【登録処理】
受付カウンターの奥では、薄茶の制服を着た女性職員が、セリナの様子をそっと見守りながら記録用紙を手に取っていた。
「じゃあ、登録に必要な情報、いくつか質問していきますね。
緊張しなくて大丈夫、すぐ終わりますから」
セリナは頷き、小さく呼吸を整える“ふり”をしてみせる。
演技は完璧。表情も声の揺らし方も、“怯えを抱えた少女”を見事に演じきっていた。
「名前は“セリナ=アルメリア”で間違いないですね?」
「……はい」
「年齢は……?」
「たぶん、十五くらい……だと思います。正確な記録は、もう……」
「ご家族は……?」
「……もう、いません……」
ほんの一瞬、声が震える。
喉の奥で何かを詰まらせるような仕草と、わずかに潤んだ瞳――
(……泣きそうな“ふり”くらい、簡単よ)
だが、それを見た受付の女性は――心の底から戸惑った表情を浮かべた。
「……ごめんなさい、無神経でしたね……無理に答えさせるつもりじゃなかったんです」
セリナは、首を小さく横に振る。
あくまで“傷ついた少女”として、沈黙を貫く。
(よし、“弱い可哀想な子”の印象はしっかり残ったわね)
職員の女性が小さく微笑み、質問を進めていく。
「それじゃあ、次に戦闘スタイルの登録を。持っている武器や、使えるスキル、魔法の系統とか……あれば、教えてもらえる?」
「……武器は、短剣だけです。
魔法は……あまり得意じゃなくて、ちょっとだけ、毒を扱えるくらい……です」
「なるほど。じゃあ、軽戦士系に近いわね。『ロークラス(下級職):アサシンタイプ』で登録しておきますね」
「……はい、お願いします」
セリナは頭を下げながら、心の中で呟く。
(ちゃんと“弱そう”に見えてるみたいね)
受付の女性が記録を手早く処理し、紙のような素材の登録証を差し出した。
「これが仮登録証です。“ブロンズランク”としての初期登録になります。
この街では、これがそのまま身分証になりますから、大事に持っていてくださいね」
渡されたのは、古びた銅製のプレートを模したカード。
最低ランク――だが、セリナにとっては最上の“隠れ蓑”だった。
「明日からすぐに依頼を受けることもできます。
今なら生活に必要な支援金も出ますし、ギルド内の寮も利用できますよ?」
「……ありがとうございます。助かります……」
静かに礼を言い、カードを胸元にしまうセリナ。
その仕草にも、無駄な力はひとつもなかった。
(……これで、身分証も確保。生活拠点の候補も確保。街に“居場所”も作れる)
次は、人との接触。情報の引き出し。
せつなの命令を遂行するための、“土台”は整った。
仮面の少女は、ゆっくりとカウンターを離れる。
その背中に、ギルド職員は小さくため息を漏らした。
「……いい子ね。どうか、ここで幸せになってくれればいいけど」
(……ふふ、ありがと。でも、わたしがほしいのは“情報”だけよ)
仮面の下で、セリナは静かに笑う。
誰にも気づかれずに――彼女は、せつなのためにこの街を“解き明かして”いく。
登録完了、仮面の潜入スタート!
ギルドという“舞台”を手に入れたセリナが、いよいよ情報収集へ。
ちょっと切ない演技パートや、彼女の冷静な分析も楽しんでいただけたら嬉しいです。