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【完結済】堕神ノ書 〜異界支配の始原〜  作者: せつな
第四章【仮面の再出発】
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【再び交わる影と光】



神聖連合領・アールフェン大聖堂

白銀の個室――“巫女”専用の私室


窓から差す朝の光が、白銀の帳に柔らかな影を落とす。


淡く整えられた寝具の上で、少女は静かにまぶたを伏せていた。


(……また、この夢)


夢の中で見た――“漆黒の波”。

そこに立つのは、仮面をつけた“黒髪の少女”。


昨日、神殿で出会った者。


名を、セリナと名乗った。


(……同じ目。あの夢で見た者と、確かに同じ)


(やはり、あれは――“兆し”だったのですね、神よ)


巫女はゆっくりと身を起こすと、薄い装束を羽織り、静かに鈴を鳴らす。

扉の外で待機していた補佐官が、すぐに現れた。


「……お呼びでしょうか、巫女様」


「はい。……昨夜、夢を見ました。例の“漆黒の影”の再来です」


補佐官の顔色が変わる。


「ご報告を。上層部へ。――この都市に、変化が迫っています」


少女の声には確信があった。


(それから“セリナ”という名の者。……おそらく、ただの巡礼者ではありません)


巫女は窓の外を見つめた。

そこに広がる街の風景は、いつもと変わらぬ平穏だった。


(でも、その中に潜んでいる。波の起点となる者が)


(あの人が、“漆黒”とどう関わるのか――それを、見なければならない)


その頃――

神聖連合領・交易都市アールフェン

外れの路地、人気のない小広場


「……ふぅ。やっぱり、一度だけじゃ足りないわね」


セリナは仮面を外し、長い黒髪を束ね直していた。

昨日の巫女との接触。その記録は既に《幻響連絡ファンタズム・コール》でせつな様へ報告済み。


だが、次があると直感していた。


(あの子、“夢”を見ていた可能性がある。予知、あるいは記憶の断片……)


(私に気づいた。けれど、あえて受け入れた)


(あの“巫女”も……こちらを“探ってる”)


足元に落ちていた枝を拾い、何気なく小石を突いて転がす。


(次に会う時が、分岐点になる。……下手をすれば、こちらの正体が割れる)


(けれど――それ以上に、“彼女自身の存在”を見極める必要がある)


巫女の持つ力、組織の立場、そして“影の中にある光”。


(せつな様は言っていた。使えるなら、使えばいい。捕獲も視野に――)


セリナは、ふっと息を吐いた。


「……感情を入れちゃ、だめよ。私は仮面。任務を遂行するだけ」


(でも、どうしてかしら。あの時……“触れた”時に感じた、妙な温度)


自分と同じように、“人であること”を許されていない瞳。


(それが、本物なのか。仮面なのか――)


セリナは立ち上がる。


「――もう一度、会いにいくわ。次は、“問い”を投げる番」


仮面をつけ直すと、軽やかな足音を響かせて、神殿の方向へ歩き出した。





ネザリア城・影の作戦室



黒を基調とした広い空間に、ふわふわのソファと魔導式ホットドリンク機。 壁面には空間映写された《アールフェン》の都市地図が、ゆるく光を放っていた。


「んふふ〜♡ さてさて、今日もゆる〜く始めるっすかねぇ」


じゅぴはクッションに沈み込みながら、熱めのマシュマロミルクをちゅっと吸った。


「……ゆるく、って言いながら、さっきから“神聖連合の巫女”の動き、三方向からモニタリングしてるよねぇ?」


ソファの背もたれに逆さまに寝転んでいたリィナが、手に持ったお菓子棒を振りながら指摘する。


「そりゃ、まぁ。だって“拾えるかもしれないなら拾っておけ”ってせつなに言われたからには、ちゃんとやんないとっすよ♡」


「……ほんと、せつなには甘いよねぇ」


「うん。だって、せつなだし♡」


即答だった。


リィナは「はぁ……」とため息をついて、床に転がっていた地図の端をつまむ。


「で、“捕まえる”って言っても、どうするの? 暴れられて“ぱぁん☆”てなったら、何も残らないけど?」


「そこなんすよ〜。だから、段階分けで行くっす」


ぴ、と指を鳴らすと、空間映写の地図にいくつかの“印”が出現する。


「セリナちゃんが接触してるのは、“ほぼ単独行動中”の巫女。 監視も今のところ控えめ。……つまり、動かすなら“今”がベストっす」


「じゃ、直接さらう?」


「ノンノン♡ まずは“誘導”。 セリナちゃんの会話から、巫女の行動を少しずつ誘導する。 ……それで“こちらに足を踏み込ませる”。出来たら、その時に“封じる”」


「なるほどぉ。……あーでも、罠張るのは楽しいけど、爆発系は禁止だよ?」


「わかってるっす。今回は“捕獲”だもんね♡」


「“今回は”、ねぇ……」


リィナは呟きながら、映像の中で歩く巫女の姿をじっと見つめた。


「この子、ちょっとだけ……似てる。セリナに」


「うん、わかるっす。……“どこか人間味の足りないとこ”とか、ね」


「壊れそうで、でも壊れない……みたいな」


じゅぴは頷き、手のひらに小さな転移魔法陣を浮かべる。


「じゃ、準備入るっすよ〜。影部隊の待機配置、封印術式の起動。罠と転送陣の再調整。あと、リィナは“案内役”も担当っす♡」


「えー……めんどくさい。でも、面白そうだからいっか♡」


「ふふっ、それでこそ、リィナっす!」


ホットドリンクの最後の一口を飲み干すと、じゅぴはゆっくり立ち上がった。


「“巫女”って肩書き、どれだけ通じるかはわからないけど――」


「“ネザリアの名”の前には、全部等しく“影”に沈むんだよねぇ?」


「うん。“従う”か、“滅ぶ”か。選ばせるだけっす♡」


ふたりの少女の視線が交差し、薄く笑みがこぼれた。


ネザリアの影は、すでに動き出している。

気づかぬまま、白き巫女へ――静かに忍び寄る。

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