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【完結済】堕神ノ書 〜異界支配の始原〜  作者: せつな
第四章【仮面の再出発】
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【鎖と牙の出撃】

【鎖と牙の出撃】


神聖連合・聖域地下 “光律の環”封印層


――ごぉん、……ごぉん、と

重たい扉が幾重にも開かれる音が、地下深くに響いていた。


封印の環に守られた、その“檻”の中――


黒鉄の装甲を纏い、無表情に佇む影が十数体。


そのすべてが、“眠りの縛鎖部隊”と呼ばれる抑制特化の戦闘存在。

通常の武力ではなく、“捕らえること”だけに特化した、神聖連合の禁制戦力。


「神喚の巫女が覚醒を始めた。予知夢の範囲が不定形に広がっている」


「抑制のため、“接触者”の捕縛を最優先とせよ。」


淡々と通達が下る。


その命令に応じ、兵たちは一言も発さぬまま、重厚な魔導鎧を軋ませて動き出す。


外部との遮断層が開かれると同時に、影のような部隊がアールフェンへと向けて、地上へ浮上していく。


“正義”の名を借りた鎖は、今、静かにその牙を剥こうとしていた。




ネザリア城・作戦詰所


「……セリナちゃんが、そろそろ危ない位置にいるっすね」


作戦机の上、じゅぴが並べた幻映地図の上に、ひとつの“赤”が浮かび上がる。


それは、神聖連合側が動かした縛鎖部隊の術式痕跡。


「うーん……こういう抑制型って面倒なんすよね〜。力使わせないように、精神を封じてくるし」


「殺す系じゃないのが、逆に厄介ねぇ」


リィナが膝を抱えながら、指先で刃を転がしている。


「命取られないと思ってるから、無茶してくるのよ。……いっそ、最初から“消した”ほうが楽なのにぃ」


「だ〜めっす♡ せつなが“捕まえろ”って言ってたんすから〜」


そのとき――扉が静かに開いた。


漆黒の衣のまま、せつなが入ってくる。


『進捗は』


「はいはい、ちゃーんと全部把握してるっすよ。抑制部隊の発進、巫女の周囲の警戒、セリナちゃんの動きも全部」


『封印魔具の準備は』


「例の“精神拘束輪”も、“幻魔結界”も、全部展開可能っす。あと三手先までなら、セリナちゃんを守りながらの捕獲もいけるはずっすよ〜」


『なら、構わん。捕らえろ』


せつなの声は静かに響いた。


『あの巫女……“使える”と判断した。殺すな。』


「ラジャっす♡ じゃ、リィナちゃん。遊びの時間、少しお預けっすよ〜?」


「ふふっ、つまんなーい。でも、捕まえるならそれも“ごっこ遊び”だよねぇ……♪」


――“捕獲”と“反撃”の、時が迫っていた。






神聖連合領・交易都市アールフェン



月光が、白のタイルに柔らかな影を落とす。

夜の神殿は巡礼の足も止み、しんと静まりかえっていた。


(……この時間帯なら、監視も緩むはず)


セリナは長衣のフードを深くかぶりながら、誰にも気づかれぬように回廊を歩く。

目指す先は、神殿の中央聖堂。

そこには――巫女が、ただ一人で佇んでいるはずだった。


(今日は“見る”側から、“見られる”側になるかもしれないわね)


そして、月明かりが射す中庭に、ふたたび――彼女はいた。


白銀の装束。儚げな微笑。

その姿は変わらず美しく、そして――どこか、すべてを知っているような静けさを纏っていた。


「……こんばんは、セリナさん」


まるで、ずっと待っていたような声音だった。


「……偶然ですね、こんな時間に」


「ええ。でも……あなたが来る気がしていたの」


その言葉に、セリナはわずかに目を細める。


(また、予知夢……?)


「もしかして……“夢で見た”と、また言うつもり?」


「……そうですね。少し、変な夢を見たの」


「私が現れる夢?」


「“世界が黒く包まれる”夢。赤い目の王と、その側に立つ影の女の子。……それから、“仮面をかぶった人”が近づいてくるの」


巫女の視線が、静かにセリナに重なる。


「あなた、“仮面”を持っているでしょう?」


沈黙が落ちる。


セリナは笑みを崩さないまま、胸元にそっと手を置いた。


「……私は、ただの旅人です。人の不安を解き、土地の声を拾う……そんなただの者ですわ」


「そう……なら、なぜ、心の奥に“剣の音”があるの?」


(剥き出しの勘……この子、どこまで気づいてるのかしら)


セリナは、言葉ではなく“沈黙”で応じた。


そのとき――


風が揺れた。

……いや、それは風ではない。


神殿の外、複数の“何か”が、音もなく配置についていく気配。


(……動いた)


幻響連絡ファンタズム・コール》が脳裏に小さく共鳴した。


――セリナ、そろそろ“鎖”が動く。気をつけて。

……じゅぴの声だ。


(来る……“捕獲”が)


セリナは内心で警戒を強めながら、視線だけで巫女を見つめる。


(まだ……ここじゃない。ここで捕らえたら、確実に騒ぎになる)


(“導かなきゃ”……彼女を、指定の封鎖領域まで)


「……セリナさん、お願いがあります」


「……なんでしょう?」


「少しだけ、一緒に歩いてくれませんか? この神殿のこと……あなたと話しながら、もう少しだけ見ていたいの」


(……自分から“動く”つもり?)


「……もちろん。お供しますわ」


ふたりの影が、夜の神殿へと静かに歩み始めた。

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