【怯える王国】
【怯える王国】
王都・軍務院会議室――
円卓を囲む上層部の男たち。その誰もが顔色を失い、深い沈黙が場を支配していた。
「……状況を整理するぞ」
口を開いたのは、参謀長だった。だが、その声も震えている。
「攻略軍は三部隊すべてが全滅。生存者は……ゼロだ」
空気が凍る。
「どうやって? 敵の規模は、たった一城だぞ!?」
「規模ではない。相手が、異質だったのだ」
老将軍が呟くように返す。
「あの指揮官は、"次はこちらから出向く"と伝えてきた。奴らは明らかに……王国に攻め込む気だ」
「……馬鹿な! この王国が落とされるとでも?」
「では、お前があの城を見てきたらどうだ!?」
怒鳴り声が飛び交い、混乱が増す。
その時――老いた王が静かに手を挙げた。
「……我々は、過ちを犯したのだな」
玉座からの重苦しい一言に、全員が沈黙した。
「威信だの、正義だのと、耳触りの良い言葉に酔った。……そして、虎の尾を踏んだ」
「陛下、それでは降伏するのですか!?」
「では、他に何がある? あの指揮官のように、この城が炎に飲まれるまで抗うか?」
再び沈黙が訪れた。
その中で、軍務大臣が声を絞り出した。
「せめて……使者を送るべきではないでしょうか? 話し合いを求め――」
「話し合いだと……? 今更、何を話す?」
だが、他に案もなく、誰もが押し黙る。
――彼らはようやく気づいたのだ。
自らが踏み込んだ闇が、いかに深く、いかに広いかを。
この先に待つのが、“王国の終焉”かもしれないことを。
重い沈黙の中、軍務大臣が声を絞り出した。
「……もはや、我々に打つ手は一つしかない。使者を送るのだ」
「使者……ですか? あの地獄の城に?」
「降伏ではない。だが、交渉の場を設けねば王都は灰と化す」
玉座に座る老王が頷く。皆が静かに息を呑んだ。
「誰が行く……?」
沈黙が、部屋を支配した。
――誰もが死地に赴くことを拒否したいのは明らかだった。
結局、視線はひとりの若い官吏に集中した。
「……わ、私が……?」
青年の声は震えていた。
「そうだ、お前が行け。使者としての礼儀は叩き込んであるはずだ」
青年は蒼白になりながらも、逃げられぬ現実にうなだれた。
ネザリア城・玉座の間――
漆黒の玉座から、せつなが低く静かな声で告げる。
『じゅぴ、リィナ。攻撃の準備を整えろ』
じゅぴが即座に軽やかに手を挙げる。
「はーいっ、了解っすよ〜♡ 完璧に仕上げてくるっす!」
リィナも瞳を輝かせる。
「ぼくも手伝うよ、せつな♡ 次もいっぱい殺ってあげるからね……♪」
「はぁ? あんた、また"殺す"しかできないんすか? 芸がないっすねぇ〜?」
じゅぴが楽しげに笑いながら煽った。
「殺せば終わりでしょ? それが最適解だよぉ。頭が空っぽの"お飾り"には分かんないかなぁ?」
リィナの笑顔は毒を帯びている。
「……ちょっと待てっす。今、お飾りって言ったっすか?」
「事実でしょ? "後ろで魔法振ってるだけの小動物さん"?」
「ぐぬっ……! この影メイド……」
『――喧嘩はその辺にしておけ』
せつなの一言で、空気がピタリと止まった。
「はーい……」「はぁい……」
王都・東門――
青年官吏は、震える手綱を握って馬に跨った。
(……なぜ私が……)
だが逃げる道はない。後ろから押し出されるように、馬が動き出す。
(私は……殺されるのか……? いや、それどころでは済まないかもしれない……)
吐き気と恐怖に耐えながら、彼はゆっくりと門を出た。
向かう先には、漆黒の城――ネザリアが、不吉な影を落として待っていた。




