キス魔…いや、悪魔でした。
屋上に小さな風がふいた。
ふわりと舞うふたつのスカート。
「ゆ、由良ちゃ……んむっ」
あたしが言い終える前に、由良ちゃんの唇によってあたしの口はふさがれた。
「んっ!?」
カリっと唇を噛まれる。いきなりの痛みに思わず小さく口をひらいた。
すると待っていましたと言わんばかりに、舌がねじ込まれる。
こ、これはべろちゅー……いわゆるDキスってヤツですかっ!
「ん、ふんっ…んー」
初めての感覚になんだか不安になって、どうにか引き離そうと由良ちゃんの肩を押す。
すると案外簡単に唇から温かい感触が消えた。
あたしたちの唇の間には名残惜しそうに銀色の糸がひいている。うわっ、なんかこれ恥ずかしいかも。
由良ちゃんは制服の袖で口元を拭うと口を開いた。
「イヤだった?」
なんで、そんなに悲しそうな目をするの。そんな顔されたらイヤだなんて言えるわけないじゃん。あたし、やっぱり由良ちゃんに弱すぎでしょっ!
「イヤじゃ、なかったよ。でも、やっぱり慣れないし……」
「あたしが女だから?」
え? 由良ちゃんはさっきよりもっと悲しそうな目であたしを見つめる。その声色もすごく弱弱しくて、心が痛い。
由良ちゃんを悲しませたのはあたしだって、分かってるから。
「ごめんね、でも由良ちゃんは大事な友達だし、えっと…」
傷つけたくなくて、そう言った。
「友達、か……。あたしが男だったら、あんずは付き合ってくれた?」
だけど、由良ちゃんはもっともっと悲しそうな顔になっていく。
由良ちゃんが男だったら。そんなこと考えたことなかった。でも、あたしは今すごく由良ちゃんが大切だ。だから、きっと……
「うん」
由良ちゃんが男でも、好きになってたと思う。付き合ってたと思うな。
「女のあたしじゃ、だめ? あたしの彼女になってよ」
あまりにも切ない声でそう言うから、
「ん」
あたしは無意識にうなずいていた。
「んふふっ」
え?
いま、このしんみりとした状況には明らかに場違いな笑い声がした。
そして、ここにいるのはあたしと、にやりとお得意の悪魔の笑みを浮かべた由良ちゃん……て、え?
えええええ!!
「ゆ、由良ちゃん?」
ま、まさか……
「付き合ってくれるんでしょ?」
にっこり笑顔の由良ちゃん。
「だ、だましたの……?」
「騙されるほうが悪いと思わない?」
由良ちゃんは、悪魔でした。とんでもない悪魔でした。
そして、思ったこと。由良ちゃん、君は演技派の大女優になれるよ。なんて、演技力なんだ!
「でも、あたし由良ちゃんのこと恋愛とかの好きじゃない」
思い切って言ってみる。
「……」
なに、そんなふうに悲しげにしたってもう騙されないんだからね。
ん? 演技じゃないの? なんか、小刻みに肩が震えてる気がするんですけど!
「泣いてるの?」
「ふふふ……」
いや、由良ちゃんは泣いてなんかいなかった。それはもう恐ろしい笑顔で笑っていらっしゃいました。
「じゃあ」
由良ちゃんがそのすらっと長い指をあたしの唇にあてる。
「////////」
な、何してるの! ここは我慢よ、あたし! 理性を保ちなさいっ!!
「絶対にあたしに惚れさせる」
あたしはどうやら由良ちゃんの甘い(?)罠にはまってしまったようです。