【絶望の使者】
【絶望の使者】
ネザリア城・玉座の間――
じゅぴが玉座の前で楽しげに報告をしていた。
「防衛網も完璧、攻撃準備も万全っす!いつでも王都に乗り込めるっすよ♡」
リィナも傍らで微笑みを浮かべ、満足げに頷く。
「ぼくも城外に影を配置済み。逃げる者は、ひとりもいないよ」
そのとき――
じゅぴがぴくりと反応した。
「ん? ……おやおや、せつな。正面門に“来客”っすよ?」
せつなの視線がじゅぴに向く。
「王国の使者が一人、こっちに震えながらやってきたっす♡ どうするっすか?」
『……通せ』
低く静かな命令。
玉座の間、扉が重々しく開く。
使者の青年は、足元もおぼつかないまま進み出た。
彼の目の前には、漆黒の玉座に座す漆黒の鎧の王――せつな。
青年はその圧倒的な威圧感に膝が震え、頭を深く垂れた。
「お、王国より参りました……!このたびの非礼、大変申し訳なく……!」
声が震えている。言葉も途切れ途切れだ。
「王国は争う意思はありません……!どうか、このまま兵を引いていただければと……!」
必死に言葉を並べる青年を、せつなは静かに見下ろしていた。
一拍の沈黙後、重い声が響く。
『……非礼、だと?』
青年の体がビクリと震えた。
『兵を送り、我が城を攻めた。言葉でごまかせると思ったか』
「いえ、その……我々も愚かでありました!どうか、王国の民をお許しください……!」
せつなはわずかに息を吐く。
『民を許せ、か……』
冷たい視線が、青年を貫いた。
『だが、王国はすでに選択した。我に牙を剥いたのだ』
せつなの言葉は、静かに決定的なものとなっていく。
『許しはない。王国は滅ぶ。それ以外の未来は存在しない』
青年の瞳に絶望が広がった。
「そ、そんな……お待ちください!どうか、話を……」
『話は終わった』
その言葉と共に、玉座の間の空気が一変する。
「じゃ、そういうことで〜♡」
じゅぴが指を鳴らすと、使者の足元に転移魔法陣が展開される。
「――ひっ……!」
次の瞬間、使者の姿は玉座の間から消え去った。
王都・軍務院――玉座の間。
突然、空間が歪み、一人の青年が床に倒れ込んだ。
「これは......使者……戻ったのか!? どうだった!?」
だが青年は震えながら頭を抱え、呻くだけだった。
「ゆ、許されない……王国は滅ぼすと……! あれはもう、交渉できる相手じゃない……!!」
場にいる全員が絶句した。やがて、混乱が玉座の間を覆い始める。
「馬鹿な……! 交渉の余地すらないのか!?」
「では、もはや……戦うしか……!」
老将軍が絞り出すように叫んだ。
「総力を挙げて防衛準備だ! 王都の全兵を城壁に集結させよ!!」
玉座に座る老王は、ただ震える手で顔を覆うのみだった。
ネザリア城・玉座の間――
せつなは漆黒の玉座に座し、静かに言葉を告げた。
『じゅぴ、リィナ』
「はーい♡」「ここにいるよ」
『王都へは我ら三人で攻め込む。残りは全員、城を守り待機していろ』
じゅぴがニヤリと笑い、胸元で拳を握る。
「了解っす♡ 十分すぎるくらいっすね〜」
リィナも微笑みながら小さく頷いた。
「三人だけ……♡ 贅沢で最高の戦争だね」
『行くぞ』
せつなが静かに立ち上がる。漆黒の鎧が小さく音を立てる。
「待ってましたぁ、せつな♡」
じゅぴが軽く跳ねるように続き、リィナも音もなく従う。
ネザリア城内には緊張した空気と共に、畏怖にも似た興奮が広がっていた。
転移の魔法陣が三人の足元に展開される。
光が収まり、そこに三人の姿はなく――
王都を襲う破滅が、いま動き始めたのだった。




