酷暑の万博
大阪・関西万博が閉幕した。始まった頃、公式キャラクターの見た目がシュール過ぎて、とっつきにくかったのを思い出す。また、当初はガスが出たとか蚊が多いなどいろいろとアクシデントもあって、ネガティブな報道が多かった。そのせいなのか分からないが、入場者の出足も鈍かったようだ。
人混みと行列に並ぶのが苦手な私にとっては、どうしても行きたいという催しではなく、半年の間に機会があればくらいの気持ちでいたのだが、その後運営も軌道に乗ったのか、順調に客足も増えてきているようだった。それで、一度は行ってみようと、チケットを買ったのが七月の中頃だった。ところが、そうこうしているうちに日増しに暑さが厳しくなり、夏休み中は子供連れも多いだろうと、人が少なくなって涼しくなるだろう九月になるのを待つことにした。
しかし、九月に入っても暑さは衰えず、というより更にひどくなったのではと思われるほどの厳しさと、人出の方も益々加速する一方になっていく。九月も中旬になり、もうそろそろ行っておかないと、閉幕前にはさらに混雑するのではと考え、重い腰を上げることにした。
事前に情報を収集して、出掛けるに当たってはぬかりなく準備をした。晴雨兼用の傘、凍らせた水や身体を冷やすグッズ等。それから、多分飲食が出来る場所は行列必至だろうからと、おにぎりやすぐに食べられるサンドイッチなども。人混みや行列に並ぶこと以外に暑さにも人一倍弱いので、熱中症で救急搬送などという人騒がせな事態だけは避けなければと、暑さ対策に重点を置いて準備を整えた。その時点で、万博を楽しむというよりは、戦いに出陣する兵士の心構えだった。
異常な暑さは人のやる気を削いでしまうものだ。もう、万博会場であれを見たい、これをしたいという気は消失していた。あるのは折角買ったチケットを使わないのは、勿体ないという気持ちだけだった。前日の天気予報では雨だったが、雨の方が少しは涼しさが感じられるのではと、保証のない期待を持ったものだ。ところが、自分が晴れ女だということをすっかり忘れていた。何かの用事で外出する時には、この晴れ女ジンクスが高確率で発動する。それに助けられることも屡ではあるのだが、今回は予報どおりの方が良かった。だが、当日も雲は時々姿を見せるものの、雨は一滴も降らなかった。そうそう自分に都合の良い方にばかり上手くはいかない。
途中の電車の駅には、いつもとは違って進路を誘導してくれる係の人が居たりして活気があった。そして、夢洲に着き駅を一歩出ると、既に入り口ゲートへ向かう人の列に自然に並ぶ形になっていた。そこからゲートまで牛歩戦術のように進むこと約一時間。漸く入場できた時にはさすがにホッとしたが、戦いはまだまだ始まったばかりだった。列に並んでいる時に、どこからともなく「天気予報は雨だったのに……」と呟く声が聞こえてきたが、私のせいではない。
入場後はパビリオンなどを見るつもりもなく、予約もしていなかったので、取り敢えず大屋根リングに上がって、万博気分を味わうことにした。それこそ今回の万博のシンボルだろう。それを見なければとエスカレーターで上がってみた。果たして実際に見渡した周囲の景色は、想像以上に壮大だった。建築の粋を結集したとでも言うべきだろうか。この万博に様々な形で携わった全ての人の思いが、その景色を作り上げているかのような雰囲気さえ感じさせるものだった。その光景によって、万博見物の目的が十分達成された気分になった。
もうこれで思い残すことはなかったが、友人から頼まれていたグッズを買わなければいけないことを思い出した。そこでまた行列だ。列に並んで立ったままで小一時間。やっと買い物ができた頃には、もう何をする気力もなくなっていた。時計を見ると昼時を過ぎていたので、ここで腹ごしらえをすることにした。周りを見渡しても食べ物屋らしきものも見当らなかったので、自分で用意してきて良かったと思った。歩いて探せばあるのかも知れないが、汗だくでもう歩きたくなかった。それにあったとしても多分行列だろう。
食事を済ませると、目的も達成できたし、晴れ晴れとした気持ちで出口に向かったのだった。会場に居た時間は二時間ぐらいだったろうか。(その内の一時間は買い物の為に行列に並んでいた。)それでも、未練などは一切感じることなく、一刻も早く家に帰りたかった。
十月も半ばを過ぎてから、漸く秋らしい気候になってきた。『のど元過ぎれば「熱さ」を忘れる』と言うが、あの「暑さ」はなかなか忘れられそうにない。しかし、今のこの気候ならもっと万博を楽しむこともできたのに、と思う気持ちもないわけではない。それに、当初あれだけ異彩を放っていた公式キャラクターがいつの間にか人気者になり、ミャクミャクロスに陥っている人も少なくないという。食べ物にしてもそうだけど、クセのあるものはとっつきにくいけど、その良さが分かるとやみつきになるのと同じだろうか。




