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女子12人と告白を同意したい【耐久】  作者: 嵯峨野広秋


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「しんぱいするな」

 まずいことになった。

 今日で中間テストも終わり、五月も残り一週間と半分。

 なのにまだ、告白する相手がみつかっていない。


 そしてあの―――すべての同意をえた直後に起きたイベント。



「おっ! かっきーバイク! カタナだカタナ!」



 下校中、となりを歩くルキがお気楽にいう。

 むかしからこいつは車とかバイクとか、いわゆる〈男の子が好きなもの〉が好きだった。


「ん? どうしたアッちゃん。首なんかおさえて」

「いや、なんでもないよ」


 あれ以来、バイクをみるとイヤでも思い出す。

 ぼくが死んだイベントを。

 次は、死なずに助かるだろうか?


(っていうか、次があるかどうかだけど……)

 

 とりあえず今回はダメな感じがする。

 がんばって同意をとろうにも、まわりにそんな女の子がいないから。




―――――



   利用規約



 本サービスを利用するには下記すべての女子に告白の同意をとること。




第一条 幼なじみ ✓ 


第二条 不思議少女






―――――




 そもそもなにをもって〈不思議〉といえるのか。

 妖精がみえる、とか、自称宇宙人みたいなやつ?

 かりにみつかっても、あまり仲良くなれそうにないな。


「ん? なんだあいつ?」


 ルキが立ち止まった。

 車のとおれないせまい道。両サイドには建物のかべ。

 そこを歩いていると、ふらっと前からだれかが歩いてくる。


 とこ、とこ、というペースで右に左に。

 スマホを見てるわけじゃないのに、なんだかあぶなっかしい(あし)どりだった。



「あ。ついに王子様発見―――じゃなかった。ざんねん」

「えっ?」



 かなり近づいて、わかった。

 この女の子はチョウを追いかけていたってことに。

 ぼくの体のまわりをパタパタと一周すると、チョウはどこかに飛び去っていく。


「あの……アンタなにやってんの?」

「はい?」


 ルキが声をかけると肩ごしにふりかえった。

 ぼくらと同じ中学の制服を着たその子は、もう背中を向けて歩いていこうとしている。


「今、うちらとぶつかりそうになっただろ?」

「私と?」

「いやさー……おこってるとかじゃないけど、もっと気ぃつけねーとあぶねーっつーか……」

「はあ」


 心ここにあらず、という感じで視線を斜め上にあげる。

 左目の目元に小さな泣きボクロ。

 肩のあたりで切りそろえたまっすぐな黒髪。

 彼女の雰囲気を一言でいうと、「不思議」だった。


(不思議?)


 なにかほおっておけない。

 ぼくはタタッと彼女を追いかけた。


「同じ学校だよね? ぼく、二年の藤本(ふじもと)

「これはご丁寧(ていねい)に」

「どうしてチョウを追いかけていたの?」

「モンシロチョウは王子様のところへみちびいてくれるからですよ」

「王子様……」


 パッと頭では思いついたが、

 これは勇気のいる一言だ。

「じゃあぼくがその王子様だよ」なんて。

 その数秒のまよいを読み取ったのかどうか、彼女はこう言った。



「あなたはちがいます。今度こそ『また会える』と思ったのですが。ざんねん」



 真顔で口元に指先をあてて言う。

 と、ルキがそこで割って入った。


「ちょっと。おれのダチのアッちゃんを、残念でなさけなくてハズレな男子呼ばわりしてんじゃねーよ」

(……そこまでは言われてない気がするけど)


「あら」


 おどろいたような反応だった。


「どこかでこんなセリフを耳にしたような……私の気のせいでしょうか」


 考えごとをするように斜め上を向き、

 その女の子はそのまま歩いていった。


「ったく。なんだありゃ。ああいうタイプ、ほんとニガテだぜ。ノレンにウデオシっつーの?」

「まあまあ」


 ルキをなだめぼくたちは下校を再開した。


 太陽はまだ高い。


 じつは今は午前中だった。


 今日は中間テストの最終日でテストは二教科しかなかったからだ。



「ほんとはウチに寄ってってほしいけど、この時間、母さんが寝てるから。わりーな」



 顔の前で手をタテにして申し訳なさそうにいうルキのうしろには、二階建てのアパート。

「ボロくてせまい」とはルキの(だん)

 自転車置き場にはたおれた自転車と、黒い原付が一台。


「ルキ。よかったら久しぶりに遊ばないか」

「え?」

「むかしみたいにマリカーやろう。ゲーム持ってきて、二人で公園でも行って」


 そう提案すると、

 ぼくの幼なじみはムリに笑ったような顔で、


「……ゲーム、ぜんぶ売られたんだ。ほんと、ごめんなアッちゃん」


 と口にした。


 ぼくは恥ずかしい気持ちになった。


「ああうん」とモゴモゴ返事しただけで、「ぼくのほうこそわるかった」とも言えなくて。


(ぼくがこれをあいつにあげたって、なにも解決しないんだろうな)


 家に帰って自分の部屋でゲーム機を手にとった。


 ゲームする気には、ちょっとならない。


(あーあ)


