【仮面の笑顔、再び】
4章スタートです!!!
【仮面の笑顔、再び】
神聖連合領・交易都市アールフェン
アールフェン冒険者ギルド・第七支部
朝の陽光が白壁を照らす中、静かにギルドの扉が開いた。
入ってきたのは、小柄な黒髪の少女――セリナ=アルメリア。
控えめな所作でフードを外すと、周囲の冒険者たちが気づいてざわつく。
「お、セリナ。戻ったか!」
「試験だったんだろ? 無事だったか?」
「……おかえりなさい、セリナさん!」
声が自然と集まる。
以前なら居場所もわからぬ“影”のような存在だった彼女が、今ではこの街で顔を知られる“準上位冒険者”として定着していた。
セリナは柔らかな微笑みを浮かべながら受付に向かい、書類を差し出す。
「おはようございます。ランク昇格試験、無事完了しました。登録手続き、お願いできますか?」
受付嬢は顔を輝かせた。
「セリナさん、本当に……! 無事でよかったです! 心配してたんですよ」
「ご迷惑をおかけしました。遮断区での実施でしたので、通信が遅れました」
(……まぁ、嘘は言ってないわよ。通信が通らなかったのは“そういう場所”だったもの)
書類を受け取った受付嬢が確認を進め、声を弾ませる。
「昇格、認定されました! セリナさん、これで正式に――Aランクです!」
ギルド内に小さな歓声が上がる。
「すげぇな、ほんとに受かったのか」
「仮面の狩人、ますます遠い存在になったな……」
「いや、でもあの子、話せば普通にいい子だぞ?」
セリナは少し照れたふうに笑って返す。
(ええ、“普通の冒険者の顔”は、もうすっかり馴染ませてある)
(――でも。私の本体は、“任務を遂行するための人形”)
(演技が上手くいくほど、この仮面の奥にある無機質な自分を強く意識する)
「それでは、改めて活動を再開します。また、どうぞよろしくお願いしますね」
深く一礼し、席へと向かうセリナの背には、街の誰もが気づかない“無音の刃”が光を潜めていた。
──その様子を、少し離れた壁際から眺めていた男がいた。
ルカ=フェイル。
数年前には“新人だったセリナ”の面倒を時々見ていた、れっきとした中堅冒険者だ。
「……はは、完全に追い越されたな」
苦笑交じりに呟いたその声は、どこか誇らしく、そして寂しげだった。
昔は、ギルドの隅で緊張したように縮こまり、依頼書を取るだけでも顔色を伺っていた少女。
誰よりも影が薄くて、誰よりも声が小さかった。
それが今では――
堂々とAランクに昇格し、ギルドの顔となる一人に名を連ねている。
「ほんっと、強くなったよな……」
その言葉に、誰も返事はしなかった。
けれど、彼の眼差しは確かに誇っていた。
(あいつはもう“守ってやる”側じゃない。きっと、俺よりよっぽど強くて、ずっと遠くを見てるんだろうな)
だからこそ、これからの任務でまた会うことがあるのなら――
そのとき、自分が背中を預けるのは、もしかしたら“あいつ”になるのかもしれない。
「……ま、先輩風吹かせられるうちに、ちょっと飯でもおごっとくかね」
ぽつりと呟いたルカの背に、今はもう気づかれることもない影がそっと微笑んでいた。
セリナは、ギルドの奥で静かに席につきながら、振り返らずにその空気だけを受け止めていた。
(……うん。知ってるわよ、ルカさん。感謝してるわ。だから――)
(演技でも、笑っておくの)




