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女子12人と告白を同意したい【耐久】  作者: 嵯峨野広秋


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1/2

「こういうの、やめない?」

 やってやれないことはない。

 ぼくはいつも、そう思っている。


「なー、やめとけよぉ、アッちゃ~ん」


 頭のうしろに両手をまわしてついてきてるのは、ぼくの幼なじみだ。


「ルキ。ぼくはやめない。っていうか、もうやるしかなくなった」

「はぁ!?」


 幼なじみが片目をほそめる。

 こいつは、むかしはこんな顔はしなかった。

 もっとまっすぐというか、スナオというか……、とにかく底抜けに明るいヤツだった。


「なら勝手にしろよ。どうせうまくいかねーよ」


 フキゲンにそう言い、ルキは向きをかえて行ってしまった。

 うしろ姿のあいつの髪の色――パンの耳みたいな色。

 中二のクラス替えで久々に再会したあいつは、すっかりヤンキーみたくなっていた。


(……)


 もともと、ぼくたちは同じマンションに住んでいたんだ。

 ぼくとあいつと、そしてこれから会う女の子の三人。

 が、いっしょに小学校を卒業する前に、あいつは学区の外に引っ越してしまった。

 引っ越す日の最後、ルキとギリギリまで遊んでいた日のことは、いまでもよくおぼえている。

 あいつが泣いた顔を、ずっとかくしつづけていたことも。


(……って、ヒタってる場合じゃないな)


 ぼくは立ち止まった。

 ここは学校のスミの一角、〈伝説の樹〉と冗談半分でいわれてる樹がある場所だ。


 つめたい風がふいた。


 ここには、ぼく一人がぽつんといるだけ。


 何回かチャイムが鳴った。スマホをみると六時になっていた。


(まいったな……放課後すぐきてくれって伝えてたんだけど)


「ははっ! ブッチされてやんの!」


 翌日の朝、ルキがぼくを指さして笑った。

 ひとつ前の席の机におしりをつけて座って、両足をバタバタさせている。


「だからおれ言ったじゃんよ。やめとけってさ」

「ぼくは今日もやるぞ」


 えー、とルキが大声をだす。

 何事かとまわりのクラスメイトがこっちを見た。


「ま……まじかよアッちゃん……あのよぉ……こんなことは言いたくないけどさ、あの子が約束をケったってことは、つまりそういうことなんだぜ?」

「そういうこと?」

「そ。みゃ・く・な・し」


 言葉とリンクして一文字ずつ左手をスッスッと横に流しながら言う。

 言い終わって、にっ、と笑顔になった。この笑顔は、むかしとほとんど変わらない。


「いいんだ。なくてもやる。さもないと―――」

「?」


 ルキが首をかしげた。


 つづきを口にするのをまっているようだが、ぼくは言えなかった。


 あの紙のことを。


 エイプリルフールの朝、しれっと部屋の学習机に置かれていたあれのことを。


 言えないうちに先生が教室に入ってきて、そのまま朝礼がはじまった。


 朝礼の前、先生はもの言いたげな目でルキのほうを何秒かながめていた。


「や、応援してーよ? おれも」


 昼休み。

 ルキがぼくを教室の外へつれだす。

 向かった先はとなりのとなりのとなりのクラス。


「みろよほら。あんなにかわいくなっちゃって。もともとガキのころからイケてたけど、もうなんつーか……サナギがチョウになったっつーの?」

「まあな」

「それに……もうおれが引っ越す前から、アッちゃんあの子と遊んでなかったろ?」ぐっ、とヒジでぼくを押す。「勝算ねーべ」

「わかってる」

「……」

「でも、あいつはぼくの幼なじみなんだ」

「はぁ!?」


 ルキが片目をほそめた。

 ほそめすぎて、ウィンクみたいになってる。


 そう。


 条件をクリアするには〈幼なじみ〉でないといけない―――らしい。


 最初の一人は、そうじゃないといけないんだ。




―――――



   利用規約



 本サービスを利用するには下記すべての女子に告白の同意をとること。




第一条 幼なじみ 




―――――




 ぼくも正直、状況をぜんぶ飲み込めているわけじゃない。

 しかし身をもって知った。いや、知らされた……わからされたというべきか。



 ――今、この時間は、人生で二回目の中学二年の四月なんだ。



 ZAP(ザップ)してループしたのは、ぼくが条件を満たせなかったせいだと思われる。

 条件とは『幼なじみへの告白』。

 ZAP……ぼくが勉強してるゲームづくりの用語を、こんなカタチでつかうことになるなんて。 

  


