【ささやきと命令】
ネザリア城・情報制御室――
淡く光る魔導スクリーンには、交易都市アールフェンのギルド内部が映し出されていた。
その映像に重なるように、音声が流れ続けている。
『……私は“セリナ=アルメリア”。この街で生きる、ひとりの冒険者』
『……でも、“せつな様”が命じるなら――私は、この場所を壊すことも、選ばなければならない』
「……あーあ、めっちゃ揺れてるじゃん、セリナちゃん」
じゅぴが頬杖をつきながらスクリーンを眺め、くるりと椅子を回した。
すぐ背後、壁に寄りかかるようにしてリィナの姿もあったが、彼女は一瞥もくれず黙っている。
「せつなー♡ これ、見てたっす? セリナちゃん、たぶんあの街の空気にちょっと毒されてきてるっすよ〜」
影越しに姿を現す、漆黒の支配者。
せつなは言葉を発さず、ただじゅぴの背後に静かに立つ。
「別に、敵意じゃないっすよ。むしろちゃんと“迷ってる”あたり、可愛いもんっす」
そして、にこりと笑ってから――口を尖らせてみせた。
「だからさぁ、守ってあげたらどうっすか♡? セリナちゃんだけは、あの街にずっといさせてあげてもいいんじゃ――」
「――甘やかし過ぎ。吐き気がする」
リィナの冷たい声が、室内の空気を裂いた。
「“揺らいだ時点”で、弱い。命令に従わないなら、その時点で切り捨てるべき」
「はあ!? それ本気で言ってるんすか!? セリナちゃんは潜入任務の要っすよ!? 貴重な情報源で、性能も――」
「……任務の話なんかしてない。“感情”の話。戦場でそれが邪魔になるの、あなた一番知ってるでしょ」
「はぁあ!? あたしはちゃんと仕事してるし、フォローもしてるし、ちょっとは優しさ見せてもいいって――」
「甘い。脆い。」
「うぐっ……あんたほんっとかわいげない……!」
「黙ってろ、装飾AI」
「誰が装飾だああああっ!!」
魔力がぴしりと空気を叩いたその瞬間――
せつなが、静かに言葉を発する。
『……グレンを使え』
一瞬にして室内の空気が止まる。
じゅぴがぱちくりと瞬き、リィナが眉をひそめる。
「……せつな?」
『第七調査隊の“元指揮官”。既にこちらに属した者だ。情の“共鳴”があるなら、それを利用しろ』
『セリナは感情を演じてきた。だが、今は“受け取ってしまった”。――ならば、近しい者に“預ける”のが最も早い』
「……ふふっ、なるほどぉ……さっすが、せつな♡」
じゅぴは指を鳴らすと、スクリーンにグレンのデータを浮かび上がらせた。
「そっか、じゃあこれをきっかけに、“セリナちゃんとグレン隊長の連携ルート”をつくるってわけっすね?」
『次の動きがある。神聖連合の背後にある動きも、見えてきた』
『情報の継続。それと“覚悟”の再確認。すべて、同時に行え』
リィナが一歩前に出る。
「セリナの保護は認める。でも、それと任務遂行は別。“同情”ではなく、選別のためだと……そう理解しておく」
じゅぴがうんうんと頷く。
「了解っす♡ じゃあ次は、“セリナちゃんとグレンの再会”を演出して……っと。ふふっ、面白くなってきたじゃないっすか♡」
魔導スクリーンには、今も変わらずアールフェンの平穏な日常が映っていた。
だがその裏では、“次の戦い”が、静かに準備を始めていた。




