森舞台
歌う虫の物語です
歌う事に憧れているカブトムシさんは、歌声が綺麗なセミさんやスズムシさんが羨ましく思います。
歌うどころか声さえも出せないので、カブトムシさんには、歌うなど夢のまた夢かもしれません。
同じ森に暮らす同じ昆虫なのに、中身があまりにも違いすぎてカブトムシさんは、ただただ途方にくれるばかりです。
声を出せるようになりたい、思いっきり声を出して歌声を森いっぱいに響かせたい……そう思うばかりのカブトムシさんの気持ちを、たった一人森で暮らしている人間のタクトさんだけが知っていました。
その日もカブトムシさんは、歌声を出せるよう歌の練習をしていました。
「美しい音色だね。アナタの羽根には、自由に夢を奏でる質がある」
カブトムシさんのもとへタクトさんがやって来て、突然言い出しました。
突然過ぎてカブトムシさんにはなんの事だか分からず、首をひねるばかりです。
「声が出ない代わりに、カブトムシさんには綺麗な羽根のリズムがあるよ。
何故分かるかって言えば、僕が音楽家だからだよ」
タクトさんが音楽家だという事を、カブトムシさんは今初めて知りました。
「ボクがカブトムシさんの羽根に合わせて作った『弓』だよ。
これならカブトムシさんは羽根で歌う事が出来る」
小さな棒、ビオラ等を奏でるスティック『弓』をカブトムシさんの羽根にそうっと添えて、タクトさんはそれを震わせました。
〈♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪〉
歌えました。
初めてこの日、カブトムシさんは、羽根で歌う事が出来たのです。
自身の羽根がこんなに綺麗な音色を奏でられるなんてカブトムシさんは知らなかっただけに、その分幸せは大きいです。
「森の虫達はみんな、アナタの羽根に聞き入っているよ」
タクトさんがいてくれたから歌うという夢が実現して、カブトムシさんは心の底から今を噛み締めていたのでした。
形が楽器に似ている事から、生まれた物語です




