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【完結済】堕神ノ書 〜異界支配の始原〜  作者: せつな
第四章【仮面の再出発】
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【重なる影、交わる仮面】

【重なる影、交わる仮面】


神聖連合領・交易都市アールフェン

アールフェン冒険者ギルド・第七支部


朝のギルドは今日も賑わいを見せていた。

セリナ=アルメリアは、いつものように受付嬢のミラから依頼を受け取り、依頼書を手にしていたが――


(……空気が違う)


日々の喧騒は同じなのに、その中に混じる会話の端々から、違和感が滲んでいた。


「おい、聞いたか……昨日、神聖連合の使者が漆黒の城に行ったって話……」


「戻ってきたけど、なにひとつ話さないってよ。なーんかヤバい空気だよなぁ……」


「もしや、次はこっちが……?」


(やっぱり、動いてる)


受付カウンターの向こうでも、冒険者たちの控え室でも、噂は確実に広がっていた。


「セリナちゃん……なーんか騒がしいよね、最近」


ミラが少し苦笑しながら声をかけてくる。


「王国の時みたいにならなきゃいいけど……あたし、ちょっと怖くてさ……」


「……大丈夫ですよ。今はまだ、噂だけですから」


セリナは柔らかく笑い返しながらも、頭の奥では鋭く情報を整理していた。


(神聖連合が直接動き出すには、もう少し時間がかかるはず……)


(でも、ネザリアへの使者は既に派遣され、帰還してる。せつな様へもその報告は届いている頃ね)


(こちらの“動き”は、今はまだ見えない。けれど、いずれ“対応”はあるはず)


彼女は依頼掲示板に目を移しながら、ほんの少しだけ、足を止める。


(そして――グレン隊長たちの動きも。まだ“使われる”とは決まっていないけれど……)


(彼らがこの街に潜入する可能性は、十分にあるわ)


(ただの客人ではなく、“兵”として送り込まれるなら――)


セリナは静かに息を吐く。


(そのとき、私の任務も変わるかもしれない。だとしたら……それまでに、街の空気をもっと把握しておくべきね)


仮面の裏で、戦術思考が回り始める。


――それに、あの人たちは、この街に“顔見知り”がいる。 不用意に動けば、過去の繋がりを悟られる。


(……となれば、私が気づいた時点で、対応しなきゃ)


「じゃあ、行ってきますね。午後までには戻ります」


「うん、気をつけてね~!」


ミラに軽く手を振りながら、セリナはギルドを後にした。


(この街の“日常”は、もうじき終わる。だけど、まだ誰も気づいていない)


(仮面は、微笑むためにある。でも、それだけじゃ――足りない)


セリナは、街の光と喧騒の中へ溶け込んでいった。


仮面の少女が再び歩き出す。


その足元に、影が静かに寄り添っていた。





神聖連合領・交易都市アールフェン

東門・臨時検問所


正午を回った頃。門の前の石畳に、不自然な“空白”が生まれた。


そこに、現れたのは――


「誰だ!? おい、あれ……!」


「人が……十数名? ……武装してる!?」


都市の警備兵が慌てて駆け寄る中、彼らは何もせず、ただ疲れた様子で佇んでいた。


泥と血にまみれた衣服、無言の表情。

そしてその中心に、グレン=ロウバルトの姿があった。


「……神聖連合の関係者か。俺たちは、元・王国軍。第七調査隊――だった者だ」


警備兵たちが一気に緊張を強める。


「俺たちは“逃げてきた”。漆黒の城、ネザリアから。国も家も、何もかも失った。だが……命だけは、まだある」


視線が交錯する。だが、嘘のないその眼差しが、事態を飲み込む隙を作っていた。


ほどなく、冒険者ギルドに連絡が届く。 そして――セリナが、現地への“応援”として向かってくる。


(……この気配)


人混みの中に立つ、その姿を見つけた瞬間、グレンの肩が僅かに揺れる。


セリナもまた、彼の顔を見て――目を見開いた。


「……グレン、さん……?」


(来たのね……)


「セリナ、落ち着いて聞いてくれ」


人目を盗むように、グレンは短く口を開く。


「俺たちは、“せつな殿”の指示で来た。表向きは避難兵の偽装だが、実際には――お前の“護衛”だ」


「護衛……?」


セリナの声が震える。


「お前の報告、伝わってる。“この街の者たちに、情がある”って」


「……!」


「だから、せつな殿は考えた。“お前が必要だと思うなら、守ってやれ”と」


(せつな様が……)


「もちろん、俺たちの任務には、“判断”も含まれる。実際に、この街の人々が“保護に値するか”――それを見極めるよう、言われている」


セリナは何も言わなかった。 ただ、肩を小さく震わせ、目を伏せた。


(……私は、この街を壊す覚悟で、ここにいたのに)


(それでも……せつな様は、私の心を、否定しなかった)


「……ありがとうございます。伝えてください、せつな様に」


ゆっくりと顔を上げたセリナの目は、かすかに潤んでいた。


「……本当に、ありがとうございます」


グレンはそれ以上、何も言わなかった。


ただ静かに頷くと、彼は仲間たちに目配せを送り、疲れたふりをしながらゆっくりと門へ向かっていく。


人々の視線が集まる中、セリナは胸の奥で、ひとつの決意を強くした。


(この街を、守ってみせる。……せつな様に、そう望まれたのだから)


仮面の奥で、微かに光が揺れる。


それは、影である彼女が初めて知った、“誰かを守るための意志”だった。

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