「ノア。きてくれたんだな」



 放課後のきのうと同じ場所。

 足音がきこえたので顔をあげると、彼女がいた。


 手塚(てづか)乃彩(のあ)


 ぼくの幼なじみの女の子だ。


 ちなみに、今日のチャンスをのがすとゴールデンウィークにはいってしまう。

 四月はもう終わりなんだ。

 最悪、ぼくたちは同じマンションだからどうにかなるかもしれないけど。

 


「こういうの、やめない?」



 言いながらノアは指先で長い髪をかきあげた。

 背景には夕焼け。そよ風でゆれるセーラー服。

 立ってるだけで絵になる、すごい美人だった。


「どうせクラスの男子にそそのかされたんでしょ? ワンチャン、コクっとけみたいにさ」

「や……まってくれ、まだぼくはなにも……」

「ここに呼び出す意味がわかんないぐらいバカだと思ってる?」

「そんなわけないよ」

「……やめて告白なんか。この先、気まずくなるじゃない。っていうかこれ、ギリでコクハラってやつだよ?」

「ノア。ぼくは」

「あーはいはい。そこまで。やめよ? ねっ?」

「せめて、想いを伝えるだけでも……」

「じゃあ私、これから部活だから」


 バイバイ、とひらひら手をふった。

 ―――瞬間。

 ぼくの横をものすごい勢いで、黒い影が通り抜けた。


「てめーっ!!!!! ざけんじゃねー!!!!!!」


 セーラー服の首元のえりを赤いスカーフごと、シワもなにもおかまいなしにつかみあげる。


「い……いたいんだけど。あ。あなた、アビちゃん?」


 安孫子(あびこ)琉希(るき)

 それが、ぼくのもう一人の幼なじみの名前だ。


「いくらなんでも冷たすぎんだろ。あぁ!?」

「はなしてよ」

「はなさねー」

「人、呼ぶよ?」

「呼べよ」


 はぁ、とノアはため息をついた。

 胸ぐらをつかまれてもあんなに落ちついているのは、つかんでいるのがかつてともに遊んだルキだからだろうか。


「たのむ。手をはなしてくれ。ノアは何もわるくないんだ」


 じろり、とするどい視線がぼくに向く。

 心なしか、その目は涙ぐんでいるように見えた。


「……はなすから、アッちゃんにあやまれ」ルキは手をはなした。

「なんで?」

「ことわるにしてもことわりかたっつーもんがあんだろ」

「意味わかんない。そもそも、そっちは本気じゃなかったでしょ? なんかのノリでやったんじゃないの?」


 そこでふたたび、今度はノアの肩をワシづかみにする。

 静かな〈伝説の樹〉の周辺に、ルキの大声がこだました。



「アッちゃんはなーーーっ!!! しょーもねーノリでこんな告白するヤローじゃねーよっ!!!!!」



 ずきんと胸がいたむ。

 ルキの思いに反してノアの言葉はだいたい当たっていたからだ。

 たしかにぼくは「本気じゃない」し、ある意味この告白は「ノリ」もしくは「いきおいまかせ」だった。


「ったく」


 帰り道。

 まだルキは怒りがおさまっていないようだった。


 ぼくはこいつに申し訳なかった。


 髪の色がかわってヤンキーになったとか思っていたが、中身はなにもかわってなかったんだ。


 一回目の四月は、いや今回でも四月の途中までは、ちょっと避けるような態度をとってしまった。


 そのことがほんとに、申し訳ない。


「ん? どした?」


 ぼくの目線に気づいてルキがいう。


「おれの髪になんかついてる?」

「いやべつに……あのころよりちょっと伸びたな、って」


 むかしは耳をさっぱり出したスタイルだった。

 でも今は、耳をすっぽりおおうほど伸びている。

 とはいえロングってほどじゃなく、ショートの部類ではあるけれど。


(知らない道だな……)


