突然、知らない場所
目の前に、広がる緑。晴れ渡る空。
何が起きたか分からない。
トラックに引かれたわけでもなく、病気でなんてこともなく、普段通りに帰宅していたはず。
かといって、ここに立つまでに何かあったのかも分からない。
一瞬、本当に一瞬だった。
車が通る。ビルが乱立している。人がたくさんいる。
そんな中に居たはず。
それが急に、なんにもない平原。原っぱ。
ちょっと遠目に、木々の繁り。
道らしいものも無い。
俺は今、全然知らない場所に立っている。
たぶんここは人の手が入っていない、野原と言うやつなのだと思う。
所々にこんもりとした茂みもあるし、なにより人の気配がまったくしない。
思い付いた事に、「やられたか?俺もついに、やられたのか?」そう考えてしまう。
まじか?夢物語の話ではなかった。現代科学以上の事が起きている?
頭の中がごちゃごちゃとするが、思い浮かぶパターンを整理しないといけない。
突然こんなところにいる理由。
考えられるのは、ワープ。次に、神隠し。後、異世界転生。ほかにも色々、有るにはあるだろうが、すぐに出る可能性としては、とりあえずこの辺りか。
誘拐って線は、無いだろう。なぜなら、直前まで意識はあったはずだから。
SFなのか、ホラーなのか、ファンタジーなのか。
展開次第によっては「全部」なのだろうが、メインがどれかによって、心持ちが変わってくる。
出来ればホラーだけは、やめて欲しい。血とか、内臓がポロリとか、あまり好きじゃない。
でもたぶん、これから嫌でも見なきゃいけないんだろうと思う。
ここに立ってるだけで、帰れるはずがないから。
今はわからないけど、生きてる以上は腹が減るし、トイレもする。ゲームの世界であればそれも無いかもしれないが、それでもそう言う描画が無いなんて事はそうそう無い。
それに今現在、臭いはしている。草や、土の香りがちゃんとしているのだ。五感がきちんと有る。これは怖い。
野生動物が出てきたら、間違いなく死ぬ。
なのに、荷物は何にも持ってない。スマホすら無い。
服は着てるのに、財布すらも没収されている。
「情報がないのに、難易度が高い!!」
思わず声が出てしまった。
この手のパターンの時、小説でもゲームでもアニメでも、だいたい何か説明とかチュートリアルが有るのではと思うのだが、何か起こる気配も動きもない。
これはアレか?とりあえず、木を殴るか?
クラフト系のゲームだと、何か素材が手に入る。リアルな世界なのか、ゲーム的な世界なのか判断もつくだろう。
もしかすると、ただ手を痛めるだけかもしれないが、それも仕方ないかと、森っぽくなっている方へ向かう。
体感で3分程歩いた先に、手頃な木が生えているのを見つけ観察する。
見た感じ、低めの位置に枝が有るし、杉ではないっぽい。
樫とかその辺りなんだろうかと、知ったかぶりをしつつ、握った枝を大きく揺すってみる。
木の実が落ちてくるとか、道具が落ちてくるか、はたまた木の原木が手に入るのか。
しばらく揺らしていると、ガサリと音がして何かが落ちてくる気配がした。
慌てて上を見上げる。
丸っぽくて、水っぽくて、くず餅の様なものが、こっちに向かって落ちてくる。
「あ、やばい」そう考えた時にはもう遅く、すでに目の前にくず餅、おそらくスライムが迫っていた、
ああ、ということは、やっぱりここはファンタジー系の異世界なのか。
落ちてきたスライムによって、顔を圧迫されながら地面に倒れ、遠退く意識の中で「やっぱ、ファンタジーなんだ」と、俺は理解した。