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女子12人と告白を同意したい【耐久】  作者: 嵯峨野広秋


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「おれのほうが」

 今、思い出を追いかけている。

 ぼんやり、こんな道だったはずだ。


(あそこに大きな病院があって、たしかそのそばだったな)


 細いところを抜けると、りっぱな垣根にかこまれた豪邸があった。

 そこが、あのとき迷子だった彼女の家なんだ。



「あり……がと……」



 ぎゅっとぼくの手をにぎった小さな女の子。

 その手をなかなかはなさなくて、じれたようにルキが「もーいこーよ」って言ったっけ。 


 かなり不安だったにちがいない。

 ぼくも、その感覚はわかる。

 自分がどこにいるのかわからなくなると、やがて来た方角すら見失って――――


(あ! やば)


 迷子だ。ぼくが。

 あれー……たしかこう行ってこうなって、病院がアレで太陽はあっちだろ……

 と、うしろでこほんとセキばらいの音。


「ごきげんよう」


 ふりかえると、横顔を向けた女の子がいた。

 ぼくと目を合わせたくない、そんなふうに見える。


「もしかして大島(おおしま)さん……?」

「本当は声をかけたくなかったんですけど、あまりにもあなたの様子がおかしかったので」

「助かった。ぼく、道に迷ってたんだ」

「どっちの意味で?」


 自分で言っておかしかったのか、くすっ、と肩をすくめるようにして笑った。

 こういう冗談、言う子だったんだな。


「あはは……」

「スマホはお持ちではありません?」

「家に忘れて」

「そうですか。中学の方向はわかります?」


 スッ、とぼくに体を接近させて、あちら、と指をさして示す。

 甘い、いいにおいがした。


「ところで、ここで何をされてたんですか?」

「あ……キミの家を―――」

「?」


 おもわず口にしそうになった。

 いきなりそんなことをいうのは、あぶなっかしい。

 ただでさえ彼女から嫌われてる最中だというのに。


 や……じつはそんな、嫌われてもない?

 すこしふみこんでみるか。


「逆にそっちは? どこか、出かけようとしてるところ?」

「ええ、まあ」


 大島さんはひたいに手をかざして上を見上げた。

 太陽は高い。青空。今は中間テストが終わったばかりの土曜日の午前中だ。

 

 服装は、紫色のワンピース。


 けっこう個性的というか、どこか魔女のような不思議な感じがする。


「街のほうに出ようと思ってたんですけど、なんとなく気の向くままに近所を散策しておりました」


 やはり――――これは「不思議少女」。

 利用規約の同意をえる条件はバッチリ。


 いくしかない。この偶然のチャンスにかけるしか。


 また四月にもどされてやり直すのは、ごめんだ。


「……よかったら、これからぼくと」

「!」


 話そうとした瞬間、二歩、三歩とすばやくうしろにさがった。


「け、けっこうです。ごきげんよう!」

(ダメか……)


 スタスタ去っていく背中。


 こんな状況じゃ残り時間の少なさを考えると、〈一発〉にかけるしかないな。


 彼女がむかし迷子でこまっていたところを助けた〈王子様〉ってうのは、十中八九自分のことで、


 そして彼女はいまだにその〈王子様〉をさがしている――――


(カチッとはまりさえすれば、同意はもらえるはず)

 

 そうだ。

 やってやれないことはない。

 ようするに、彼女がもっとあのときを思い出しやすいようにすれば……



「おれにききたいこと? アッちゃんが?」



 うれしそうにパッと顔が明るくなった。

 週明けの学校の休み時間。

 ルキは前の席の机の上にドカっとおしりをつけて、えんりょもなくすわっている。


「なになに? なに!」

「いや食いつきすごいけど……ただの質問だぞ?」

「なんでもきいてくれよ。なんでもこたえるよ!」


 にこっと笑う。

 髪色は、黒にもどすこともなく、パンの耳みたいな色のまま。

 ふと教室を見回すと、だいたい女子は数人のグループをつくっておしゃべりしていた。


「ルキ。おまえ女子の友だちはいるのか?」

「えっ!? そ、そんなこときくのかよ」

「いや孤立してないかと思ってさ」

「してないよ。第一、アッちゃんがいるじゃん」

「ぼくは男だろ」

「だから?」


 ずい、と上半身をこっちに寄せて、上目づかいする。


「男女で仲良し。なーーーんも、問題ねーだろ?」

「あ、ああ、そうだよな」


 強気にルキは言って、ぼくは押し切られた。

 じろっと近くの女子が横目でぼくたちを見る。

 その目はあんまり好意的な感じはしなかった。


(まあこれはルキのことだしな。とりあえず良しとしておくか)


