【報告者の使命】
【報告者の使命】
王国軍・後衛陣地――
「う、うわああああああっ!!」
指揮官が這って逃げようとしたその瞬間――
ザクッ……!
漆黒の剣が、地面ごと容赦なく彼の足を貫いた。
悲鳴が、空に虚しく響く。
血が噴き出し、骨が砕ける感覚。
足に刺さったままの剣から、焼けるような痛みが広がる。
せつなはそのまま、静かに言い放つ。
『――ここで見ていろ』
「な、にを……ッ!?」
『貴様の兵が、“どう死ぬか”をだ』
その一言に、空気が凍った。
戦場――
影が、走る。
黒い異形が、走り出すたびに、王国兵が“消える”。
首を裂かれ、心臓を潰され、背を折られる。
見えない。避けられない。理解もできない。
「ひ、ひいいッ!」
「く、来るな、来るなぁあ!!」
逃げ出した数名の兵が、必死に森の方へ駆け出す。
だが――
「ふふっ……“待って”って言ったのに」
影の中からリィナが現れる。
満面の笑顔で、血に濡れた短剣をひらりと舞わせる。
「じゃあ、“躾”だね♡」
その言葉と共に、逃げた兵の首が順に落ちていく。
切るのではない、“遊ぶように剥ぐ”。
喉を裂き、内臓をばら撒きながら、笑顔のままリィナは囁く。
「死ぬ時は、静かにしようね?」
一方で――
「はい、そこの小隊、ちょっと密集しすぎ♡
じゃ、“爆ぜて”もらおうかな〜?」
じゅぴの声が、空から降り注ぐ。
魔導空間越しに展開された誘導雷撃。
完全に制御された誘爆魔法が、敵兵の上にピンポイントで炸裂する。
「あははっ♡ 何人飛んだっすかねぇ? ♡」
にこにこしながら、次の魔法制御に移るじゅぴの目は、完全に“上機嫌”。
バトルメイドたちもまた、まるで舞うように殺していた。
殺戮を“作法”のようにこなし、血の中に優雅さすら漂わせる異形の女たち。
そして――
静寂が訪れた。
指揮官を除くすべての王国兵が、死んだ。
ただの死ではない。“原形をとどめないほど”の死。
血と肉と骨が、戦場を覆い尽くす。
地面は赤黒く染まり、鉄と内臓の臭いが空を満たす。
その中心で、せつなは動かない。
まるでそれが、“予定された風景”であるかのように。
「ひっ……ひぃ……ッ、あ、ああああ……ッ!!」
指揮官は声にならない声を上げた。
肩を震わせ、歯を鳴らし、目は恐怖で見開かれ、
口の端からは涎が垂れていた。
せつなは、ゆっくりとその前に立つ。
紅の眼が、絶望に染まった男を見下ろす。
『……さて、指揮官よ』
『貴様には、“少しだけ”仕事をしてもらおう』
「……ぁ……」
『王に報告しろ。』
『我が城を攻め、兵を失い、何も得られず、
残ったのは、“地獄のような敗北”だけだと――』
『そして、伝えろ。次は――我が、そちらへ出向く』
その言葉は、死の通告以上の絶望を孕んでいた。
指揮官の体ががくりと揺れる。
意識が遠のきながらも、その言葉だけは脳裏に焼き付く。
――せつなが静かに、指先を動かした。
影が、わずかに指揮官の胸元へ“何か”を滑り込ませる。
魔力も気配も封じられた“封呪式”。
誰にも気づかれないように、“仕掛け”は埋め込まれた。
“報告”が完了した後。
指揮官が全てを語り終えた“その瞬間”――
その身体は、“爆ぜる”。
本人は気づかない。
誰にも、それは防げない。
それは、“口封じ”であり、“火種”でもある。
漆黒の王は、最後に一言だけ告げた。
『……行け』
その命令と共に、影が指揮官の身体を包み、転移魔法が起動した。
血と絶望の地獄を背に、指揮官の姿は掻き消えた。
――そして、戦場に残されたのは、
言葉では表現しきれない“静寂と死”だけだった。




