【揺れる仮面の輪郭】
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交易都市アールフェン――ギルド第七支部
ざわめく朝の受付。依頼掲示板の前には、いつものように冒険者たちが群れていた。
「新しい魔物退治か? あの沼地のやつ、前回結構キツかったんだよなぁ」
「誰か回復持ちいないかー?」
そんな中――
「……え? なにあれ」
誰かが呟き、受付の一角に視線が集まった。
扉の向こうから入ってきたのは、数人の兵士風の男たち。 汚れたマントに疲れ切った表情。だが、その足取りには“訓練された者”特有の重さがあった。
「冒険者ギルド……第七支部、で間違いないか?」
先頭の男が、低く声をかけた。 その声に、受付嬢ミラが一歩前に出る。
「はい。こちらは神聖連合公認の第七支部です。……あなた方は?」
「元・王国軍……第七調査隊所属。所属地の消失により、避難先を求めて来た」
ざわつきが広がる。
王国軍。消失。 その単語に、冒険者たちの視線が鋭さを帯びる。
「身柄の確認と登録処理は必要になりますが、まずは中へ」
ミラは即座に応対し、裏へと連絡を飛ばす。
そして――その後ろから、セリナが静かに歩み寄ってきた。
「お手伝い、必要ですか?」
「セリナちゃん……うん、ごめん、ちょっとお願い」
「はい。こちらへどうぞ」
淡々とした口調で兵たちを案内しながら、セリナの瞳が、一瞬だけグレンと交差した。
その視線に、グレンもわずかに頷いた。誰にも気づかれぬ、ごく僅かな仕草。
(感情は隠す。だけど――ありがとう)
案内された奥の部屋で、ミラが手続きに取りかかる。
「この書類に……あっ、名前の記入は任意でも構いません。仮登録として避難扱いで受理できますから」
「助かる。……こいつら、もう限界でな」
グレンが背後の兵士たちを見やる。 彼らの演技は完璧だった。疲労も、痛みも、すべて本物のように見える。
だが、セリナにはわかっていた。
(……偽装の質、完璧。でもこの動き――やっぱり、ネザリアの訓練を受けた者たちね)
「必要な支援は、ギルドでできる限り提供します。お体、休めてください」
そう言いながら、セリナはミラに書類を渡し、ゆっくりと後ろを向く。
(私の……仲間たち。情を抱いてしまった人たち。 その人たちを、せつな様は“守ってもいい”と判断してくださった)
(それだけで、もう……)
ほんの一瞬、視界が揺れる。
(泣きそうになるなんて、任務中の私らしくないわね)
扉を閉じる前、セリナはグレンにだけ、小さく、ほんの少しだけ口角を上げて微笑んだ。
仮面は、まだ割れていない。
だがその奥では――確かに、情が、芽吹いていた。
ネザリア城・観測室
魔導水晶の中心に映し出されるのは、神聖連合領・交易都市アールフェン。
その冒険者ギルドの一角、セリナとグレンがすれ違うようにして、わずかに視線を交わす。
「……気づかれず、いけたっすね」
じゅぴがモニターを覗き込みながら、頬杖をついてつぶやいた。
「街での距離感、完璧。セリナちゃん、ちゃんと“冒険者の顔”に戻ってるっす」
「……演技の精度も、歩き方も、完璧ねぇ」
隣で立っていたリィナが、相変わらず無表情のまま呟く。
「ただ……あの眼は少しだけ揺れてた。ああいうの、ちょっとだけ苦手なんだよねぇ」
「んふふ、あれが“情”っすよ、リィナ。セリナちゃんの仮面の下に、ちゃんとある“なにか”。……好きっすよ、そういうの」
「ぼくは、嫌い」
リィナは淡々と言いながら、水晶の中のセリナから目を離さなかった。
じゅぴはくすくす笑いながらも、真剣な表情で小さく呟いた。
「でも……せつな、“見てる”っすからね。あの情が、仮面を壊すことがあるなら――それも、ぜんぶ見逃さないって」