 ところでいまこいつは「仲良し」といった。

 教室だからそういったんじゃなく、これには理由がある。


 本来、ぼくたちは「恋仲」じゃないといけないんだ。


 先月に告白して〈幼なじみ〉に同意をもらえていないと、

 四月から先にすすめない。つまりここにいない。


 ってことは、もう〈幼なじみ〉のルキに告白ずみだってことだ。


 実際、四月の終わりまではルキは「恋仲」のようなそぶりをみせていたが、

 五月になるとふつうに「仲良し」のような状態にもどった。



 ―――好感度は月ごとにリセットされている。



 どうして〈こう〉なのかわからないが、〈こう〉じゃないと最終的には十二股(じゅうにまた)というえげつないことになってしまう。


 この利用規約の仕様(しよう)は正直たすかる。


 まじで。


「で、アッちゃん。おれにききたいことってそれ?」

「いやあの、ほら、むかしぼくとノアとおまえの三人で、歩いて遠出したことあるだろ?」

「あるっけ?」


 と、足をブラブラさせる。

 ヒザのあたりに、バンソーコ―がはられていた。


「たぶん小二のときだよ。家から水路ぞいにずーっと、途中おまえが『アイスたべたい』って」

「あー!」 

「思い出したか?」

「えーと、うん、アッちゃんがおしっこ出ちゃったやつだ!」

「ばっ……! おまえ」


 あわてて手のひらを向けた。

 視線を感じる。

 ぼくは手招きして、ルキと廊下にでた。


「大声でいうなよ。まるでぼくがガマンの限界でもらしたみたいに」

「あっはは!」

「ちゃんと公衆トイレをさがしてしただろ……って、そんな話じゃなくてさ」


 心配になってきた。

 が、ぼくも忘れていたそんなことをおぼえていたのなら、希望はありそうだ。


「ルキ。大事なことだ」

「……えっ」

「その日のぼくの服装、知ってるか?」

「えー、そんなのおぼえ――――」ルキはこめかみの横で指先をくるくる回す。「あ。おぼえてた。ほら、ポロシャツ。三色のボーダーで赤青黄色。ノアちゃ……手塚(てづか)のやつが『信号みたいね』ってからかってたんだ」


 記憶がよみがえった。

 あの日、たしかにそんな服を着てた。

 服っていうのは自分の目には入らないからな。思い出にも出てこない。ルキにきいてよかった。


(さて)


 学校から帰るとぼくは部屋の仕切りをくぐって妹のエリアにはいった。

 ばん、とためらいもなく引き出しをひく。

 くるっとまるまったこれは、下着か?

 目的はこれじゃない。


(セナは物持ちがいいからな)


 そして趣味は裁縫(さいほう)

