旅行しているらしい。真面目で大人しそうに見えるのに、本当は積極的でアクティブ。かわいすぎる。

 それでも、友人からは信頼されているようで、そこからも彼女がいかにいい子なのかが分かる。

 それから、


「もういい。」

「何?まだ半分も語ってないぞ。」

「もういい。」

「ちっ。」

「恋は盲目っていうけど、お前の場合は盲目すぎて恐ろしいわ。」


 否定はしなかった。自覚があるだけマシということにしておいてくれ。



―――――



 今日も今日とて、川上さんを観察する。友人である木谷さんとファッション雑誌を広げながら、わいわいと笑いあっている。いつもの光景である。それを遠くから、でも声がぎりぎり聞こえる距離から友人と話すふりをしながら、盗み見する俺。これもいつもの日常である。


「おい、坂野。」

「何だよ。」

「お前、話聞いてる?」

「聞いてる。明日のサッカーの試合、頑張れ。」「聞いてるなら、相槌ぐらい打てよ。」


 うるさい。俺は今忙しい。なにせ、明日は土日なんだ。だから、今日のうちに川上さんを補給しなくてはならない。顔に出した覚えはないが、なんとなく俺の考えが分かった源川はうんざりした表情を見せた。

 俺が友人と話しているうちに、いつの間にか川上さんはいなくなっていた。トイレかと思ったが、木谷さんは自分の席に戻っている。トイレだったら、いつも待っているのに、これはおかしい。何かあったのだろうか。

 聞き逃す原因となった友人にはヘッドロックをかましておいた。理不尽!と喚いていたが気にしない。




 もしかしたら、ケンカかもしれない。その後の休み時間は別々に過ごしていたから、2人で何かあったのだろう。

 昼休みは木谷さんは別の友人と食べていた。川上さんは弁当を持って何処かにふらりと歩き出した。俺は思わず、ついて行ってしまった。そのまま観察するかもしれないので、俺も弁当を持って行く。


 ふらふらと川上さんは体育館裏へ向かっていた。そこはよくあるリンチする場所ではない。何故から、グランドから丸見えだからである。ついでに言えば、自転車置き場からも。こんな場所でリンチするのは、ただのアホである。

 ただ確かに人通りはない。昼休みにこんなところにわざわざ行く人はいないだろう。川上さんは体育館裏のコンクリートに座り込み、弁当を広げだした。

 こんなところで1人で食べるつもりだろうか。そんなの寂し過ぎる。


「あの、」

「え…。」


 そう思うと無意識のうちに声をかけてしまった。彼女の驚く顔を見てから、しまったと思った。

 ここは偶然通りかかるような場所ではない。俺が彼女の後をつけてきたのがバレてしまった。こんなの立派なストーカーである。完全に引かれる。嫌われてしまう。


「坂野くん?」

「は、はい。」

「…どうかしたの?」


 どうしようか。ここで川上さんが気になって付いてきたとか言ったら、さらに嫌われてしまう。今この時点で嫌われているのに、これ以上は避けたい。

 ぐるぐると解決策を巡らして、俺が出した答えはかなり苦しいものだった。


「…、お昼一緒に食べていいですか、」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