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【完結済】堕神ノ書 〜異界支配の始原〜  作者: せつな
第四章【仮面の再出発】
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【囁きと策謀】



神聖連合領・交易都市アールフェン

神殿・裏庭に続く礼拝者用の小径


午後の光が、石畳に柔らかな影を落とす。


セリナと白銀の巫女は、もう“偶然の再会”を装ってはいなかった。


「……また、会えましたね。セリナさん」


「はい。私も、もう一度お話できればと思っていました」


お互いが“話す”という意志を持っていたことが、空気から自然に伝わる。


「あなたの目……やっぱり、夢の中のものと同じです。昨日も、また見ました」


「……予知夢?」


「ええ。名前はまだ出てこなかったけれど、あなたの姿は、何度も……」


巫女の声は柔らかいが、その奥にある“確信”は、静かにセリナの警戒を刺激する。


(……精度が高い? 情報がこれ以上漏れると厄介ね)


だが、セリナも笑顔を崩さずに応じる。


「もしかしたら、私もあなたに導かれていたのかもしれませんね。 ……私たち、まだ名もない他人同士のようで、何かがつながっている気がするのです」


「……セリナさんは、“神”を信じますか?」


「信じたい、とは思います。でも……“何を神と呼ぶか”は、人それぞれだと思っています」


巫女のまなざしが、ほんの僅かに揺れた。


(刺さった。私の立ち位置を探っている……それに、“神の代弁者”という役割自体に、本人がまだ迷いを持っているわね)


そのまま数歩、二人は庭の奥へと並んで歩く。


「この街で何を?」


「巡礼と、記録です。古い神話や信仰の形……残っているうちに見ておきたくて」


「記録者……なるほど」


巫女は小さく頷く。


「……私は、もうすぐ“決断”を迫られる気がしているんです。夢が、それを告げているような気がして」


「それは、“どんな決断”ですか?」


「……敵と、味方の区別をつけること。どちらと共に立つべきかを」


セリナは息を止めかけた。


(やはり、この子は――)


(神聖連合にとっても、まだ“定義されきっていない存在”。利用価値があるからこそ、“捕獲”が必要)


笑顔のまま、セリナはゆっくり言う。


「その時は、私も、あなたの側でお話を聞いていられたらと思います」


「……ありがとう。セリナさん」


ほんのわずかな信頼――それが、今、芽吹こうとしていた。




ネザリア城・作戦応接室


「よーし♡ 計画再調整いくっすよ〜!」


じゅぴがぱたんと資料を広げたその瞬間、リィナがすでにソファの背に乗っていた。


「ねぇ、そろそろ本格的に“お持ち帰り”してもよくない? 面倒くさくなってきたよぉ」


「だーめっす! じっくりやるのが今回の任務っすから!」


「でも、あの子、思ったより“いい感じ”に揺れてるよねぇ?」


「うん、それはぼくも感じてるっす。たぶん……あと一歩。 それに、セリナも相当うまくやってくれてるっすから、焦らず包囲していくっすよ〜」


リィナはため息をついて、床にストンと降りた。


「せつなが“生かして使え”って言うから……ほんっと、扱いがめんどくさいんだよねぇ」


「文句言いながら、意外と気にしてるじゃないっすか〜♡」


「そりゃ、ぼくの仕事だからねぇ?」


じゅぴとリィナのやりとりの奥で、再調整された捕獲計画はさらに精度を増していく。


その影は、ゆっくりと――白銀の巫女の背へと、忍び寄っていた。




神聖連合領・交易都市アールフェン

神殿回廊・静謐の庭


薄曇りの空の下、風が白い花弁をさらう。


その中央、石造りの小道を歩く二人の少女。


白銀の装束に身を包んだ巫女――

そして、控えめに微笑みながら付き添う“旅人”セリナ。


「……静かですね、今日は」


「ええ。空も、風も、少し優しい気がします」


「まるで……嵐の前みたいな空気ですけどね」


「……ふふっ」


微笑みを交わしながら、しかし、その眼差しは互いを決して離さない。


セリナの中で、“何か”が確信に変わりつつあった。


(この少女――やっぱり、“視えている”。わたしの仮面の奥を)


「……セリナさん」


「はい?」


「この前、夢を見たんです。あなたが、誰かと剣を交える夢。たくさんの光と、影と……そして、その先に、“選ばれなかった”私がいた」


セリナの心臓が、わずかに脈打つ。


(……予知夢。やはりこの子、“未来”を覗いている)


「怖かったんです。自分が、誰にも必要とされなくなる未来が」


「……」


「でも……もう少しだけ、あなたと話していたい。わたし、自分で選びたいんです。どう終わるかを」


「……ありがとう。私も、あなたともう少し話せて嬉しいです」


(……やっぱり、この子、“救う価値”はある)


だがそのとき――


セリナの耳の奥に、微かな《幻響連絡ファンタズム・コール》の振動が走る。


せつな様からの指令。


「“接触は完了した。捕獲の準備に入る”」


同時に、空の気配が変わった。


高い位置で、鳥が一斉に飛び立つ。


(……来る)


セリナが感じ取ったのは、ただの風ではなかった。


“鎖”の気配――眠りの縛鎖部隊。

神聖連合が本気で動き出した証。


「……ごめんなさい。今日はここまでにしましょうか」


「……ええ。なんだか、疲れてしまいました」


ふたりの歩みが、静かに別れる。


セリナは、神殿の回廊を背にしながら、そっと空を見上げる。


(この子を……どう捕らえるか。いえ――“どう守るか”を、私は選ぶ)


その視線の先に、“神”を名乗る組織が仕掛けた罠が、ひたひたと迫っていた。


捕獲か、拒絶か。


運命は、もうすぐ交差する。




玉座の間にて、ひとり呟いたのは、大司祭ヴェル=メグレイド。


彼が掲げた杖には、聖紋の光が揺れていた。


「“眠りの縛鎖部隊”――目覚めさせろ。対象は、巫女に接触する冒険者の女」


「御意……!」


側近がひれ伏し、走り去っていく。


神喚の巫女は、神の言葉を受ける“器”。 だが同時に、それを狙う異端を“沈黙させる”ための誘引でもあった。


その力に触れようとする者は、容赦なく鎖に縛られ、眠りへと葬られる。


動き出す鎖。 神聖連合は、すでに“迎撃”の構えに入っていた。

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