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【完結済】堕神ノ書 〜異界支配の始原〜  作者: せつな
第四章【仮面の再出発】
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【幻響に揺れる策】



神聖連合領・交易都市アールフェン

夜の路地裏、人気のない木造の裏階段にて


ひと気のない薄暗がりの中、セリナは息を静めながら、深く目を閉じた。


精神伝達魔法《幻響連絡ファンタズム・コール》――起動。


せつなとの間にのみ繋がる、極秘の精神波長チャネルが開かれる。


(――こちらセリナ。現在、アールフェン第七支部にて、信仰系情報を整理中)


(……ここ数日で、“光の巫女”に関する噂が市中へ流れ始めています。“巡礼”や“聖女の兆し”という言葉が複数回、確認されました)


(まだ断片的ですが、神聖連合の上層部が“彼女”を動かそうとしているのは、間違いありません)


数秒の静寂――

やがて、せつなの声が、静かに脳内に響く。


『……確認した。“巫女”を中心とした宗教操作か。動くならば、神聖連合は確実に“仕掛ける側”へ回るだろう』


(……はい。その可能性が高いと判断します。……ご指示を)


一拍の後、通信が切断される。




ネザリア城・上層階 黒の作戦会議室


深い黒を基調とした円形の空間。

中央の卓に、せつな、じゅぴ、リィナの三者が揃っていた。


『……“巫女”が動くということは、神聖連合が“こちらを脅威と見なした”ということ』


「んふふ~♡ いよいよお出ましっすね、“神の器”ごっこしてるお姫様が」


「ふふ……“巫女”って、殺したら面倒くさそうなやつだよねぇ。信仰とか感情とかで粘っこくなりそう〜」


じゅぴとリィナの声音は軽かったが――

その目は真剣だった。戦略としての“脅威”を認識している者の目。


せつなは、彼女たちを見据えて言葉を継ぐ。


『神聖連合は、かつて“象徴”と“奇跡”だけで大陸を抑えた勢力だ。巫女が動けば、世論が傾く。逆らう者には“神罰”の名が与えられる』


「厄介なのは、“事実”じゃなくて“幻想”で人を縛れる点っすね。……どんなにこっちが理を通しても、巫女一人が“泣いて訴えたら”全部ひっくり返される、みたいな」


「……せつな、“巫女”って、ほんとに特別なの?」


『……それ次第では、“処理”もありうる』


その言葉に、じゅぴとリィナが同時に笑った。


「いやぁ~、やっと来たね、そういうの♡」


「じゃあぼくら、“光の巫女”も、“信仰”も――全部、影で塗りつぶしちゃえばいいんだよねぇ?」


せつなは短く頷く。


『だが、情報が足りない。“象徴”だけで判断はしない。……セリナを中心に、連合内の揺らぎと真意を探らせる。グレンも活用できるだろう』


「……ふふっ、セリナちゃんの“情”がまた揺れそうっすねぇ〜♡」


「……見守ってあげるのも、優しさだよねぇ?」


“神”と“影”の会議室で、次なる戦火の兆しが、静かに定められていく。


その中心にいるのは、まだ動きを見せぬ――“巫女”。


誰もがまだ知らない、“鍵”となる存在だった。





ネザリア城・作戦会議室――


漆黒の部屋に、霧のような静寂が降りていた。


卓の上に浮かぶのは、神聖連合領各地の魔導地図と報告文。

中央の光柱には、アールフェンで回収された噂の断片が次々に表示されていた。


『……未来が“見える”……?』


せつなの声が、静かに空間に落ちた。


「うん、あたしもちょっと驚いたっすよ。セリナちゃんが拾ってきた民間信仰の中に、“予兆があった”って言葉がいくつか」


じゅぴが、指で情報球をひとつ操作しながら口を開く。


「王国滅亡の数日前、“巫女が涙を流して倒れた”とか、“光の塔が震えた”とか……記録は曖昧だけど、複数の証言が一致してるっす」


「ふーん……幻想じゃないってわけだ」


リィナが椅子の背にくるりと体を傾け、赤い瞳を細めた。


「……で、予知能力? 神託ごっこ? ぼくたちの邪魔になるなら、潰しちゃえばいいんじゃないの?」


せつなは答えず、しばし沈黙した。


その沈黙を、じゅぴが埋めるように言葉を継ぐ。


「問題は、“完全な未来視”じゃないって点っすね。“見える”というより“感じる”に近いらしいっす。本人も詳細までは把握してない。だけど……」


『感知できるだけで十分、脅威だ』


せつなが静かに言った。


『こちらの存在を、“意図せず”先読みされる可能性がある。動きの精度が落ちる』


「じゃあ、やっぱり……処理?」


『否――』


その言葉に、ふたりの影たちが同時に首を傾げる。


『捕獲する。“未来”を感知できるのであれば、それは“戦略資源”として使える』


「うひゃ〜♡ せつな、珍しく“飼う”方向で来たっすねぇ?」


『価値があると判断したまでだ』


リィナがにぃっと口元を吊り上げた。


「ふふっ、じゃあ生け捕りか。捕獲作戦、面白そ〜……♡」


「……ただし、対象が“未来を感じ取れる”ってことは、下手に動くと逃げられる可能性もあるっすよ?」


『それも想定する。セリナとグレンの観察によって“揺らぎ”を誘導しろ。必要なら直接介入も辞さない』


作戦室の光がわずかに揺れる。


“敵”ではない。だが“味方”でもない。

光の巫女――その存在は、すでに“戦場”に立っている。


『……未来視を持つ巫女。放置すれば毒。使えれば力』


せつなの赤い眼が、虚空の一点を射抜いていた。


『――捕獲する』


じゅぴとリィナが同時に笑みを浮かべる。


「はーい♡ 新しい“お姫様”候補、ぼくたちが丁寧にお持ち帰りしてあげるっす♡」


「ねぇ、せつな。“傷を残してもいい”?」


『命さえ奪わなければ、好きにしろ』


作戦が、音もなく動き出す。


ネザリアが今、未来すらも“手に入れよう”としていた。

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