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【完結済】堕神ノ書 〜異界支配の始原〜  作者: せつな
第四章【仮面の再出発】
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【使者の到来】



ネザリア城・中央制御室――


魔導スクリーンに、淡く光る点が映し出された。


「ん~……おやぁ? 接近反応ありっすねぇ。しかも……団体さん?」


じゅぴが画面を指でなぞり、魔力で拡大する。 赤く光る複数の反応が、ゆっくりと山間を進んでいる。


「ふむふむ。神聖連合からの、予想通りの“お使い”っすかね~」


そのまま軽やかに踵を返し、玉座の間へ足を運ぶ。


「せつな、来客っすよ。神聖連合の使者、っぽいのがのしのし向かってきてるっす」


玉座に腰を預けるせつなは、わずかに眼を細める。


『……予定より少し早いな』


「対応どうするっす? あたしが玄関で火球でもお見舞いして――」


『待て。……まずは迎えろ』


せつなはゆっくりと立ち上がり、命じる。


『門へ、メイド二人を立たせておけ。正式な使者なら通す。それ以外は……排除だ』


「りょ~かい♡ 選ばれし門番メイドちゃん、出動っすね!」


じゅぴが指を鳴らすと、影のように現れた二人の黒衣のメイドが、無言で一礼し、姿を消す。


その数分後――


ネザリア城・正門前。


切り立つ崖の上に広がる漆黒の城の門前に、一行が到着していた。


神聖連合の使者団。整った装いに金銀の装飾を身につけた騎士と文官たち。 だがその足元は、微かに震えていた。


なにせ――門前に立っていたのは、無表情な黒衣のメイド二人。


魔力の気配が、普通ではない。


「……我らは神聖連合よりの使者。主に謁見を望む」


「確認済み。……主の命により、案内を」


片方のメイドが淡々と答えると、門が音もなく開いた。


誘われるように、漆黒の城の闇の中へと彼らは足を踏み入れる。





ネザリア城――内廊


静寂と漆黒に包まれた通路を、神聖連合の使者団が進んでいた。


足音は、磨き抜かれた黒の床に淡く反響する。


「……なんだ、この建造……」


「壁一面……彫刻……金の刺繍……っ」


文官の一人が、吐息のように呟く。


城の内部は、ただ黒いだけではない。


精緻な文様が天井から床まで織り込まれ、魔導的な光が脈打つように揺れていた。


「都市国家の域を超えている……これは、もはや神の……」


誰かの言葉に、先頭の騎士が振り返る。


「静かに。無礼があれば、命の保証はないぞ」


案内役の黒衣のメイドたちは一言も発せず、機械のような正確さで進路を先導していた。


やがて、巨大な漆黒の扉が眼前に現れる。


その重厚な扉が、音もなく――開いた。




ネザリア城・玉座の間


そこは、世界のどの王宮よりも“静か”で、“重い”空間だった。


巨大な天井。闇のように深い赤い絨毯。 その奥に――玉座。


そして、漆黒の鎧を纏い、赤き眼を湛えた男が、沈黙のまま座していた。


「……貴殿が、この城の主か」


先頭の老年の使者が、一歩だけ進み出て声を発した。


対するせつなは、ただ視線を向ける。 まるで、存在そのものを測っているような視線。


その横、玉座下に控えるのは――


小柄な少女、じゅぴ。 そして、気配を抑えた黒髪のメイド――リィナ。


二人とも無言。ただ、笑みと沈黙で場の空気を支配していた。


老使者はひとつ、咳払いをしてから口を開いた。


「我らは神聖連合よりの使者。王国滅亡の報を受け、状況の確認と――和平の可能性について、主と対話を求めて参った」


しばしの沈黙ののち、せつながゆっくりと立ち上がる。


その動作ひとつで、空気が――締まる。


『和平を求めに来たと?』


「……はい。我ら神聖連合は、王国とは立場を異にし、貴殿の意図を計りかねております。争いを避ける道があるならば――」


『……選択肢など、元より一つだ』


せつなの声は低く、明確だった。


『我は、貴様らの意志を見に来た。和平など望んではいない。 ただ、“己の立ち位置”を知る者に、裁きを下すだけだ』


じゅぴがくすくすと笑いながら一歩前に出る。


「ねぇ、使者さん♡ あたしたち、“王国の時”にもう説明したはずなんすよ。“敵意を向けたら、殺す”って。ルールはずっと一緒っすよ?」


リィナは何も言わない。ただ、ほんのわずか、唇の端を上げた。


“いつでも殺せる”という合図のように。


使者たちの顔から、血の気が引いていく。


「……我らは、敵意など――」


『ならば、行動で示せ』


せつなの言葉は、刃のように突き刺さる。


『次の返答は、神聖連合の“総意”として寄越せ。さもなくば――お前たちは王国と同じ末路を辿る』


老使者は、震える膝を押さえて深く頭を垂れた。


「……承知、いたしました。必ず、正確に伝えます……」


せつなはそれ以上、何も言わなかった。


ただ、視線だけが“静かに命を断つ剣”のように、彼らを見送っていた。


そして――


闇の城を背に、神聖連合の使者たちは帰路につく。


次に返す答えが、“世界の在り方”を決めると知らぬまま。

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