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【完結済】堕神ノ書 〜異界支配の始原〜  作者: せつな
第四章【仮面の再出発】
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【揺れる眼差し】


神殿の回廊――


静寂の中、ふたりの少女の足音だけが響いていた。

ゆっくりと並んで歩く彼女たちは、まるで他愛ない世間話を交わすように見える。

だが――その裏では、互いの本質を見極めようとする、鋭い意識の探り合いが始まっていた。


「……夢で見たことがあるんです」


ぽつりと、巫女が呟いた。


セリナは眉を動かさないまま、しかし心中で冷たい緊張を走らせる。


「夢……ですか?」


「はい。誰かと話している夢の中に……その目の人がいた気がします」


(……予知夢? この子、ただの巫女じゃないとは思ってたけど)


(私の顔を“夢で見た”と、そう言ってきたのは……警戒を誘うため? それとも)


「偶然ですね。私は、こんな立派な神殿に来るのも初めてですけど」


「……そうでしょうか」


巫女の声は穏やかだったが、そこには明らかに“確信”があった。


(――誘ってる)


この距離、この言葉。この曖昧な笑みと、目に浮かぶ“期待”のような光。


(あの子も、“何か”を探ってる。私の正体を、少しずつ)


巫女はふと、井戸の前で立ち止まり、小さく微笑む。


「この井戸の水は、神の声を映すと言われているんです。……過去も、未来も」


「未来を……?」


「ええ。私は、ときどき夢を見るんです。起こるはずのこと、起こるべきこと――それが、時折、姿を見せてくれるんです」


「それは……神託のような?」


巫女はかすかに首を振る。


「神の言葉ではなく、私の目に映った“もの”です。でも、それが現実になったことも何度かあります」


「なるほど……」


セリナは口元に微笑を浮かべたまま、静かに考える。


(夢の中で、私を見た――それが事実なら、この子は本物。未来を見る能力、“予知”の持ち主)


(そうなると……せつな様の方針、“使えるなら使う”は、確実に変化していく)


そして、この“未来視”を持つ巫女が、今――自分に接触を許しているという事実。


(……お互い、わかってるのね)


「あなたの目、やっぱり不思議です。……すごく、よく通る目」


「それは……誉め言葉と受け取っておきますね」


二人の視線が、再び重なる。


交わることのない立場と立場。

だがこの瞬間、互いの内に確かな“違和感”と“可能性”を刻み込んでいた。


(“この子”は、鍵になる。神聖連合の動き……そして、せつな様の判断に対しても)


セリナはゆっくりと息を吐き、次の一手を見極めるように言葉を選んだ。


「……また、お会いできるかもしれませんね」


巫女は、柔らかく微笑んだ。


「はい。きっと――また、お会いします」


静かな声の奥に、不可思議な予感が揺れていた。




神聖連合領・交易都市アールフェン

市街地の外れ、人気のない路地裏。


夜の帳が街を包み始める中、セリナは一つの魔符を壁に押し当てる。

静かな音と共に、淡く輝く紋章が浮かび――《幻響連絡ファンタズム・コール》が起動した。


(……せつな様)


意識を魔力の糸に乗せる。次の瞬間、空気が波打つように歪み――


『……セリナか』


届いた声は、いつも通り静かで冷たい。


「はい。任務継続中。新たな報告があります」


セリナの言葉は簡潔だったが、その声音には、ほんの僅かな熱が滲んでいた。


「……本日、神殿内部にて、例の“巫女”と直接接触。会話に成功しました」


『……よくやった』


その瞬間、横から明るい声が割り込む。


「やっぱり接触できたっすね〜! で、で、どんな感じだったっす? ちゃんと怪しいオーラ出してたっすか?」


じゅぴの声。その気軽な調子に、セリナはふっと息をつく。


「明らかに異質な存在でした。“予知夢”のような力を有しており、私の姿を“夢で見た”と証言。……情報としては、決定的かと」


『……未来を見る力、か』


リィナの声が、今度は冷ややかに響く。


「ふふっ、それ、結構厄介だよねぇ。“次”を見られてるかもしれないってことだから……処理したほうが安全だと思うなぁ?」


「……私見ですが。監視もほぼなく、組織的に孤立している様子。“保護下”に置く価値はあります」


『……使えるか否か。判断の余地はある』


せつなの声に、じゅぴがにんまりと口を挟む。


「ふふ〜ん♡ じゃあ、“捕獲優先”で行ってみるっすか?」


「……はい。もし命令を頂ければ、次回以降、機会を見て“位置把握と接触継続”を進めます」


『よかろう』


ほんの一言。それだけで、この作戦に正式な“方針”が与えられた。


だがその声の中に、確かな警戒と静かな決意が込められていた。


『……使えるなら利用する。だが、我が脅威となるなら――容赦はせぬ』


「……心得ております、せつな様」


通信が静かに切れる。


セリナは符をしまい、夜の風に髪を揺らしながら――その場を立ち去った。


(……利用するか、殺すか。どちらにしても――私の手で“選ばれる”)


それは、神を信じる者と、神に仕える者の境界線。

そして、仮面の下に潜む“従者”としての覚悟だった。

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