指先指紋検証会
焚き火の爆ぜる音が、静まり返った六合目のキャンプサイトに響く。外は夜の帳が下り、冷え込みが厳しくなっていた。 俺がミカの手の指紋を確認しようと手を伸ばしたその時、ミカが弾かれたように立ち上がり、俺の腕を強く掴んだ。その指先は驚くほど熱く、微かに震えている。上気した顔は焚き火の赤よりも深く、耳たぶまで真っ赤に染まっていた。
「ルイ君……。その、外は恥ずかしいから……中で、シたい……っ」
「中で? ……ああ、そうだな。外部の光が邪魔したら精度が落ちる。わかった、俺のテントに入れ」
「……うん」
ミカは消え入るような声で呟き、俯いたまま俺の後に続いた。 テントに入り、ランタンに火を灯す。狭い密室に、二人の影が大きく引き伸ばされた。ランタンのオレンジ色の光が、ミカの潤んだ瞳と、小刻みに震える薄い唇を艶かしく照らし出す。 ミカはなぜか俺のことを、熱っぽく、とろけるような視線で見つめてくる。……低酸素状態による意識の混濁か? 俺は体調の変化を見逃さないよう、ミカの顔と顔が触れ合うほどの間近まで距離を詰めた。
「ル、ルイ君……近いよぅ……。息がかかって……っ」
ミカが恥じらってもじもじと身を揉みしだき、視線を泳がせている。 テントという限られた空間を有効活用する以上、この程度の密着は回避不能なロジックだ。俺は気にせず、ミカの震える右手をガシッと掴んだ。
「ひゃうんっ!? ……ル、ルイ君、急に……そんなに強く握ったら……っ」
「動くな。指紋の溝に魔力を流し込んで、三次元構造をスキャンしてるんだ。0.1ミリの誤差も許されない。……まずは親指だ」
俺はミカの親指の腹を、穴が開くほど凝視した。ミカの指先は驚くほど柔らかく、俺の魔力が流れ込むたびに、ビクッ、ビクッと敏感に反応して熱を帯びていく。
「……『楕円型』だな。次は人差し指……中指……ほう、薬指は『真円型』か。右手は2種類。……ミカ、お前の指は驚くほど白くて、肌のきめが細かいな。ペンを持つ『だこ』ですら、なんだか愛着が湧く造形だ」
「そ、そんな……指まで褒められるなんて……っ。は、左手も、やるんでしょ……?」
ミカが熱い吐息を漏らしながら、もう片方の手を差し出してくる。その掌は、俺の魔力を受け入れる準備ができているかのように、汗ばんでしっとりと濡れていた。
「左手は……すべて『真円型』か。つまり右手と合わせて2つ。器としては平均的だな。……さて、次は俺の番だ。ミカ、お前も確認しろ。俺の身体の『異常』をな」
俺は自分の両手を広げ、魔力を通して解析を公開した。 親指、人差し指、中指……左右10本すべてが異なる幾何学模様。楕円、ひし形、正方形、五芒星、真円。
「……信じられない。全部の指が、違うパターンの指紋なんて……ルイ君、これ本当に人間なの……?」
ミカが恐る恐る、俺の指先に自分の指を重ねてきた。 その瞬間、俺の脳内回路が強烈な「違和感」を感知する。指先から伝わってくるミカの体温が、異常なまでに上昇しているのだ。ミカの呼吸はさらに荒くなり、テントの中には甘く、湿り気を帯びた空気が充満していく。
「……ミカ、お前、顔が真っ赤だぞ。やはり高地特有の症状か。だが、解析の手は止められん。次は本番の『足の指』だ。……靴下を脱げ」
「っ……!? あ、足も……やるの……?」
「当然だ。足の指紋は靴の圧迫で変形しやすい。俺の魔力で皮膚の奥まで直接干渉し、強制的に形状を復元しながら読み取る。……先ほどより、かなり『密着』し、深く触れることになるぞ」
「……っ……う、うう。覚悟、決めます……。ルイ君のバカ……無自覚、エッチ……っ(ボソッ)」
「ん? 何だ、今のは?」
「何でもないです! はい、脱ぎます! ルイ君の好きなようにしてっ!!」
ミカは半ば自暴自棄になったような、艶やかな声を上げ、ブーツの紐を乱暴に解き始めた。 俺は手帳に「10スロット(暫定)」と書き込みながら、露わになろうとするミカの素足へと視線を移した。 ランタンの光に照らされたミカの足先が、羞恥に震えながら、ゆっくりと俺の太ももの上に乗せられた。
「……準備はいいか、ミカ。お前の奥底にある『指紋』の数……すべて俺の魔力で暴き出してやるからな」
狭いテントの中、ミカの小さな悲鳴に似た吐息が、夜の静寂を切り裂いた。




