【使者の到来】
ネザリア城・中央制御室――
魔導スクリーンに、淡く光る点が映し出された。
「ん~……おやぁ? 接近反応ありっすねぇ。しかも……団体さん?」
じゅぴが画面を指でなぞり、魔力で拡大する。 赤く光る複数の反応が、ゆっくりと山間を進んでいる。
「ふむふむ。神聖連合からの、予想通りの“お使い”っすかね~」
そのまま軽やかに踵を返し、玉座の間へ足を運ぶ。
「せつな、来客っすよ。神聖連合の使者、っぽいのがのしのし向かってきてるっす」
玉座に腰を預けるせつなは、わずかに眼を細める。
『……予定より少し早いな』
「対応どうするっす? あたしが玄関で火球でもお見舞いして――」
『待て。……まずは迎えろ』
せつなはゆっくりと立ち上がり、命じる。
『門へ、メイド二人を立たせておけ。正式な使者なら通す。それ以外は……排除だ』
「りょ~かい♡ 選ばれし門番メイドちゃん、出動っすね!」
じゅぴが指を鳴らすと、影のように現れた二人の黒衣のメイドが、無言で一礼し、姿を消す。
その数分後――
ネザリア城・正門前。
切り立つ崖の上に広がる漆黒の城の門前に、一行が到着していた。
神聖連合の使者団。整った装いに金銀の装飾を身につけた騎士と文官たち。 だがその足元は、微かに震えていた。
なにせ――門前に立っていたのは、無表情な黒衣のメイド二人。
魔力の気配が、普通ではない。
「……我らは神聖連合よりの使者。主に謁見を望む」
「確認済み。……主の命により、案内を」
片方のメイドが淡々と答えると、門が音もなく開いた。
誘われるように、漆黒の城の闇の中へと彼らは足を踏み入れる。
ネザリア城――内廊
静寂と漆黒に包まれた通路を、神聖連合の使者団が進んでいた。
足音は、磨き抜かれた黒の床に淡く反響する。
「……なんだ、この建造……」
「壁一面……彫刻……金の刺繍……っ」
文官の一人が、吐息のように呟く。
城の内部は、ただ黒いだけではない。
精緻な文様が天井から床まで織り込まれ、魔導的な光が脈打つように揺れていた。
「都市国家の域を超えている……これは、もはや神の……」
誰かの言葉に、先頭の騎士が振り返る。
「静かに。無礼があれば、命の保証はないぞ」
案内役の黒衣のメイドたちは一言も発せず、機械のような正確さで進路を先導していた。
やがて、巨大な漆黒の扉が眼前に現れる。
その重厚な扉が、音もなく――開いた。
ネザリア城・玉座の間
そこは、世界のどの王宮よりも“静か”で、“重い”空間だった。
巨大な天井。闇のように深い赤い絨毯。 その奥に――玉座。
そして、漆黒の鎧を纏い、赤き眼を湛えた男が、沈黙のまま座していた。
「……貴殿が、この城の主か」
先頭の老年の使者が、一歩だけ進み出て声を発した。
対するせつなは、ただ視線を向ける。 まるで、存在そのものを測っているような視線。
その横、玉座下に控えるのは――
小柄な少女、じゅぴ。 そして、気配を抑えた黒髪のメイド――リィナ。
二人とも無言。ただ、笑みと沈黙で場の空気を支配していた。
老使者はひとつ、咳払いをしてから口を開いた。
「我らは神聖連合よりの使者。王国滅亡の報を受け、状況の確認と――和平の可能性について、主と対話を求めて参った」
しばしの沈黙ののち、せつながゆっくりと立ち上がる。
その動作ひとつで、空気が――締まる。
『和平を求めに来たと?』
「……はい。我ら神聖連合は、王国とは立場を異にし、貴殿の意図を計りかねております。争いを避ける道があるならば――」
『……選択肢など、元より一つだ』
せつなの声は低く、明確だった。
『我は、貴様らの意志を見に来た。和平など望んではいない。 ただ、“己の立ち位置”を知る者に、裁きを下すだけだ』
じゅぴがくすくすと笑いながら一歩前に出る。
「ねぇ、使者さん♡ あたしたち、“王国の時”にもう説明したはずなんすよ。“敵意を向けたら、殺す”って。ルールはずっと一緒っすよ?」
リィナは何も言わない。ただ、ほんのわずか、唇の端を上げた。
“いつでも殺せる”という合図のように。
使者たちの顔から、血の気が引いていく。
「……我らは、敵意など――」
『ならば、行動で示せ』
せつなの言葉は、刃のように突き刺さる。
『次の返答は、神聖連合の“総意”として寄越せ。さもなくば――お前たちは王国と同じ末路を辿る』
老使者は、震える膝を押さえて深く頭を垂れた。
「……承知、いたしました。必ず、正確に伝えます……」
せつなはそれ以上、何も言わなかった。
ただ、視線だけが“静かに命を断つ剣”のように、彼らを見送っていた。
そして――
闇の城を背に、神聖連合の使者たちは帰路につく。
次に返す答えが、“世界の在り方”を決めると知らぬまま。




