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【完結済】堕神ノ書 〜異界支配の始原〜  作者: せつな
第四章【仮面の再出発】
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【揺れる神託の座】

【揺れる神託の座】


神聖連合・聖都評議院

円環の間


白銀と聖石で飾られた大理石の間。

天井には天使の彫刻が舞い、中央には十二の玉座が環状に並ぶ。


その中の一つ――最高司祭オレフ=カーディナルが、重く沈黙を破った。


「……つまり、“我らの使者”は何も得られずに戻ったのだな」


「ただ、“敵意なき通達”として送り返された。だが――」


と、聖導官の一人が答える。


「その者の記憶は曖昧で、会談中の記録が残っていない。 一部の伝達魔法も遮断されていた可能性がある。……だが、彼の怯えは本物だった」


重苦しい沈黙が、円環を満たす。


「我々は、王国を見捨てた。そしてネザリアは、それを正確に“見ていた”。」


別の座にいた若い聖官が、口を開く。


「……それでもなお、対話の余地を与えてきたと?」


「それが、“あの存在”のやり方か。ある意味、神に近い冷徹さだ」


「否。“神”ではない。“悪魔”だ。あれは――神の領域を侵す異端者に過ぎん」


その言葉に、空気がわずかにざわつく。


(王国に続いて、連合が滅びるとすれば?)


(次に狙われるのは、我らか……)


彼らの胸中に、恐怖が静かに芽生えていた。


「……諸君、忘れるな。神の名のもとにある限り、我々は“導く者”であり、“裁かれる者”ではない」


オレフは静かに言い放つ。


「この時代に現れた異端は、あまりに強大で、あまりに不可解だ。 ゆえにこそ――正面からぶつかる前に、“その全容”を知る必要がある」


「……まさか」


「“神喚の巫女”を、動かす」


一同の息が詰まる。


「異端に対抗するためには、“神の声”を聞く必要がある。我らに許される最後の“救い”を探るのだ」


聖域最深――眠れる巫女が、今、再び目覚める。


神聖連合の“最後の手段”が、静かに動き始めていた。







白き大聖堂の最奥。千の燭台が灯る聖域の中心で、一人の少女が跪いていた。


純白の法衣に身を包み、まるで“何か”を受信するように目を閉じている。


「……また、夢を見ました」


小さな声が空に吸い込まれる。


「黒い城、黒い兵、そして――黒い王。 けれど、その中心にいるのは……悲しみを知る目をした者でした」


その声を背に、数名の神官と、幾人かの軍の高官たちが控えている。


彼女の名は――ノア=アマリエ・セフィラ。


“神託の巫女”と呼ばれ、連合における“最後の希望”として保護・育成されてきた存在だ。


「これは兆しです。まだ、間に合うかもしれません」


彼女の声には、澄んだ祈りと、かすかな哀しみが混じっていた。


神官の一人が神妙に頷く。


「我らが神に連なる存在……どうか、導きを――」


(漆黒の王よ。もしあなたが本当に“理不尽”でしかない存在であったなら――こんな夢を見ることは、なかったはず)


(あなたの中には、なにか“触れてはならない哀しみ”がある……気がするのです)


少女の祈りは続いていた。


その想いが、遠く離れた“潜入者”の耳に届くことは、まだない。




神聖連合領・交易都市アールフェン

アールフェン冒険者ギルド・第七支部


昼下がりのギルドは、依頼の報告を終えた冒険者たちで賑わっていた。


セリナはいつも通り控えめに受付を通り、軽く会釈しながらカウンターの端で耳を澄ませていた。


「なぁなぁ、聞いたか? 神聖連合の中央……“巫女様”が動いたらしいぞ」


「マジで? あの“神託の巫女”ってやつ? あれが動くってことは、ネザリア、マジでヤバいってことじゃ……」


「でもよ、夢で未来がどうとか、いくらなんでも……信じられるか?」


「バカ、お前そういうの馬鹿にすると罰当たるぞ」


セリナは表情を変えずに会話を聞き流しながら、内心で情報を整理していた。


(……巫女。神託。未来視。……これまで聞かなかった単語が、街の端にまで届いてきてる)


(つまり、神聖連合の中枢で“何か”が動き始めたのね。ネザリアに対する“霊的”な対抗策……それが本命かしら)


外面では、依頼の報告に集中する演技を続けながら、影の仮面は静かに分析を深めていく。


(もし“霊感型”の存在が本当に介入してくるなら――魔導・軍事とは別軸の“神権的戦争”が始まる)


(……せつな様。この都市の空気が、少しずつ変わってきています)


報告すべき“兆し”は、確かに芽を出していた。


セリナは手にした依頼書を静かに畳み、心の中で、次の連絡の準備を始める。

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