Ⅱ章─理と力─
────そして、街に着いた────
だが、肝心の街よりボクら二人は別のことに驚いていた、ボクらのいた場所からここまでは遠く、声は届くとは思えず、女子を背負う以前に一人でだって走ってこれる距離ではない。
ボクは別に運動系の部活動などやってないどちからかといえば運動が苦手な人間なのだから…明らかに自分の運動能力の範疇を超えた身体能力と聴覚が今のボクにはあった・・・・
──そう、まるで獣のような──
不思議ではあったが、この街まできた目的はなさねばならない。
ちょうど近くを通った男性が通ったので話しかけてみる、日本語が通じるだろうか?
「あの、この街の名称はなんでしょうか?」
「あ、ここはヴァルグの街だ、そんな事もわからずにここに来たのか?」
「あぁはい…来たというか来てたというか・・・その」
ボクの妙な態度を見て何か気づいたらしく
「怪しいな、そもそもその格好はなんなんだい?」
『まずい、怪しまれてるな…しかし、あなたの格好ほど変じゃない・・・はずだがな』
男は、日本語を喋っているにも関わらず、民族衣装のようなふしぎな格好をしていた・・・
「うむ、君らのような人間はまずあそこに行くべきだな、そこに大きい建物があるだろう?
公的機関だから、身の安全は保障してくれるし、わからない事も教えてくれるよ・・・」
明らかに、怪しい人物を突き出すような、雰囲気がその男からはでており、逃げようものなら、大声を出される事必至である。
どうせ行くあてもないのだし、ここは素直に言う事を聞いておいた方が安全そうである。
海風は応戦したそうではあったが、しかし、何も言わずに一緒にその建物へと向ってくれた。
◇◆◇
建物の外観は古い感じがあるが、手入れの行き届いた感じの立派で大きなものだった…正直、少々の緊張を覚えなかったといえば嘘になる。
おっかなびっくり建物の扉をくぐりぬけると、そこには何人かの職員のような人たちがいて、気おくれしつつもボクらは話しかけてみることにした。
「あの…実は……」
そして、代わる代わるボクたちは自分たちの状況を最初から最後まで伝えられるだけ伝えた。
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所々質問をしながらも、最後まで話を聞いてくれた初老男性は、すべてを聞くとこう答えた。
「ここは君たちの世界とは異なる…君たちから見ての異世界に相当する所だよ」
そして、ボクらの抱える様々な疑問について丁寧に答えてくれた。
それらは複雑多岐であり、頭がこんがらがりそうだったので、ボクなりにまとめてみた。
ざっとこんな感じである。
─この世界について──────────────
この世界はシーディアの民にとって異世界である ※シーディアとは、ボクらの世界のこの世界における呼称である。
シーディアとこの世界には通り道があり、なんらかの要因によってその道は開くといわれており、時々シーディアの民がこの世界にやってくる。
この世界とシーディアの間には『模倣之霧』が存在する、模倣之霧は後述の保持者・感染者を生み出すエネルギーである。
この世界に来たシーディアの民はシーディアに帰る為にアイテムを必要とする。
アイテムは保持者・感染者ならば儀式によって生み出すことができる。
この世界に来たシーディアの民は、この世界の言語を知らないはずであるが、使用することができる、
それは模倣の霧の模倣の恩恵である。
アイテム化させて霧を安定させると霧を素とする力は安定し操作しやすくなる。
────────────保持者・感染者・獣化者・魔術者について──────────────
保持者とは、模倣之霧を体内に持つものであり、シーディアから来た際に霧を浴びたり、この世界にてなんらかの理由で模倣之霧を得る事でなることができる。
模倣之霧を浴びた者は、極度の不安など精神が押しつぶされるような状況化において、精神的に安定することができる。
しかし、あくまで一時的なものであり、霧を得てから一定期間がたつとその効果は失われる。
空間を行き来するアイテムを儀式にて制作可能である。といってもシーディアとこの世界を繋ぐ事はできても同じ世界の別の場所に飛ぶなどは原則できない(世界と世界を結ぶため)し、また世界を渡った経験・知識を必要とする。
これは肉体に刻まれた記憶でよいため、心に記憶されている必要はない。
感染者とは、自然や生物の力を身の内に取り込んだ者を指す。
特に火や水などの自然を取り込んだ場合魔術者と呼称される事があり、動物を取り込んだ場合は獣化者と言われることがあるが、どちらも感染者である事に変わりはない。
感染者となるには、模倣之霧を体内に取り込み、保持者となる事が必須である。
模倣之霧を所持していると、霧が所持者の精神を読み取り、恐怖・劣等・羨望などなど、様々な心のありようを写し取る。
精神のありようを写し取った霧は、その心の欠落を埋める為に最適な生き物や、自然を一定範囲より呼び寄せ、なんらかの接触行動を起させる。
しかし、心の欠落が無い場合や、最適な生物・自然が身近にない場合はこのかぎりではない。
欠落があり、生物・自然の接触があった場合、保持者の霧が【保持者の心を模倣】した状態で対象生物の心の中や、自然の中に入り込み【保持者の心に適した形で、相手の生物や自然の能力を模倣】する、模倣が終わると霧自体は保持者の中に戻る。
模倣された生物は、ただ模倣されただけで接触行動後に何らかの影響は確認されていない。
保持者の中に戻った霧は、保持者の精神のありように適合させた形で生物・自然の特徴を顕現させる。
結果生物・自然Xの特徴を自身に【感染】させた、Xの特徴を持つ感染者が生まれる。
感染者は、普段は普通の人間だが、力の行使によって普段とは異なる力や外見を顕現させることができる。
獣化者が力を行使した場合、通常体時の肉体のダメージはある程度回復する、その効果は感染源の生物の治癒力に左右される。生物を模倣した獣化者が自然を模倣し魔術者になるなど、魔術者であり獣化者たるものもいる。
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