 ルキはせまい路地をぐんぐんすすんでいく。

 と、


「アッちゃん、ここがおれん()だよ」


 すぐには言葉が出なかった。

 それは二階建てのアパートだった。

 手前の自転車置き場にはサドルが破れた自転車と黒い原付バイク。

 一階の一番はしの部屋は郵便受けにパンパンにチラシが入っていて、通路にはところどころにゴミが落ちている。


「ボロいだろ? あのマンションとはくらべものになんねーよ。わるい意味で」

「ルキ」

「これが、おまえやノアと連絡とりたくなかった理由だよ。おれの気持ち、ちょっとはわかってくれよな」

「あ、ああ」

「……じゃあな、アッちゃん。ここから家までの道、大丈夫か?」 


 ぼくはうなずいた。

 二階へ、外階段を上がっていくルキ。

 ドアの前で立ち止まって、こっちを向いて手をふった。ぼくもふりかえした。


(風のウワサで、お父さんの転職がうまくいかないとは聞いていたけど……)


 そしてあいつには言えないが、もっとイヤなウワサも耳にした。


 親からDVを受けている―――。


 ぼくはそれを信じたくない。


 それが、ルキが髪の色をかえた理由だとも、思いたくなかった。


(ぼくはぼくで、あいつはあいつで問題をかかえてるってわけか)


 土曜日になって日曜日になった。


 本日をもって、四月終了。


 ぼくはまた最初からやりなおしになるわけだ。


 なにも手につかずに夕方になった。


 学習机の引き出しをあける。


 そこには利用規約の同意書があった。


 なんどみても不思議だ。


 書類の下のほうにはぼくのサインがある。

 身におぼえはない。

 けど、まちがいなくぼく本人が書いたものだ。

 


 名前 藤本(ふじもと) 亜久里(あぐり)



 どうして「まちがいなく」かと言うと「藤本」の「本」。

 この字の縦線をハネてしまうクセがむかしあって、そのナゴリで線の切れ目でぐっと筆圧がつよくなる。

 この「本」もたしかにそういう書き方になっていた。


(第一条から第十二条まで……最初の〈幼なじみ〉から先はまだ空白になっているけど、きっとこれからクリアするごとに追加されていくんだろう。それを十二回、つまり一年―――)


 まいった。

 まったくうまくいく気がしない。


 ぼくが、だれもがふりかえる絶世のイケメンでもないかぎりムリなんじゃないか?


 女子に告白して同意をもらうって……。


 一人にその同意もらうだけでも大変だっていうのに。


 っていうか、おもいっきりフラれてるし。


 家が同じ建物だからまだチャンスはあるものの。


 同じ建物の幼なじみ……か。



(――――あっ!)



 ぼくはベッドから起き上がった。

 そのまま急いで身だしなみをととのえる。


(どうして……今までこの手に気づかなかったんだ?)


 オートロックのエントランスを抜ける。


 全力で走っていた。


 頭の中はあいつのことだけ。



「ちょっ! もっかいもっかい!」

「いいよ」

「次は負けねーぞ、アッちゃん!」



 二人でゲームで遊んだあの日々。


 何度もリベンジをせがんできたあいつのあのあきらめのわるさ。


 そのあきらめのわるさ、ちょっとだけ、ぼくにもわけてくれるか?


「ルキ!」  


 ちょうどあいつが、ドアから出てきたところだった。

 うすいグレーのパーカーにジーンズ姿。

 間髪(かんぱつ)いれず、ぼくは一階から二階のあいつを見上げて大声で言った。



「ぼくとつきあってくれ!」

「ああいいぜ!」



 信じられない返事のはやさだった。

 そのまま階段をカンカンカンとおりて、ぼくのそばに駆け寄ってくる。



「アッちゃん……じつはおれ……ずっとおまえに会いたかったんだよ」



 がばっ、とぼくの体に腕をまわす。

 パンの耳の色のショートカットの髪からいいにおいがした。


「うれしいぞ……」 


 体の前のやわらかい感触のせいで、少しルキの声がとおい。


 このドキドキは、走ったせいのドキドキとはたぶんちがう。


 そう。


 ルキは、れっきとした〈女の子〉だから。


 そのまま、ぼくたちはしばらく抱き合った。


 まるでドラマのワンシーン。


 もしもこれがドラマなら、

 もうなんか最終回のようなのに、

 これははじまりにすぎない、っていう無言の圧力を、

 その日の夜に確認した利用規約の紙からガンガンに受けた。




―――――



   利用規約



 本サービスを利用するには下記すべての女子に告白の同意をとること。




第一条 幼なじみ ✓ 


第二条 おとなしい子






―――――




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