 ベッドにねころんだ。


 そして利用規約のことを考える。


「不思議少女」に告白して同意をもらう、これが現在の目的だ。


 今日の出会いでルートは見えた気がするけど、まだどうなるかわからない。   


 窓の外をみた。ちょうどお昼、正午あたりだろうか。


 目をつぶってそのままウトウトしてしまった。



「ぼうけんしようぜ!」



 黒くてみじかい髪のルキが言う。その横に長い髪のノア。

 二人ともぼくの幼なじみの女の子だ。


「アッちゃん、ノアちゃん、みんなでいこーよ!」


 青空。

 前を行くルキに、うしろをついてくるノア。

 みんな背は小さい。


 一列になって、

 家の近所をはなれ、知らない道へ知らない道へ。


 ともすれば集団迷子(まいご)

 でも不安よりも好奇心が勝っていた。 


 そのうち、ぼくは気がついた。


 ノアのうしろに、もう一人だれかがいる―――――



「もー。シワになるよぉ。お兄ちゃんてばー」



 ぐいぐい手をひかれていた。

 時計をみると、三時だった。


「お昼寝するなら着替えないと」

「ああ……そうだよな」

「ちょっ! 下からぬがないでよ、もう!」


 しゃっ、と妹は部屋の仕切りのカーテンをしめる。

 ぼくと、小六の妹は同じ部屋だ。

 親がぼくと妹に「せまい部屋でべつべつがいいか、広い部屋でいっしょがいいか」を選ばせた際、

 妹は「いっしょ!」と即答した。それ以降、こんな感じですごしている。


(あのときいたのは妹……? いや、そんなはずは……)



「ごきげんよう」



 登校時、ばったり彼女に出くわした。

 スクールバッグの持ち手を両手で持って、ちいさく頭をさげている。


「おはよう。えーと……」

大島(おおしま)です」

「あ、大島さん。よろしく」

「何をですか?」

「え?」

「よろしくというのは、私にお願いしているのではなくて?」


 お願い……は後々(のちのち)することになるかもしれないけど。

 告白の同意のお願い。

 が、今はまだ彼女にそうするかは決めていない。


「まあとくには。ただのあいさつの『よろしく』です」

「はあ」


 斜め下に目線をさげた。

 そよ風で髪がゆれた。


「今日はあのかたはいませんの?」

「あのかたって?」

「ほら、ショートがよくお似合いで、元気のいい柴犬(しばいぬ)みたいな茶色い髪をした……」


 ルキのことか。


「あいつはまだ寝てるんじゃないかな。けっこう遅刻ギリギリが多いから」

「そう」


 流れで、ぼくたちはいっしょに歩いて登校してる。

 朝からラッキー、だよなこれは。


(せっかくだから仲良くなりたい)


 ぼくは頭の中で話題のデッキをゴソゴソしていた。

 この場で一番はずむようなやつがいい。


「昨日は、あれからどうしたの?」


 こんな言葉がさらっと口からでる自分におどろく。

 ぼくは利用規約の第十二条まで同意をとった前回をへて、

 コミュ(りょく)がかなり上昇したようだ。



 はやめの自己紹介とタメ口。



 これがぼくが学んだことの一つだ。

 タメ口できらわれるより、ずっと敬語でよそよそしいほうがリスク。


 一ヶ月で告白までいくことを考えると、どう考えてもそうなるんだ。


「あれから? 私は、帰宅しましたが」

「またチョウを追っかけなかった?」

「チョウならなんでもいいというわけでは、ないのです」

「そうなんだ?」

「それに私、重度の方向音痴で」


 へえ、とあいずち。

 そこから、大島さんはむかしのことを話した。


「ずっと小さいころ、チョウを追いかけていたら見知らぬ場所までいってしまって」


 ほっぺを片手でおさえる。

 彼女の左にいるぼくは、左目の泣きボクロがはっきり見えた。


「でも泣かなかったんですよ、私。泣かずに、チョウのあとを追いました。そうしたら」

「うん」

「王子様に、会えたんです」視線を斜め上に向けた。「ぶつかった私をやさしく抱きとめてくれて……『心配するな』って元気づけてくれて」


 ふいに記憶がよみがえった。



「しんぱいするな」



 男はぼく一人。こどもながらにそこに責任感も感じていたんだと思う。



「さあ、いっしょにかえろう」



 ぼくらは大冒険をしたつもりだったが、

 せいぜい3kmとか4kmとか、そんなもんで、

 記憶力のいいノアをたよりに進んでいくと、ぶじにかえれた。


 最初にその子を家までおくったとき、もう夕方になっていてかなりヒヤヒヤはした。

 その子―――ぼくたちについてきた女の子の名前は――


 泣きボクロのそばで大きな目がパチッとまばたきする。


「だから私、今でもたまにチョウを追いかけてしまうんです。あの日のように会えるかもしれないから」

「ぼくが」


 えっ、と声には出さないが、そんな表情になった。

 大島さんの立ち姿ごしにみえる中学校の正門。

 はやめの時間のせいか、周囲にはほとんど生徒はいない。


 どうする。


 インパクトを出すために、多少明るく伝えたほうがいい?


 まよっている時間はない。


 ぼくは立てた親指の先を自分に向けて、ぼくのイメージする〈王子〉になりきってこう言った。



「キミの王子様だよっ!」



 最後の一文字を言い切るコンマ数秒前、

 ぼくの言葉にかぶせるように大島さんは言った。


「きらいです。そういう冗談。私の思い出を……(けが)さないで」

「いやそんなつもりは……。ぼくはほんとに、たぶんあのときの」

「失礼します。もうお会いしたくありません」

「あ……」


 背中を向けた。

 不思議と温度がわかる。

 キンキンに冷たい背中だった。


 温度をはかるやつがあったらきっと真っ青だろう。


 ぼくの顔も。


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