【目撃と報告】
【目撃と報告】
ネザリア城・兵詰所――
「……もう、誰も……いない……」
魔導スクリーンの前で、ひとりの兵が呟いた。
そこに映るのは、血と肉と、黒い影に沈んだ“かつての軍”。
無数の屍。内臓。焼け焦げた骨。吹き飛んだ腕。
まるで悪夢の終点――
その中心に、漆黒の王が立っていた。
「信じられん……こんな……こんな戦場が……」
「全滅だ……戦いじゃない。“処刑”だ」
「隊長……俺たちは、あんなのに……」
グレンはスクリーンを見つめたまま、言葉を失っていた。
背後で、誰かが足音を忍ばせるように現れる。
「……せつな様に楯突くからよ」
静かに、柔らかく囁くような声。
セリナだった。
その瞳は、感情を秘めながらも――どこか冷えていた。
「ここに来て、あの玉座を前にして、まだ牙を剥くっていうのは……救いようのない愚かさよ」
誰も、反論しなかった。
王国・王城――玉座の間
「ふむ、予定通り進んでいるな。部隊は今頃、あの城へ到達している頃か」
「三部隊を投じた。いかに異形の城でも、潰れるには十分だろう」
「まあ、多少の犠牲はあるだろうが……威信を取り戻せばよいのだ」
赤絨毯の上、玉座の前で談笑していた上層部たち。
誰も疑わなかった。自らの判断を、軍の正義を、戦争の必然を。
だが――
ズゥウウン……!
転移の魔法陣が床に展開される。
「ん? !なんだこれは?!」
瞬間、空間が歪み、血の塊が転がり込んだ。
指揮官だった。
片腕はなく、鎧は砕け、顔面は血にまみれて崩れ落ちていた。
「な、なんだこの――」
「……帰って、きた……?」
「し、指揮官……?」
誰かが名を呼んだとき。
彼の体がビクン、と跳ねた。
口がわななく。瞳が見開かれ――
「……全滅……」
「なに?」
「た、隊は……全滅……奴に……兵が……全部……全部殺された……ッ!!」
呻きのような声が、広間に響く。
「あれは、戦じゃない……殺戮だ……ひ、ひぃ……」
血の涙を流し、這い寄るように玉座へ向かっていく。
「お……王に……伝えてくれと……!」
「奴が……“次は出向く”と……!!」
「逃げられない……も、もう……あれは……っ、あれは、“神罰”だ……ッ!!」
その瞬間――
ズドォン!!
衝撃音。
指揮官の身体が、内側から炸裂した。
血と肉と骨が、玉座の間に撒き散らされ、上層部たちは悲鳴を上げて崩れ落ちる。
「な……何が……!?」
「ば、爆発……!?」
「し、仕掛けられていたのか……!?」
惨状の中心、玉座の足元に、血の池が広がっていく。
その中で、指揮官の最後の言葉だけが――
王たちの脳裏に、深く、深く焼き付いていた。
――“次は、こちらから出向く”――
王国・軍務院本部――
玉座の間での爆発から、数時間。
王都の中枢は、混乱の渦中にあった。
「……全滅……?」
「三部隊すべて、か……!? そんな馬鹿な……」
赤絨毯には、いまだ血の跡が生々しく残る。
兵たちはその場を拭いながらも、震えていた。
上官たちは顔を蒼白にし、互いに責任を擦り付け合う。
「情報封鎖しろ、今すぐだ! 王国中に漏らすな!」
「……だが目撃者もいる、封鎖しきれるわけが――」
「そ、それよりあの“漆黒の王”とやらが……本当に出向いてきたら……!」
「な、何が起きる……王国が、落ちるのか……?」
玉座の上、老いた王は沈黙を保ったまま。
だがその両肩は、かすかに、だが確かに震えていた。
“正義”と“威信”の名の下で始めた戦争は、
わずか数時間で、“報復”という名の破滅に姿を変えた。
ネザリア城・兵詰所――
魔導スクリーンが沈黙し、闇の静寂が戻る。
死の演舞を、ただ見るしかなかった兵たちは、
誰ひとりとして口を開けなかった。
その中で――
「これが……漆黒の王……」
「せつな様……俺たちは、あの方に命を預けているのか……」
誰かの呟きが、全員の胸に染みた。
廊下の先――
バトルメイドたちが、血の滴る衣を整えながら帰還していた。
リィナは指先を舐めながら、くるりと回る。
「ぜ〜んぶ、終わったよ。いっぱい殺せて、楽しかったぁ……」
瞳は紅く輝き、笑顔は蕩けていた。
すれ違う兵の一人が、その視線に思わず身をすくませた。
じゅぴは制御室で、最後の戦果ログを整理していた。
「いや〜♡ 見事なデータっすねぇ♡」
モニター越しのグレンたちを見て、ふっと表情を緩める。
「ねぇ隊長さん……見たっすよね、“あの差”を」
「でも、そうやって震えながらでも――
せつなに命預けたこと、後悔はしてないって、顔してたっすよ?」
甘く、冷たい声音。けれど、そこには確かな尊敬が滲んでいた。
応接室――
セリナは沈黙のまま立っていた。
スクリーンに焼きついた惨状が、瞳の奥に残っている。
「……せつな様に逆らえば、こうなる。どれだけ“力”があっても、どうにもならない」
「……だから、“あの方の側”で、生きる。それだけよ」
それは、忠義。けれどそれ以上に――“本能的な服従”。
誰もが、今日知ったのだ。
この世界には、“絶対に逆らってはいけない存在”がいると。
漆黒の王――
静まり返った玉座の間で、せつなはただ一人、座していた。
言葉もなく、視線を投げるでもなく。
だが、その存在そのものが“支配”を体現していた。
あの日から、ネザリアはもはや“城”ではない。
“王国を飲み込む闇”として、確かに歩み始めていた――。
初の戦闘シーンでした!いかがでしたか?
うまく表現できてるといいんですが・・・・




