嫌味な男、ジュリアン
俺は火の系統の技が使えない。
故に火入ができない。
母さんの秘伝ノートに書いてあったスペーストラベラーの特殊調理には
締 → 血抜 → 切断 → 火入
の工程が必要になる。スペーストラベラーからGETできる特殊スキル「収納」を取得するには
火入ができる仲間が必要になる。
俺が知っている火入ができる仲間、それは
「ジュリアン・ド・ヴィマール」
こいつだけだ。正直こいつを仲間と呼びたくないが、小・中学校の時の同級生なんだ。
こいつがジャポンタウンのどこにいるかを見つけ出すのは意外と簡単だ。
美女を見つければいい。あのバカはいつも美女をナンパしている。だが100%相手にされない。
しかしこいつは金持ちの名家なので家来にあれやこれやと指示をして美女の行く道をふさいでくる。
美女がOKというまで粘るので結局10時間くらい美女を拘束するのだ。だからこいつを見つける方法は美女を見つけるのと同じなのだ。
俺は道中ですれ違ったおっさんに話しかけた。
「すみません、どこかに困ってる美女いましたか?」
「おっ!ナンパか!威勢がいいのう!」
「いえ、違います。あの悪名高き金持ちバカに用があるんですよ」
「ああ、またあの『歩く公害』か。……この先を右だ。お嬢さんの悲鳴が聞こえるからすぐ分かるぞ」
(そう、この街では美女を探せばあの悪辣バカが見つかるということは周知の事実なのだ。)
俺はしばらく歩く。
(あー、あいつに会うのは嫌だなぁ、口を開くたびにマウントか罵倒をしてくるんだ)
突き当りで右に曲がる。
それからしばらく歩く。
(あー、最悪だ。あいつの男のくせに甲高い声が聞こえてきた。)
「ジュリアン・ド・ヴィマール」
一分の隙もない七三分けに固められた黒髪の男。
面長の輪郭は、どこか馬を彷彿とさせる独特の圧迫感があり、目つきがとても悪い。
何より目を引くのは、その異常なまでに純白を保った特注のコックコートだ。
汚れ一つ、シワ一つないその生地は、魔物との戦闘を「作業」としか捉えていない不遜な自信の表れでもある。
胸元と襟には金色の刺繍が施され、それが彼の所属する家系の、あるいは学園への寄付金の額を無言で物語っていた。
公園のベンチに座っていた女性にジュリアンは話しかけていた。
ジュリアン「お嬢様、私とお茶しなかね?」
美女「何度も言ってますけど、お断りです!」
ジュリアン「おねぇさん、オラとお茶しなーい?」
美女「何度も言ってますけど、お断りです!」
どうやら「私」から「オラ」に変えればナンパが成功すると思っているらしい。
美女「私、忙しいから帰りますんで!」
そうやって帰ろうとすると謎の黒服が行く手を塞いでいる。
美女「もう!何時間足止めさせる気ですか?ジュリアンさん!あなたとお茶するくらいならドブ水だってよろこんで飲みますよ!」
ジュリアンは眉を引きつらせてこう言った
ジュリアン「貴様!人が下手に出ていればいい気になりやがって」
ジュリアンが拳を大きく振りかぶった。
さすがに見てられなかったので止めに入る。
「おい、やめたらどうだ。嫌がってるだろ」
「なんだ?お前はぁ?って思ったら片親のルイじゃねぇか?ママは元気かい?」
「お前こそママに挨拶の仕方から再教育されるべきだろ?」
あーくそ!何言ってんだ俺は。こいつをパーティに入れて火入してもらうんだろうが!
「貴様?何の用でここに来たんだ?」
とジュリアン。
「何も用などねぇよ!たまたま居合わせただけだ。」
あー、だから 火入、火入!
