表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結済】堕神ノ書 〜異界支配の始原〜  作者: せつな
第四章【仮面の再出発】
73/159

【揺れる情の芽】



神聖連合領・交易都市アールフェン

アールフェン冒険者ギルド・第七支部


朝のギルドには、いつもと変わらぬ活気があった。


依頼を選ぶ冒険者たち、受付に並ぶ者、仲間と冗談を飛ばし合う者たち――

そのざわめきの中に、セリナ=アルメリアの姿も自然に溶け込んでいた。


「おはようございます、皆さん」


「お、セリナちゃん! 今日も早いなぁ!」


「ミラさんもおはようございます。依頼、もう出てますか?」


「うん、今朝出たばかりのがあるよ。セリナちゃんなら、これとかどう?」


受付嬢のミラが微笑みながら依頼書を差し出す。

その仕草は、まるで長年の仲間に向けるような信頼を含んでいた。


「……ふふ。ほんっと、立派になったなあ、セリナ」


「最初に来た時なんて、“あの、ひとりになっちゃって……”って、今にも泣きそうだったのにさ〜。覚えてる?」


「もちろん、覚えてますよ。この街で……生きていけたらって……思って……ですよね?」


くすりと笑うセリナの声は、当時より少しだけ強くなっていた。


(……あの頃は、“怯えた少女”を演じるのも、慣れてなかったわね)


今のセリナは、Aランク

実力・人柄ともにギルド内での信頼も厚く、日々の依頼でも安定した成果を出し続けていた。


そんな彼女に、周囲も自然と“仲間”として接している。


「……いやぁ、もう追い越されちまったなぁ」


声をかけてきたのは、ルカ=フェイル。

彼女が初めてこの街に現れた日、手を貸してくれた冒険者の一人だ。


「そんなことありませんよ。私がここまで来られたのは、ルカさんや、皆さんのおかげです」


「……ははっ、そう言ってくれるうちは、まだ負けてないって思っとくか」


笑いながらも、どこか寂しそうな顔。

だが、セリナはあえてその空気に触れず、柔らかく返す。


(……それでいいのよ。深入りさせないためにも、必要な“距離”は保つべき)


けれど――その思考の片隅に、小さな違和感が引っかかる。


ミラが無邪気に笑い、ルカが軽口を叩く。

冗談を交わし、依頼に向かう冒険者たち。

この日常が、“悪”でも“敵”でもないと、わかっているのに。


(……なのに、“せつな様が戦うとき、ここも巻き込まれるのかしら”なんて)


(そんなこと……本来、思うべきじゃないのに)


潜入者。観察者。従者。


そのどれにも、情は不要なはずだった。

けれど、今日の陽射しがやけに眩しく感じるのは――演技のせいだけではない気がしていた。


「……セリナちゃん? どうかした?」


「いえ、大丈夫です。少しだけ、考え事をしていただけです」


いつものように笑ってみせる。

仮面の内側で、心が一瞬だけ揺れたことなど、誰にも気づかせないように。


(……私は“セリナ=アルメリア”。この街で生きる、ひとりの冒険者)


(……でも、“せつな様”が命じるなら――私は、この場所を壊すことも、選ばなければならない)



張りつめた仮面の奥で、小さな痛みが灯る。

それが“感情”だと知るのは、まだ少し先のことだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