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【完結済】堕神ノ書 〜異界支配の始原〜  作者: せつな
第四章【仮面の再出発】
83/159

【白銀の少女】



神聖連合領・交易都市アールフェン

神殿近郊・裏路地



昼下がりの光が石畳を照らし、白い神殿の尖塔が空に伸びていた。

その影の下、セリナは静かに人の流れを観察していた。


(この神殿……表向きはただの巡礼拠点。でも、出入りする者の中に“軍属”の動きが多すぎる)


ふと、耳元にかすかな音。


精神伝達魔法《幻響連絡ファンタズム・コール》が起動する。


(……せつな様?)


『――セリナ。現在の神殿の動向と、巫女の所在について報告しろ』


(はい。神殿には複数の高位聖職者と、直属と思しき兵士の出入りが確認されています。

まだ姿は見えていませんが、“特別な保護対象”が居るという噂があります。……恐らく、巫女です)


数秒の沈黙。


やがて、せつなの声が静かに届いた。


『……ならば、巫女を確保しろ。生け捕りだ。殺すな。』


(……っ! 承知しました)


(巫女の捕獲……つまり、それほど“価値がある”ということね)


『使えるなら使う。脅威なら排除する。だが今は“中間”だ。見極めろ』


通信が切れると同時に、セリナは黒髪を軽く結び直し、再び神殿へ視線を向けた。


(捕獲任務、ね。……私の中にある“揺らぎ”は、今はしまっておこう)


神殿の周囲を巡りながら、彼女は僧衣を纏った人物たちの顔を一人ひとり確認する。

その中――妙に周囲から距離を置かれた、若い少女の姿が目に入った。


(……あれ、は?)


ひとり、白銀の装束をまとい、表情を伏せたまま歩く少女。

周囲の信者が敬遠するように避けている。


(聖域の中に居るのに、隔離されている……? 見た目も……あれが、巫女?)


セリナの瞳が細められる。


そして、彼女の“影”が――静かに、その背に忍び寄っていた





神聖連合領・交易都市アールフェン

神殿内部・聖水供給区画



冷たい石床。静かに響く足音。

巡礼者たちの祈りの声が、神殿の奥へとこだましていた。


セリナは、一人の巡礼者を装いながら、その“少女”の後を辿っていた。

白銀の装束。薄く伏せられた瞳。

他の聖職者たちが遠巻きに扱う存在――それが、彼女の目指す“巫女”だった。


(……先ほどから、ずっと一人。付き添いもいない……これは、接触の好機ね)


彼女が足を止めたのは、聖水の井戸のそば。

セリナはそれを見計らい、あえて“人と肩が触れる距離”まで近づいて――


「……すみません」


軽く、袖が触れるようにぶつかった。


巫女が小さく振り返る。その瞬間、目が合った。


淡い灰色の瞳。年若く見える顔立ち。だが、その奥には妙に深い静けさがあった。


「大丈夫ですか? ……お怪我は」


「……いえ、大丈夫です。私の不注意です」


巫女の声は、驚くほど柔らかく――しかし、どこか現実から乖離したような響きがあった。


(この距離、この言葉づかい……“普通の少女”に見せかけようとしてる。

でも、“何か”が違うわ。この空気……予測できない。妙な違和感)


セリナはほんの一瞬だけ間を置き、礼儀正しく微笑む。


「失礼いたしました。巡礼者の方……でしょうか?」


「……はい。ですが、あまり人と話すことはありません」


(人と距離を置いている? それとも、置かされている……?)


「でしたら……もし、ご迷惑でなければ。聖堂内をご一緒させていただいても?」


巫女は一瞬、戸惑いの色を見せた。


だが――


「……ええ。構いません」


その返事は、セリナの予想よりも早かった。


(承諾した……“監視が付いていないことを自覚している”のね)


(……“隙”は、ある)


少女のような声と歩みの奥に、“何か別の存在”が潜んでいる気配。

それは――せつな様が言った「使えるなら使う、脅威なら排除する」の意味に、確かな輪郭を与えていた。


並んで歩くふたり。

一方は、仮面の潜入者。

もう一方は、“神の代弁者”を演じる何か。


「……あの、あなたは?」


「私は……旅の者です。セリナと申します」


「セリナさん……ふふ。変わった目を、していますね」


「……よく言われます」


(やっぱり、この子――ただ者じゃない)


水面下で、情報と警戒が交差していた。

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