【影に託された任務】
【影に託された任務】
ネザリア城・訓練棟・作戦詰所
灰色の石造りの天井に、淡く魔導灯の光が灯る。
詰所の一角、隊員たちが軽い訓練を終え、肩で息をついていた。
「隊長、今日のメニューちょっとキツすぎませんか……」
「文句は鍛え上がってから言え。文官に戻りたいか?」
「いえ、ありがたいです……っ!」
息を吐きながら、グレン=ロウバルトは水筒を置いた。
(今となっては、全員が“戦える”身体になった。……王国じゃ考えられなかったが)
そんな中――カラン、と金属の音。
扉が開き、ゆらゆらと歩いてきたのは、一人の少女。
「おっつかれっす、隊長♡ あ、みんなも元気してたっすか〜?」
「……じゅぴ、か」
彼女が現れた瞬間、場の空気が引き締まる。
グレンたちは、彼女の“本当の実力”を、一度見てしまっている。
「今日は任務の話。ちゃーんと聞いてほしいっすよ?」
じゅぴは軽く手を振りながら、中央の机にストンと腰を下ろした。
「内容は――神聖連合領、交易都市アールフェンへの潜入」
その場の空気が一変する。
「おい、そこって……今、話題の“あの都市”か?」
「情報の中心地の一つ、って噂も……」
「おしゃべりストップっす♡ まとめて説明するから」
じゅぴは指を立てて、ぴしっと周囲を制した。
「目的は、街の空気を掴むこと。あと、向こうにいる“潜入済みの子”との接触」
「……セリナ、か?」
「ピンポーン♡ でもね、これ重要なんすけど――」
じゅぴはグレンにだけ、意味深な目線を送った。
「セリナちゃんには、この作戦、知らされてないっす。完全なる、サプライズ♡」
「……なんだと?」
「驚いて戸惑うだろうけど、それも込みで任務っすよ? “本人の前でだけ”こっそり説明するっす。正体がバレないように、ね?」
グレンは短く息を吐いた。
(つまり、せつな殿からの“仕掛け”ってことか)
「……了解した。うまくやる。セリナを混乱させたり、任務の妨げにはしない」
「ふふっ、それでこそ、隊長♡」
じゅぴは立ち上がり、くるりと一回転して笑った。
「偽装は、王国滅亡時に“逃げ延びた少数兵”って体でいくっす。疲労困憊で、匿ってほしいってストーリーにするっすから、準備よろしくっすよ〜」
隊員たちが頷く中、グレンだけはじっと壁を見つめていた。
(……セリナ、か。確かにあいつがこの街にいるなら、意味がある)
(だが同時に、“新しい始まり”でもあるんだろうな)
静かに、決意を胸に――
影の部隊が、ふたたび表へと姿を変える。
任務開始は、明朝。
アールフェンに、再び影が降りる。