「違うな!貴様は私のことが大嫌いなハズだ。ここに来るはずがない。わざわざ会いに来るほど大事な頼みがあるんだろぉ?」
「それともルイ坊は2ちゃいだから、言葉をしゃべれないんでちゅかぁ~?」
こいつは当然のように煽ってくる。
俺は拳をぎゅっと握りしめて、俯き、小声でこうつぶやいた。
「俺とパーティを組んで・・・くださ・・ぃ」
「なんだって? 聞こえないなぁ?」
「俺とパーティを組んでください!」
「・・・ぷっ! ぎゃはははは! うーひひぃ! がぁははっは!」
ジュリアン以外の取り巻き達もみんなで大笑いしていた。
「ちょっ!貴様!気でもふれたか?はたまた何で私にだ?頼むから理由を言ってくれぇ」
俺は握った拳をさらに握って、奥歯をかみしめた後こう言った。
「俺は火の系統の魔法がつかえません。だからジュリアンさんの力がお貸いただければと」
「・・・ぷっ! ぎゃはははは! 火を使えないから、代わりに私がその役割を担えと!」
「ふむ!いいだろう!では、土下座してその汚い天パで私の高貴なる革靴を磨いてくれたら子分として受け入れてやってもいいぞ!」
「だめですよ!そこのお人!こんな無礼な男に土下座なんて!」
初めて会ったばかりの美女が止めろと止めに入った。
「俺には火入が必要なんだ。・・だから ここでプライドを捨ててでも!」
俺は、苦虫を噛み潰したような顔で応えた。
「ジュリアン様、もう・・いいんじゃないでしょうか。」
ジュリアンの影に隠れていた小柄の中性的な少年が口を開いた。
ジュリアンの影に隠れるように控えていたその少年は、一見すると少女と見紛うほどの可憐さを備えていた。
身長は150cm程度の小柄で、背負った巨大な革製の画材カバンに、その細い体が今にも押しつぶされそうに見える。
くすんだ赤毛は、手入れを拒むように無造作に跳ねており、その隙間から覗く肌には、陽光を浴び続けてきた証である淡いそばかすが、鼻筋から頬にかけて点々と散っていた。
何より異質なのは、その大きな瞳だ。 吸い込まれそうなほど澄んだブラウンの瞳はただ目の前の事象を冷徹に、かつ情熱的に凝視している。
「あ・・あのっ皆みてますし、これ以上はジュリアン様が恥をかくだけかと...」
「おっ、おおう! そうかミカ!私が恥をかくことを心配してくれたのか!お前は優しいなぁ」
ジュリアンは今までの態度が一変するような優しい口調でその少年に応えた。
「ふん!今日のところは許してやる!どうせ貴様もあの学園に入学するつもりなのだろう!だから私にパーティを組むなどと世迷言を。」
「一つだけ教えてやるよ!料理で最も大事な工程はは火入だ!お前のチンケな神経締とかいう技は足しにすらならん!」
そう言ってジュリアンはこの場を立ち去ろうとしていた。
「ほら、お前もさっさと来るんだ。」
ジュリアンにそう言われると中性的な少年は
「神経締・・・」
と何か知ったような口ぶりでつぶやいた後、一礼してジュリアンの後を追いかけるのであった。
黒服たちは何事もなかったかのように、ジュリアンの前方後方左右に散らばり、まるでカバディをするかのような歩き方で
去って言った。どうやらボディーガードのつもりみたいだ。
「あの男の言いなりになるなんてごめんです。あなたもそのほうが良かったと思います。」
先ほど俺をかばった美女がそういった。
「はは!そうかもしれませんね。」
俺はジュリアンという唯一の火入人材を逃したのだった。
(これでよかったのか・・うーーん。)
まあこの件は後で考えよう。
俺にはあと一つやり残したことがある。
父さんと弟に学園に入学すると告げ、お別れする。
きっと二人とも反対するし喧嘩別れすると思うんだ。
だから、せめて最後は思いの丈をぶつけて、後悔せずに去りたいんだ。




