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【完結済】堕神ノ書 〜異界支配の始原〜  作者: せつな
第四章【仮面の再出発】
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【動き出す影と灯る微笑】


神聖連合領・拠点砦


夜明けと共に、重々しい号令が戦場に響いた。


「第七縛鎖部隊、出撃準備! 魔導騎兵、中列へ展開!」


神聖連合の旗の下、淡い光の甲冑を纏った部隊が整列する。 その中には、かつて巫女を封じた者たち――“眠りの縛鎖部隊”の姿もあった。


かすかな結界の音が空を揺らし、空間にうっすらと圧がかかる。


まるで――“神の代行者”が再び目覚めることを、世界が拒絶するかのように。


アールフェン市街――


セリナは街路を歩いていた。すぐに、空気の異変に気づく。


(これは……神聖連合側の動き。数百規模の出撃……)


次の瞬間、意識を集中し、《幻響連絡ファンタズム・コール》を起動。


『――せつな様。確認しました。出撃は現実です。南拠点より、“眠りの縛鎖部隊”が進軍準備。 都市級の結界が展開された形跡も……これは、本気の戦です』


沈黙の先――返ってきた声は、驚くほど落ち着いていた。


『そうか。面白い。ならば、こちらも迎え撃とう』


『……畏まりました』


『その部隊――我が手で“起こして”やろう。封じられていた力を、存分に味わわせるとしよう』


(本当に……この方は)


ネザリア城・謁見の間――


「じゅぴ、リィナ。迎撃の準備を進めろ。相手は“縛鎖”。面白くなりそうだ」


「は〜い♡ じゃあまた“罠”仕掛けとくっすかね〜? 相手が目覚める前に、こっちの術式で上書きしちゃうとか」


「わたしが直接行くほうが早い。どうせ潰すんだし、痛がらせてから……ね?」


「それは却下っす! せつなが“壊しすぎるな”って言ったら、ちゃんと守るのが基本っす!」


「じゃあせつなが“殺すな”って言ったら?」


「殺さず壊す♡」


「そのへんは臨機応変でいい」


「えっ、いいの!? ちょっと!」


リィナとじゅぴのやり取りに、思わず巫女が吹き出す。


「……ふふっ」


いつしか自然に出たその声に、巫女自身が目を丸くした。


(私……今、笑った?)


ずっと“神”として扱われ、ただ命じられ、祈らされ、感情など意味を持たないものとして生きてきた。


けれど、今――


目の前で口喧嘩する二人。 まるで兄妹のように騒がしく、それでいて本気で守り合っているような雰囲気に、巫女は心を少しずつほどかれていく。


「……戦には、関わらなくていい」


せつなの声に、巫女は顔を上げる。


「貴様は、今はただ“客人”として、ここにいればいい。誰も貴様を道具とは見ていない」


「……ありがとうございます」


ほんの短く返したその声に、確かな体温が宿っていた。


神喚の巫女は、まだ揺れている。 だがその揺らぎが、やがて“道具”ではなく“人”へと戻る兆しであると――


誰よりも、せつなは知っていた。





神聖連合領とネザリアを隔てる中域地帯―― 荒れた草原に、重厚な鎧の兵団が静かに展開する。


「眠りの縛鎖部隊、全戦列展開完了。先鋒部、魔導障壁構築完了。指揮官より、進軍開始の合図を待機中」


「……来るぞ。あの“異端の拠点”が――」


灰の装束を身にまとった“縛鎖の兵”たち。 その一人ひとりが、“封印処理用”に訓練された異能戦闘兵士。 彼らは言葉を交わすことなく、ただ命令を待つのみだった。




一方その頃――


ネザリア城・玉座の間


『――来たか』


漆黒の王――せつなが静かに玉座から立ち上がる。 その視線の先に、浮かび上がる光の魔導投影。そこに映るのは、数千の兵が行軍する灰の列。


「動いたっすね、神聖連合……予想よりちょっと早いっす」


「ふふっ。面白くなってきたじゃない?」


じゅぴが肩を回し、リィナが満面の笑みで短剣を撫でる。


「せつな。迎撃体制、どうするの?」


『我らが迎える。敵を正面から砕く。……グレンたちは不要だ。保護対象として動くなと伝えろ』


「了解っす♡」




アールフェン市街――


「……来ました。せつな様、敵の出撃を確認。部隊は三列編成、南方より接近中。こちらへの直進ルートです」


セリナは建物の屋上から魔導スコープを外し、耳元の《幻響連絡ファンタズム・コール》へ報告を入れる。


その声に、玉座の間でせつなが静かに頷く。


『よくやった。その情報は、我が受け取った。あとは任せろ』


「はい、せつな様……」


(……あの戦力。この街が巻き込まれる可能性は高い)


(だけど、“私は信じてる”。この人たちなら、止められるって)




巫女の部屋――ネザリア城・客人区画


「戦争が……始まるんですね」


巫女は窓の外に広がる影の結界を見ながら、ぽつりと呟く。


だがその声に、怯えも憎しみもなかった。


「せつな達は、私に戦えとは言わない。“客人”として扱ってくれる……まるで、私を……“人”として見ている」


(これが……普通の、感情? じゃあ……このぬくもりは、なんなの?)


その瞬間、遠くからじゅぴとリィナの声が聞こえた。


「だめっすってばリィナ!封印対象なんだから殺しちゃだめなんすってば!」


「え〜? でも、反撃してきたら……ちょっとくらい、壊しても……」


「だーめっす!」


「むぅ……せつな、いいでしょ?」


『却下だ。捕らえろ』


「えー!!」


「ぷっ……」


巫女の口元から、自然と笑みがこぼれた。


(……この人たち、なんて自由なの)




そして、迎撃の時は迫る。


ネザリアの空に――再び黒い翼が広がろうとしていた。

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