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この街の違和感

山あいの細い街道を抜けた先に、その街はあった。


木造の家々が寄り添うように並び、軒先には干された薬草や見慣れないキノコ。石畳の代わりに敷かれた平たい石の小道は、長年の往来でなめらかにすり減っている。


水路のせせらぎと、かすかに漂う出汁の香り。


ここは観光地でも城下町でもない。



『ジャポンタウン』



変な名前だが、どこか懐かしい響きだった。


ここは最初の料理人の一人、チキュウから来たジャポン出身の『ケイスケ ササキ』が訪れ、彼の影響を色濃く受けた田舎の街だ。


俺はここにすむサユリ婆ちゃんに会って、さっき採取してきた漢方を渡して、マトリョーシカ入学の軍資金にするつもりだ。


サユリ婆ちゃんの家は今いる場所から歩いて数百メートル先の川のほとりにある。


しばらく歩いていて俺はいつも変だなって思っていた違和感をまた例にもれず感じていた。


この街の特徴の一つ、田舎なのになぜか文明的な鍵付きマンホールが数10メートルおきに通路に配置されている。


そしてこのことについて不思議なくらい誰も疑問に思ってないみたいだ。まるで最初からあったみたいに。


街を歩いていたらいろんなタイプの人達を見かける。


イタリアタウンから来たといってるアルド爺さん、チャイナタウンから来たワン爺さん、それにフランスタウンから来たアンヌ婆さんとか。


遠くから来た人はみんな老人なのが不思議だ。そもそもなんで遠くから来れるのかも不思議なんだよ。


この辺りの山は魔物の縄張りだ。


年寄りが越えられる場所じゃない、なぜ来れるのだろう。


そうこうしているうちにサユリ婆ちゃんの家の前まで来て俺はそこの表札を目にした。




『サユリ ササキ』




俺は家の前の門まで進み、チャイムを鳴らしてばあちゃんに会うことにした。


(ピンポーン)


音は聞こえない。でも家の中で反応があった。


証拠に足音がこっちに向かってきてることが分かる。


「どなたですか?」


サユリ婆ちゃんは玄関のドアを開けて、脊髄反射かのようにこちらに伺った。


直後、


「ああ、ルイ坊か。 例の漢方の件だね、、お茶用意したからあがってきーな。」


こちらの顔を確認して、ばあちゃんはしわの多いその顔をさらにくしゃくしゃにした笑顔で嬉しそうに話していた。


「いや、ここで大丈夫だよ。これ、頼まれてた漢方の材料!」


俺は革袋を差し出しながら、玄関のたたきで一歩身を引いた。軍資金を受け取ったらすぐに失礼するつもりだったし、何よりこの街の不思議な空気感に、無意識のうちに少しばかりの緊張を覚えていたからだ。


「何言ってるんだい。そんなところで突っ立ってないで、さあさあ、いいから入って。入っておくれよ」


サユリ婆ちゃんは、俺の遠慮を「はいはい」と軽い手つきで受け流すと、手招きと愛らしい笑顔で家の中に招こうとしている。


「わかったよ。では、お言葉に甘えて、お邪魔します。」


俺はおばあちゃんの優しさに甘えるのが半分、美味しそうな醤油とみりんの匂いに誘われるのが半分で家の中に入った。


案内されたのは、使い込まれた木のテーブルが置かれた質素な食卓だった。 部屋の隅には、先ほど外で感じたマンホールの違和感とは正反対の、温かな生活の匂いが満ちている。


「座って待ってな。今、よそってあげるからね」


婆ちゃんが台所で鍋の蓋を開けると、一気に蒸気が立ち上った。 漂ってきたのは、醤油とみりん、それから肉の脂が混ざり合った、抗いようのない暴力的なまでに美味そうな香りだ。