 ぼくのお下がりをもらって、リメイクみたいなことをしてるっていってたから……



「あったっ!!!」



 あざやかな原色。

 信号カラーのポロシャツだ。

 それをみつけて、天高くかかげてるとき、


「……」

「……」


 妹が入ってきた。

 しかしぼくを見て怒るでもなく、

 そーっとそのまま部屋をでていった。


 そして、


 五月の最後の日。


 ぼくは彼女、

〈不思議少女〉の大島(おおしま)水都(みと)を放課後に呼び出した。



「ごきげんよう」



 きっ、とおそらく彼女はせいいっぱいの強い目つきでぼくをみた。


 思わず自信がゆらぐ。


 イケメンでも人気者でも運動部のエースでもないぼくで、大丈夫か。


 サァ……と葉っぱが風にそよぐ音。


 ここは学校のスミの人気(ひとけ)のない場所。


 冗談まじりに〈伝説の樹〉とよばれるそれを避けるようにして、彼女ははなれて立っている。


「大島さん」

「はやくすませて。私、部活があるから」

「その前に、ひとついい?」

「なんです」


 ごめん、とぼくは頭をふかぶかと下げた。


「こういうのは、きっと一方的にやっちゃダメなものだ。でも、ここからぼくははじめたい。おたがいを知り合うきっかけをつくるには、こんな方法しかなかった」

「……」

「ぼくはキミの〈王子様〉になりたい」


 そう言うと、緊張がほぐれたように大島さんは「ぷっ」と小さく笑った。

 が、すぐに真顔にもどす。


「あなたではなれません」

「なれる。っていうか、一度、すでになってるんだ」

「え?」

「これをみてくれ」


 スクールバッグからとりだした。

 あの日のぼくが身につけていた服を。


「それは………………」長い()。そして口元に手をあてて言う。「こども服? ずいぶんサイズが小さいですね」

「ちょっとまって。これで、なにか思い出さない?」

「なにも」

「キミが迷子になっていたとき、これをぼくが着ていたんだけど……」

「そうでしたっけ?」


 彼女はななめ上を見上げた。

 口元は、なぜか笑っているように見える。


「でもそんな気もします。じつは私、最初から知ってました」

「さ、最初って……」

「あなたと同じ中学に入ったときから」


 突然ぼくをみてウィンクした。

 とじたのは、泣きボクロのある左目。


「どうしたらいいかわからなくて……私、男子と仲良くなんてなったことがないし、それにずっとむかしの出来事だし」

「じゃあ、テストが終わってルキと下校してたあのときも――」

「はい」


 両手を体のうしろに回し、こくりとうなずく。

 肩のあたりで切りそろえた黒い髪がゆれる。


「あなたをまちぶせしてたら、ちょうどよくチョウが飛んできたから……『いけっ!』って勇気をだして」

「チョウのあれは、もしかして、ぼくに思い出させるために?」 

「そうですね」

「ぼくを知らないフリをしたのは?」

「だっておぼえてないかもしれなかったから。藤本(ふじもと)くんが」

「一回、キレたっていうか、冷たい態度だったのは?」

「あれはなんていうか……ああやってつきはなしたら、かえって私を追いかけてきてくれるかな、みたいな」


 いったん整理したい。


 えーと、これは、つまり、まるまる一気に一言で決着をつけるなら、



「ぼくとつきあってください」



 これ。


 大島さんはだまって首をタテにふった。


(やれやれ)


 なんとかなった。

 やっぱり、やってやれないことはない。

 というか、今回は思い出に助けられたな。



「うー」

「おい、もうはなせよルキ」



 あの日。

 家まで送りとどけた大島さんは、わかれぎわにぼくの手をぎゅっとにぎった。

 その帰り道で、ルキはずっとぼくと手をつなごうとしてた。


 そんな記憶もある。 


 校舎のカドを曲がって正門へ向かうとき、

 前にだれかが立っていた。


 茶色いショートカットのセーラー服。


 幼なじみのルキだった。


 下を向いてる。


 声をかけても返事しない。


 近づいて肩に手をおくと、やっとぼそっとしゃべった。


「おれのほうが……」

「えっ」

「おれのほうがアッちゃんのこと好きなのに!」


 スカートがひるがえった。

 遠ざかるうしろ姿。夕日。


 帰宅してぼくはあの利用規約の紙をたしかめた。

 



―――――



   利用規約



 本サービスを利用するには下記すべての女子に告白の同意をとること。




第一条 幼なじみ ✓ 


第二条 不思議少女 ✓


第三条 ツンデレ






―――――




 ため息がでた。

 一難さってまた一難。

 まずはツンツンしてる子をさがすところからか……と、意外にこんなルールになれてきた自分。


(……)


 明日、ルキは登校するだろうか。


 そんなことはいらない心配だった。



「アッちゃん! おはよっ!」



 走ってきて、うしろからぼくの背中をポンとたたいたルキ。

 表情は明るい。

 もしかして、好感度とともに、告白に関することもリセットされているのか?


 たぶんそうだ。

 ホッとした。


「なあルキ。おまえってツンデレ?」

「はぁ!?」片目をほそめる。「おれはアッちゃんにツンしたおぼえはねーよ」

「デレは?」


 急に静かになった。

 そしてごまかすように宿題の話をはじめる。


 まわりには登校する生徒。


 なんとなく、男子は男子、女子は女子でわかれている。

 男女のペアで歩いているのは、ぼくたちぐらいだろう。



「ちょっと」



 靴箱のところで声をかけられた。

 これは同じクラスの、女子の級長だ。


「朝からイチャイチャしないでよ」

「あ?」

「なによ。文句あんの?」


 おでこをだした長い髪のポニーテール。

 とげとげしい物言い。

 周囲をよせつけない早歩き。


 これは、はやくも発見したか?


「あーやだやだあんな女。アッちゃんもそう思うだろ?」

 

 ルキは肩をすくめる。


 ぼくは心の中で肩を回して準備運動をはじめていた。


 次の同意をえるために。


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