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【完結済】堕神ノ書 〜異界支配の始原〜  作者: せつな
第四章【仮面の再出発】
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【揺れる聖堂の影】



神聖連合・中央聖都バルトラ――“聖界議院”本会議室


白大理石の柱がそびえ立つ、荘厳なる会議の間。

その中心で、年老いた男が静かに立ち尽くしていた。使者――リオネル。

彼の衣は塵にまみれ、表情はひどく硬い。


「……帰還は確認した。で、“どうだった”?」


問うたのは、議院の最高座《聖統導師》エルマン=カリス。

神代の紋章を身に纏う男は、鋭い目で使者を見据えていた。


リオネルは静かに膝をつき、口を開く。


「――交渉は、不成立に終わりました」


「ほう」


「……尋常ではありません。すべてが黒で統一された巨大な要塞、そして……」


数秒、口を閉ざす。


「“人ならざる王”が、確かにそこに存在しました」


一同が息を呑む気配が、重く室内を包む。


「我々は礼を尽くし、使者として言葉を交わしました。

彼――“漆黒の王”は、一応、応対の体は保ちましたが……」


「だが、和平の意志はなかったと?」


「……いえ。正確には、“我らの誠意次第”と受け取りました。

彼は言いました。――“敵意を向ければ滅ぼす”と。

“王国のようになりたくなければ、選べ”と……」


ざわ、と議員席が騒然とする。


「まさか……!」


「やはり、あれは“人”ではない。災厄だ。あれを放置すれば、神の秩序が乱れる」


「しかし、王国が滅んだのも事実……我々が軽々に剣を振るえば、同じ末路になるやもしれん」


意見が飛び交い始める。


だが、エルマンだけは沈黙のまま、リオネルを見つめていた。


「……お前はどう思う?」


唐突な問いに、使者はわずかに目を見開いた。


「……私には、判断がつきかねます。ですが――あの王には、“道理”があった。

あの場では、彼の言葉が一番、真っ当であるようにさえ……思えました」


議員たちの中で、ざわめきがもう一度強まる。


だが、エルマンはその全てを受け止めるように頷いた。


「……よい。下がれ。よく戻った」


「はっ」


リオネルが退出した瞬間、エルマンの指が静かに机を叩いた。


「……城の分析を続行。既存の聖紋では歯が立たぬ可能性もある。

“祈り”を捧げよ。……天の光が、我らの前に現れることを信じて」


「まさか、“聖遺軍”を……?」


「早計は禁物だ。だが――備えは必要だ」


会議の空気が一変する。

対話の裏で、確実に“戦争の兆し”は育ちつつあった。



一方その頃――


ネザリア城・玉座の間


じゅぴがくるくると回転しながら、せつなのそばにひょいっと現れる。


「戻ったっすよ〜♡ 使者くん、ちゃんと帰ったっす。

さてさて、これで神聖連合も“揺れる”っすねぇ♡」


せつなは何も言わず、ただ赤い眼を細める。


『……彼らは選ぶだろう。対話か、滅びか。王国と違い、多少は頭が回るはずだ』


「んふふ。でも、あたしらはどっちでもいいんすよねぇ。どっち来ても――“応じる”だけっす」


静かに告げる支配者と、その傍に立つ従者。


嵐の前の静けさが、再び世界を包み始めていた。

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