「はいよ、召し上がれ」


目の前に置かれたのは、深めの陶器の鉢に盛られた白い飯。その上を、甘辛く煮込まれた薄切りの牛肉と、クタクタになった玉ねぎが覆い尽くしている。


「これ……牛丼?」 「そうだよ。ご先祖から代々守ってきたレシピでつくったんじゃよ、この街の元気の源さ」


俺は割り箸を割り、肉をごっそりと米ごと掻き込んだ。 口の中で牛肉の旨味が弾け、甘い汁が染みた米が喉を通り抜けていく。


魔物が跋扈ばっこする険しい山を越えてきた疲れが、その一口で溶けていくような感覚。


「美味い……」


思わず漏れた独り言に、サユリ婆ちゃんは満足げに目を細めた。 だが、その穏やかな視線の先、窓から見えるあの「鍵付きマンホール」を思い出し、俺は再び喉の奥に小さな引っ掛かりを感じた。


この温かな牛丼を振る舞う老婆も、この街に集まる不思議な老人たちも、やはりどこか説明がつかない「何か」を抱えている気がしてならない。

ここも不思議なんだよな。こんな田舎では山菜や川魚しか取れないのに、ばあちゃんはいつも俺に牛肉を振舞うし、父さんも美味しい牛肉や鶏肉の料理を振舞ってくれる。

外は魔物が徘徊してるのにどうやってるんだ。

牛一頭をこの山越えで運ぶなら、護衛の冒険者や学園関係者が数十人は必要なはずだ。そんな金がこの村にあるはずもないのに……



「さて、、漢方の原料みせておくれよ」


おばあちゃんはゆっくりと間を置き、そっと本題に切り出した。


「あ、そうだった、これが漢方の材料のタンポポ、ヨモギ、オオバコ、それぞれ頼まれた分量とってきた。」


俺は、大量に採取した薬草たちをばあちゃんに手渡した。


「助かるねぇ。もう年でな、私らではあそこに行けんのじゃ。それに魔物と戦うための魔力もないしなぁ。」


ばあちゃんは優しい目でそう言った。


「こちらこそ、助かったよ、おかげで学園への受験ができる。」


と、俺



「ああ、そうじゃった。バイト代じゃな。ほれ!」


「ありがとう、こんなに貰っていいのか」

学園の受験費用だけではない、学園都市にはいってから数週間は暮らせる分の資金だ。


「ええんじゃ、もう旅立つんじゃろ。顔も数年は見れなくなる」

少し悲しそうにばあちゃんは言った。


「何から何までごめんな、俺、学園で勉強と料理、一生懸命やって立派な料理人になるよ」


「ははは! それは嬉しいわい。お前さんの料理も食べてみたいねぇ。

 一つ頼みたいことがあるんだが、いいかい?」


「なんだよ、ばあちゃん」


「肩をもんでくれんか?」


「なんだよもぅ!かしこまってたから何かと思えば! お安い御用だよ」


そうしてばあちゃんの肩をやさしく揉む。長い人生が刻まれているような柔らかいけどどこかたくましい肩だ。




「長居してしまったな。俺、そろそろ帰るよ」


「ああ、達者でな。」


そういうとばあちゃんは名残惜しそうに手をふる。


俺もそれに応えて手をふる。


ばあちゃんの家は徐々に小さくなっていって、マンホールを1個、2個と数えながら歩き続けるのだった。



*******************************************************


サユリ婆「ケンゾウさんや、あの子は戻ってこれるかのぉ?」


ケンゾウ爺「さぁな、わしらは送り出すことしかできん。若もんの夢は止められねぇしな。」


サユリ婆「そうじゃな。私らはご先祖の思いを守って、時を待つしかないのかも知れんな」


ケンゾウ爺「とくにお前はそうじゃ、ご先祖から受け取った大事なお言葉。守り抜くんじゃよ」


サユリ婆「あいあい!またケンゾウ爺やのお説教が始まるわい!」


サユリ婆、ケンゾウ爺「わはははは!」

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