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天秤と想い人

 保健室に行ったけど、保険の先生の姿はどこにもなかった。代わりに『でかけています』なんてご丁寧に張り紙がされてあったから、あたしは遠慮なくベットを借りた。

 しばらく眠れないまま横になってたらドアの開く音がして、どんどん大きくなる足音。

「だれかいるのか?」

 そんな声と同時にカーテンが勢いよく開けられる。

「……木下」

 そこにはアイツ。あの変態教師こと篠原。

「具合でも悪いのか?」

「あ、はい……ちょっといろいろありまして……」

 そう言ったとたん、頭の中が悲しそうな顔の由良ちゃんでいっぱいになって涙がこみ上げてきた。

「う、うぅ……ひっく…」

 ああ、コイツの前でだけは泣きたくなかったのに。でも涙があふれてたまらない。

「ちょ、おまっ! どうしたんだよ」

「うぅ、なんでもないです……」

 篠原はひとりであたふたして、それからそっとあたしを抱きしめる。

 いつものあたしなら思いっきり突き飛ばすのにさ、今はただその優しさにすがりたかった。

「彼女となんかあったのか?」

「先生には関係ないです」

「話したらすっきりするかもしれないだろ? まあ、話すも話さないもお前の自由だけどな」

 そう言ってやさしく頭をぽんぽんってするのは、甘えていいってこと?

「あのね、あたし由良ちゃんに嫌われちゃったかもしれない……」

「なのにね、あたし由良ちゃんのこと引き止めて上げられなかった」

 篠原はあたしの話をだまって聞いてくれた。

「じゃあさ、俺にしたら? 俺ならお前を悲しませたりしない」

 そう言ってあたしは無駄にカッコいい変態教師に唇を奪われた。

 触れるだけの優しいキス。初めての男の人とのキス。

「しのはら……?」

 なんで、なんであたしなんかにキスするの?

 こんな弱ってるときにそんなことされたらあたし、自分の気持ちが分からなくなっちゃうよ。

「あんず」

 そうあたしの耳元でつぶやくと、再び唇をふさがれる。

 さっきよりも深くて甘いキス。熱い舌が強引に浸入してきて、あたしの口の中で暴れまわる。

「ん…ふぁ……ぁん」

 思わず声が出ちゃうくらいにすごく気持ちいいよ。

 やっぱり大人なだけあってすごく上手い。

 でもね、思ったんだ。なんか違うなって。あたしが本当に好きなキスはこれじゃないって。

 しばらくして篠原の唇がはなれた。

「あんず……あとはお前が選べ」

 息が上がっているあたしに篠原は低い声で呟いた。

「彼女と仲直りするか……」

 あたしを抱きしめる力が少しだけ強くなった気がする。

「このまま俺に襲われるか」

 さらに力強く抱きしめられる。なんだか恥ずかしくなって思わず視線をそらしちゃった。

 あたしの中で天秤にかけられる二人。いつになく優しくしてくれる篠原と、あたしから離れていった由良ちゃん。

 だけど、あたしが選ぶのは最初から決まってる。


 気まぐれで、高飛車で、キス魔で、エロエロ星人なキミ。


「先生、あたし……行ってきます」

 篠原はあたしの背中にまわした腕を解くと口を開いた。

「失敗したら俺んとこに来いよ? いつでもなぐさめてやる」

 そう言ってふっと鼻で笑う篠原に「ありがと」なんて小さく言って、あたしは保健室を飛び出した。


 由良ちゃん、あたしやっぱり由良ちゃんがいいよ。

 由良ちゃんのことが好きだよ。恋人の好きかなんて分からないけど、あたしがいま一番想っている人は由良ちゃんだよ。

 お願いだから、あたしを嫌いにならないで。


※これは百合小説です(笑


 感想とかお気に入り、本当にありがとうございました! ご期待に沿えるようこれからもがんばります><

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